黒い箱を届けに来たロボットは、なかなか帰ろうとしなかった。
「もうキミの仕事は終わったただろう?」
それでもロボットは完全な笑顔のまま動かない。
私は無視して部屋に入り、箱を開けようとした。
だが、それはできなかった。
箱には隙間がなく、ナイフを当てても、床にぶつけても、何の変化もなかったのだ。
私は諦めて再び玄関に向うことにした。予想通り配達ロボットはそこにいた。
「この箱を開けてくれ」
ロボットは黒い箱を食べ、数十秒後に排泄した。出てきたのは手紙だった。
2002年12月27日金曜日
A ROC ON A PAVEMENT
いつもの道にちょっと大きな石があった。
道のまんなかにわざと置いたようで気になった。
翌日もまったく同じ場所に石はあった。
しかし、同じ石がもう一つ積んであった。
何度も確かめたがやっぱり同じ石が二つ重なっている。
一日ごとに石は高くなっていき、一月もすると人の背丈をはるかに越えた。
町は大騒ぎになったが、何をしても石は崩れなかった。
ある日、石は跡形もなく消えていた。
そのかわり、町にはウサギが大発生した。
もちろん、みんな同じ顔をしている。
道のまんなかにわざと置いたようで気になった。
翌日もまったく同じ場所に石はあった。
しかし、同じ石がもう一つ積んであった。
何度も確かめたがやっぱり同じ石が二つ重なっている。
一日ごとに石は高くなっていき、一月もすると人の背丈をはるかに越えた。
町は大騒ぎになったが、何をしても石は崩れなかった。
ある日、石は跡形もなく消えていた。
そのかわり、町にはウサギが大発生した。
もちろん、みんな同じ顔をしている。
2002年12月26日木曜日
どうして酔よりさめたか?
あんまり酔っ払って公園のベンチで寝てしまった。
「もし、あなた。こんなところで寝ていると、連れていってしまいますよ」
「……誰が?」
「わたしが」
「アンタだれ?」
「わたし死神」
それが冗談でないことは、彼の足元を見れば明らかだった。私はいっぺんに目が覚めた。
「規則違反ですから、私はすぐ帰ります」
「はぁ、どうもご親切に」
死神なんてもう会いたくないな、と呟いたら
「嫌でももう一度会いますよ」
と言われた。その声は、なぜだか懐かしくて、あと一度だけなら会ってもいいような気がした。
「もし、あなた。こんなところで寝ていると、連れていってしまいますよ」
「……誰が?」
「わたしが」
「アンタだれ?」
「わたし死神」
それが冗談でないことは、彼の足元を見れば明らかだった。私はいっぺんに目が覚めた。
「規則違反ですから、私はすぐ帰ります」
「はぁ、どうもご親切に」
死神なんてもう会いたくないな、と呟いたら
「嫌でももう一度会いますよ」
と言われた。その声は、なぜだか懐かしくて、あと一度だけなら会ってもいいような気がした。
2002年12月24日火曜日
2002年12月23日月曜日
2002年12月21日土曜日
2002年12月20日金曜日
2002年12月18日水曜日
THE WEDDING CEREMONY
友人の結婚式の招待状が届いた。
招待状に書いてあった通り、夜の八時に出掛けていった。
夜の教会というのは、寂しく荘厳で、不気味でさえある。
十字架が大きくなるにつれて気分は沈んでいった。
なかに入ると薄暗く、ほかの人の顔を確認することはできなかった。
月明かりはまっすぐ、神父だけを照らしていた。
神父が眩しそうに目を細めると、新婦は新郎の首にくちびるを寄せた……。
はじめのうちは憂鬱な気分だったが、なかなか良い式だったと思いながら家路についた。
最後まで友人の妻となった人の顔は見えなかったけれど。
招待状に書いてあった通り、夜の八時に出掛けていった。
夜の教会というのは、寂しく荘厳で、不気味でさえある。
十字架が大きくなるにつれて気分は沈んでいった。
なかに入ると薄暗く、ほかの人の顔を確認することはできなかった。
月明かりはまっすぐ、神父だけを照らしていた。
神父が眩しそうに目を細めると、新婦は新郎の首にくちびるを寄せた……。
はじめのうちは憂鬱な気分だったが、なかなか良い式だったと思いながら家路についた。
最後まで友人の妻となった人の顔は見えなかったけれど。
2002年12月16日月曜日
2002年12月15日日曜日
2002年12月14日土曜日
AN INCIDENT IN THE CONCERT
クリスマスの電飾が賑やかな家の角に黒ヘルメットを被った人がいた。
私が角を曲がると黒ヘルメットはついてきた。
「何の用だ?」
「あれは何だ?あのピカピカは何だ?」
子供の声だった。私はなるべく平静に答えた。
「あれはクリスマスの飾りだよ。今日はクリスマスイブだからな」
「クリスマス……サンタが来るのか?おれにも来るか?」
黒ヘルメット以外ひどく貧しいことに気付き少し迷ったが私はこう言った。
「いい子にしてればな。そうだ、おじさんの家に来るかい?」
「行く」
こうして私は子持ちになった。
私が角を曲がると黒ヘルメットはついてきた。
「何の用だ?」
「あれは何だ?あのピカピカは何だ?」
子供の声だった。私はなるべく平静に答えた。
「あれはクリスマスの飾りだよ。今日はクリスマスイブだからな」
「クリスマス……サンタが来るのか?おれにも来るか?」
黒ヘルメット以外ひどく貧しいことに気付き少し迷ったが私はこう言った。
「いい子にしてればな。そうだ、おじさんの家に来るかい?」
「行く」
こうして私は子持ちになった。
2002年12月12日木曜日
見てきたようなことを云う人
『スターダスト』で見知らぬ男に声をかけられた。
「ドーナツの穴に入ったことはありますか?」
彼は物静かな口調で問うてきたが
私は応えようがなくて黙っていた。
「あれは、素晴らしい世界の入り口です。そこは甘く切ない香で満ちていました。人々はみな笑顔です。夢のような光景が広がっていました。そして空には青い宝石のような地球!」
段々芝居掛かってきた。
「ああ!誰もが心ときめく世界!あなたもきっと行けるはず!ラララ ワンダフルワールド!」
最後は歌いながら去っていった。
それ以来、ドーナツが食べられない。
「ドーナツの穴に入ったことはありますか?」
彼は物静かな口調で問うてきたが
私は応えようがなくて黙っていた。
「あれは、素晴らしい世界の入り口です。そこは甘く切ない香で満ちていました。人々はみな笑顔です。夢のような光景が広がっていました。そして空には青い宝石のような地球!」
段々芝居掛かってきた。
「ああ!誰もが心ときめく世界!あなたもきっと行けるはず!ラララ ワンダフルワールド!」
最後は歌いながら去っていった。
それ以来、ドーナツが食べられない。
2002年12月11日水曜日
友だちがお月様に変わった話
友達の家に遊びに行った。
チャイムを鳴らし、まもなく出てきたのはお月さまだったので
「やぁ、お月さまも来ていたんですか!」
と言った。
「何言っているんだよ?」
とお月さまは友達の声で言った。
彼は鏡を見てショックを受けていた。自分の姿が月なのだ。
とにかく本物のお月さまに会いに行くことにする。
『スターダスト』に行くとお月さまもひどく驚いたようだった。
店の中でも店を出た後も我々はジロジロと見られ、私は複雑な心持ちがした。
注目を浴びたのは、お月さまになった彼ではなく、お月さまに挟まれた私だったのだ。
チャイムを鳴らし、まもなく出てきたのはお月さまだったので
「やぁ、お月さまも来ていたんですか!」
と言った。
「何言っているんだよ?」
とお月さまは友達の声で言った。
彼は鏡を見てショックを受けていた。自分の姿が月なのだ。
とにかく本物のお月さまに会いに行くことにする。
『スターダスト』に行くとお月さまもひどく驚いたようだった。
店の中でも店を出た後も我々はジロジロと見られ、私は複雑な心持ちがした。
注目を浴びたのは、お月さまになった彼ではなく、お月さまに挟まれた私だったのだ。
2002年12月10日火曜日
THE BLACK COMET CLUB
「旦那、黒彗星クラブに入りやせんか」
ウサギが突然訪ねてきてそう言った。
「なんだい?そのクロナントカっていうのは」
「月に対抗する集まりですわ。例えば新月祭り、満月の外出禁止、月を好む人を迫害……」
私は唖然とした。
「メチャクチャじゃないか!第一そんなことをしてもお月さまはちっとも困らないぞ」
ウサギは私の剣幕に驚いてか、すごすごと帰っていった。
数時間後、あちこちの貼り紙を見てクックと笑ってやった。
《ウサギにご用心。当THE BLACK COMET CLUBは天体観測サークルです。黒彗星クラブとは一切関係ありません》
ウサギが突然訪ねてきてそう言った。
「なんだい?そのクロナントカっていうのは」
「月に対抗する集まりですわ。例えば新月祭り、満月の外出禁止、月を好む人を迫害……」
私は唖然とした。
「メチャクチャじゃないか!第一そんなことをしてもお月さまはちっとも困らないぞ」
ウサギは私の剣幕に驚いてか、すごすごと帰っていった。
数時間後、あちこちの貼り紙を見てクックと笑ってやった。
《ウサギにご用心。当THE BLACK COMET CLUBは天体観測サークルです。黒彗星クラブとは一切関係ありません》
2002年12月9日月曜日
2002年12月8日日曜日
2002年12月7日土曜日
黒猫を射ち落とした話
「あの電信柱のてっぺんにいる猫を狙ってください」
言われた通り弓矢を持って駆け付けると
お月さまはかなり焦っていた。
はやくとせかされ、八本も外してしまう。
ようやく九本目、猫に矢が刺さった。
血は流れず、矢にもやもやとしたものが集まるのが見えた。
やがて矢は猫の体から抜けて空へ飛んでいった。
「悪い星に取りつかれたんです。手遅れにならなくてよかった」
落ちてきた黒猫は傷もなく、幸せそうに寝ていた。
「明日には目覚めるでしょう」
黒猫はお月さまに抱かれて行ってしまった。
言われた通り弓矢を持って駆け付けると
お月さまはかなり焦っていた。
はやくとせかされ、八本も外してしまう。
ようやく九本目、猫に矢が刺さった。
血は流れず、矢にもやもやとしたものが集まるのが見えた。
やがて矢は猫の体から抜けて空へ飛んでいった。
「悪い星に取りつかれたんです。手遅れにならなくてよかった」
落ちてきた黒猫は傷もなく、幸せそうに寝ていた。
「明日には目覚めるでしょう」
黒猫はお月さまに抱かれて行ってしまった。
2002年12月6日金曜日
A TWILIGHT EPISODE
いつもより二時間早く家を出た。
夜明けの町を歩くのはスクリーンの中にいるようで気恥ずかしい。
靴音とともに背筋も伸びる。
前からやってくるのは牛乳配達ロボットだ。
「オハヨーゴザいます」
「やぁ、おはよう」
今度は新聞配達の異星人だ。
「おはよう」
「……」
なかなか愛想がいい。角が青く光ったから。
あれは俺の親父だ。
「父さん、おはよう」
無視。まぁ仕方ない。幽霊だし。
あ、お月さまだ。
酔っ払っている。すれ違わないようにこの角を曲がろう。
夜明けの町を歩くのはスクリーンの中にいるようで気恥ずかしい。
靴音とともに背筋も伸びる。
前からやってくるのは牛乳配達ロボットだ。
「オハヨーゴザいます」
「やぁ、おはよう」
今度は新聞配達の異星人だ。
「おはよう」
「……」
なかなか愛想がいい。角が青く光ったから。
あれは俺の親父だ。
「父さん、おはよう」
無視。まぁ仕方ない。幽霊だし。
あ、お月さまだ。
酔っ払っている。すれ違わないようにこの角を曲がろう。
2002年12月4日水曜日
煙突から投げこまれた話
お月さまを迎えにいこうと夕暮れの『黒猫の塔』に向かった。
街灯に寄り掛かり煙突を見上げてどれくらいたっただろうか。
だいぶあたりが暗くなってきたと思うと煙突の真上の空で何か光が見えた。
その光はどんどん大きくなり、光に吸い込まれるような気がして目を逸らすことができない。
そのうちに見上げた空は光でいっぱいになり……
「どこか痛いところはありませんか?」
「はぁ……ここは……どこですか?」
「『黒猫の塔』の中ですよ。煙突から落ちてきたので驚きましたよ」
お月さまの目がキラリと光った。まるで猫の目みたいだった。
街灯に寄り掛かり煙突を見上げてどれくらいたっただろうか。
だいぶあたりが暗くなってきたと思うと煙突の真上の空で何か光が見えた。
その光はどんどん大きくなり、光に吸い込まれるような気がして目を逸らすことができない。
そのうちに見上げた空は光でいっぱいになり……
「どこか痛いところはありませんか?」
「はぁ……ここは……どこですか?」
「『黒猫の塔』の中ですよ。煙突から落ちてきたので驚きましたよ」
お月さまの目がキラリと光った。まるで猫の目みたいだった。
2002年12月3日火曜日
THE MOONRIDERS
近ごろ「ムーンライダース」なる暴走族が取り沙汰されている。
爆音を撒き散らしながら夜の住宅街を駆け巡る。
ところが住民は大喜びなのだ。
「ムーンライダース」が通った夜から三日は赤ん坊が夜泣きしないという。
その噂を聞き付けた隣町住民は「ムーンライダース誘致作戦」を展開しはじめた。
「ムーンライダース」と関係が深いと見られる男は沈黙を守っている……。
「この『男』っていうのはあなたでしょう?実際はどうなんですか?」
新聞を見せながらお月さまに聞いたが答えはやはり沈黙だった。
爆音を撒き散らしながら夜の住宅街を駆け巡る。
ところが住民は大喜びなのだ。
「ムーンライダース」が通った夜から三日は赤ん坊が夜泣きしないという。
その噂を聞き付けた隣町住民は「ムーンライダース誘致作戦」を展開しはじめた。
「ムーンライダース」と関係が深いと見られる男は沈黙を守っている……。
「この『男』っていうのはあなたでしょう?実際はどうなんですか?」
新聞を見せながらお月さまに聞いたが答えはやはり沈黙だった。
2002年12月2日月曜日
2002年12月1日日曜日
電燈の下をへんなものが通った話
「あ、今あそこに何か通った」
「どこ?」
「電燈の下。ほらあそこになんかへん……」
「ほんとだ。へんなものだ」
「なんだろ、あれ」
「へんなものだよ」
「へんなのは、見ればわかるよ」
「だからへんなものだよ」
若人の友情が壊れないかと心配になったが
「通称へんなもの」の正体を教えてやることはできない。
やっかいな約束をしてしまったのだ、お月さまと。
「どこ?」
「電燈の下。ほらあそこになんかへん……」
「ほんとだ。へんなものだ」
「なんだろ、あれ」
「へんなものだよ」
「へんなのは、見ればわかるよ」
「だからへんなものだよ」
若人の友情が壊れないかと心配になったが
「通称へんなもの」の正体を教えてやることはできない。
やっかいな約束をしてしまったのだ、お月さまと。
2002年11月30日土曜日
2002年11月28日木曜日
THE MOONMAN
少年は月を眺めるのが大好きだった。
彼の部屋の小さな窓から月が去るのをひとしきり惜しんでから、ようやく少年はベッドに向かうのだった。
ある晩、月から一本のロープが垂れているのに気が付いた。
するとそのロープを伝って男が下りてくるのが見えた。
それは一瞬の事だったけれども、彼は疑いは微塵も持たなかった。
「あのおじさんはどこに行くのだろう。ぼくに会いにきてくれないかな」
坊や、月のおじさんはこれからお酒を飲みにいくんですよ。
坊やに「目撃」されたことを肴にね!
彼の部屋の小さな窓から月が去るのをひとしきり惜しんでから、ようやく少年はベッドに向かうのだった。
ある晩、月から一本のロープが垂れているのに気が付いた。
するとそのロープを伝って男が下りてくるのが見えた。
それは一瞬の事だったけれども、彼は疑いは微塵も持たなかった。
「あのおじさんはどこに行くのだろう。ぼくに会いにきてくれないかな」
坊や、月のおじさんはこれからお酒を飲みにいくんですよ。
坊やに「目撃」されたことを肴にね!
2002年11月27日水曜日
2002年11月26日火曜日
水道へ突き落とされた話
悪臭と轟音に目覚めた時、自分がどこにいるのか分からなかった。
見上げると満月が明るく、まだ夜中なのだと思った。
数秒もしない内に現実に気付く。
月なんかじゃない!あれはマンホールだ!ここは水道だ!
そうだ。あのマンホールから何者かに突き落とされて気を失っていたのだ。
「マンホールからの光を私と間違えた、ですと?けしからんな」
夢の話だと言っているのに、なかなかお月さまは許してくれなかった。
見上げると満月が明るく、まだ夜中なのだと思った。
数秒もしない内に現実に気付く。
月なんかじゃない!あれはマンホールだ!ここは水道だ!
そうだ。あのマンホールから何者かに突き落とされて気を失っていたのだ。
「マンホールからの光を私と間違えた、ですと?けしからんな」
夢の話だと言っているのに、なかなかお月さまは許してくれなかった。
2002年11月25日月曜日
はたして月へ行けたか
「さてと。では行ってくるよ」
行き先は?と聞いたら「ちょっと月まで」なんて便所にでも行くような口振りで友が出て行った日は、今日と同じような落葉も濡れる秋の雨の晩だった。
「月、出てないじゃないか」としか言えなかった俺も馬鹿だったがお前はもっと馬鹿だったよ。
となりで飲んでるお月さまにお前の消息を聞けずにいる俺は二十年経っても、やっぱり馬鹿なままだな。
行き先は?と聞いたら「ちょっと月まで」なんて便所にでも行くような口振りで友が出て行った日は、今日と同じような落葉も濡れる秋の雨の晩だった。
「月、出てないじゃないか」としか言えなかった俺も馬鹿だったがお前はもっと馬鹿だったよ。
となりで飲んでるお月さまにお前の消息を聞けずにいる俺は二十年経っても、やっぱり馬鹿なままだな。
2002年11月23日土曜日
2002年11月22日金曜日
星でパンをこしらえた話
「食べてみてください。私が作りました」
お月さまは紙袋からパンを取り出した。
私と『スターダスト』のマスターは興味津々で手を伸ばした。
パンを食べて驚く我々を見てお月さまは得意気に言った。
「作り方をお教えしましょう。材料は私が用意しますから」
翌日、開店前の『スターダスト』にお月さまは荷物を抱えてやってきた。
「活きのいい星をたくさん持ってきましたよ!さぁパンを作りましょう!」
新鮮な星は暴れるので粉にするのは難儀だったが、おかげでたくさんのパンが焼けた。さて、このパンを誰と食べようか?
お月さまは紙袋からパンを取り出した。
私と『スターダスト』のマスターは興味津々で手を伸ばした。
パンを食べて驚く我々を見てお月さまは得意気に言った。
「作り方をお教えしましょう。材料は私が用意しますから」
翌日、開店前の『スターダスト』にお月さまは荷物を抱えてやってきた。
「活きのいい星をたくさん持ってきましたよ!さぁパンを作りましょう!」
新鮮な星は暴れるので粉にするのは難儀だったが、おかげでたくさんのパンが焼けた。さて、このパンを誰と食べようか?
2002年11月21日木曜日
自分を落としてしまった話
家に帰ると部屋に白い箱があった。
中を覗くと、小さな白い箱を覗いている小さな人がいた。
その人を摘みあげるのと同時に自分も宙に浮いた。
恐怖のあまり摘んだ人を落としてしまった。
私は床に強く叩きつけられた。
見上げないほうがいい
見上げてはならぬ。
中を覗くと、小さな白い箱を覗いている小さな人がいた。
その人を摘みあげるのと同時に自分も宙に浮いた。
恐怖のあまり摘んだ人を落としてしまった。
私は床に強く叩きつけられた。
見上げないほうがいい
見上げてはならぬ。
2002年11月20日水曜日
ガス燈とつかみ合いをした話
「前から気になってたんだが、おたく独り言が多いよ。黙って聞いてりゃ人の悪口ばかり言いおって」
そんな声が聞こえて見回したが誰もいない。
「誰だか教えてやろう、あんたの右側にいるガス燈だよ」
私はガス燈につかみかかったが、びくともしなかった。
明くる朝、白いお月さまにこの話をしたら
「黒猫にはご用心」
とあくびしながら応えた。
すると黒い影がすっと横切った。
「本当だ!」
例のガス燈は三日寝込んだらしい。
そんな声が聞こえて見回したが誰もいない。
「誰だか教えてやろう、あんたの右側にいるガス燈だよ」
私はガス燈につかみかかったが、びくともしなかった。
明くる朝、白いお月さまにこの話をしたら
「黒猫にはご用心」
とあくびしながら応えた。
すると黒い影がすっと横切った。
「本当だ!」
例のガス燈は三日寝込んだらしい。
2002年11月19日火曜日
星?花火?
「昨日の夜、バーン バーンってうるさくってさあ。こんな寒いのに花火ってことはないと思うんだけど」
そんな話し声を耳にして、昨晩の出来事をよく思い出してみる。
確かに音が聞こえたけれど、もう布団の中で眠りかけていたからあまり気にならなかった。
どこかの若者が、花火でもやっているのかと思ったから。
何時間後かわからないが、そのあとフト目が覚めた時、部屋がやけに明るくて、窓を開けてみたらキラキラ輝くゴミが降っていた。
ちり紙とか、ラジオとか。ちびた鉛筆とか、底抜けの鍋とか。
とても綺麗だったので、そのあと15分くらいそれを眺めた。
「バーン」という音は、ずいぶん遠くで聞こえたから、たぶんそこでも数時間後にゴミが降るのだろう。
そんなイタズラをするのは、流星と黒猫に決まってる。
でも、それは誰にも言わないでおこう。信じてくれる人はいない。
なにせ、降ってきたゴミは朝にはさっぱり消えていたから。
そんな話し声を耳にして、昨晩の出来事をよく思い出してみる。
確かに音が聞こえたけれど、もう布団の中で眠りかけていたからあまり気にならなかった。
どこかの若者が、花火でもやっているのかと思ったから。
何時間後かわからないが、そのあとフト目が覚めた時、部屋がやけに明るくて、窓を開けてみたらキラキラ輝くゴミが降っていた。
ちり紙とか、ラジオとか。ちびた鉛筆とか、底抜けの鍋とか。
とても綺麗だったので、そのあと15分くらいそれを眺めた。
「バーン」という音は、ずいぶん遠くで聞こえたから、たぶんそこでも数時間後にゴミが降るのだろう。
そんなイタズラをするのは、流星と黒猫に決まってる。
でも、それは誰にも言わないでおこう。信じてくれる人はいない。
なにせ、降ってきたゴミは朝にはさっぱり消えていたから。
2002年11月18日月曜日
TOUR DE CHAT-NOIR
「黒猫の塔」と呼ばれる場所がある。
しかし、それは「塔」と呼ぶのが恥ずかしいような小さな建物で、なぜそれが「塔」なのかは判らなかった。
「あのうち、何て呼ばれているか、ご存知ですか?」
『スターダスト』からの帰り道、散歩がてらの遠回りお月さまに聞いてみた。
「黒猫の塔、でしょう?もちろん知っていますよ。私がそう呼んだのだから」
私が少し驚いた顔をしたのを見てお月さまは微かに笑った。
「黒猫について入ると、延々階段が続きましてね。それはもう、息が上がってしまって。ひどい目に合いました」
「黒猫がいない時は?」
「ただの空家。 入ってみますか?」
そのとき、ちらりと二つの光が見えた。
「……遠慮しておきます」
今度はとても愉快そうに笑った、お月さま。
しかし、それは「塔」と呼ぶのが恥ずかしいような小さな建物で、なぜそれが「塔」なのかは判らなかった。
「あのうち、何て呼ばれているか、ご存知ですか?」
『スターダスト』からの帰り道、散歩がてらの遠回りお月さまに聞いてみた。
「黒猫の塔、でしょう?もちろん知っていますよ。私がそう呼んだのだから」
私が少し驚いた顔をしたのを見てお月さまは微かに笑った。
「黒猫について入ると、延々階段が続きましてね。それはもう、息が上がってしまって。ひどい目に合いました」
「黒猫がいない時は?」
「ただの空家。 入ってみますか?」
そのとき、ちらりと二つの光が見えた。
「……遠慮しておきます」
今度はとても愉快そうに笑った、お月さま。
2002年11月17日日曜日
AN INCIDENT IN THE CONCERT
いくら照明が落ちていると言っても、突然訪れた闇に観客は少なからず動揺し会場内は騒然となった。
しかし、ピアノは何の躊躇いもなく調べを奏で続けている。
むしろ先刻までより生き生きと。
それに気付いた一部の観客がステージの方を見つめる。
やがてほかの大勢も闇に慣れるにつれて落ち着きを取り戻す。
いつのまにか月明かりを頼りに全員がピアニストを黙って見つめていた。
「あのピアニストは猫なんだって」
「まっくらな中で、確かにしっぽが揺れるのを見たんだとさ!」
小さな町のうわさ話。
しかし、ピアノは何の躊躇いもなく調べを奏で続けている。
むしろ先刻までより生き生きと。
それに気付いた一部の観客がステージの方を見つめる。
やがてほかの大勢も闇に慣れるにつれて落ち着きを取り戻す。
いつのまにか月明かりを頼りに全員がピアニストを黙って見つめていた。
「あのピアニストは猫なんだって」
「まっくらな中で、確かにしっぽが揺れるのを見たんだとさ!」
小さな町のうわさ話。
2002年11月16日土曜日
星を食べた話
「いらっしゃいませ。今晩は星屑シャーベットをお召し上がりください」
「星屑シャーベット?」
「本物の星屑のシャーベットです。年に一度しか手に入らないので本日限定、です」
そういって『スターダスト』のマスターは小さなガラスの器を出した。
薄暗い店の中でも、キラキラと眩しくほんのり酸味の利いたシャーベット。
「冬にシャーベットじゃあ、嫌がる人もいるでしょう?」
「私も色々と試してみたんですが……温めるとそれはもう、まずいんです。びっくりするくらい」
「へえ! 星屑ってどうやって手に入れるの?」
「これは、秘密なんですが……。うちの冷凍庫に出現するのです」
小さな器に乗ったシャーベットは、ほんの数口で食べ終わった。
「それはすごい!よくこれが星屑だとわかりましたね」
「それはお月さまが、こっそり」
「なるほどね」
マスターはそわそわと口を開いた。
「それで、シャーベットはどんなお味でしたか?」
「え?甘酸っぱくておいしかったよ」
「このシャーベット、食べる人によって味が変わるんです」
「星屑シャーベット?」
「本物の星屑のシャーベットです。年に一度しか手に入らないので本日限定、です」
そういって『スターダスト』のマスターは小さなガラスの器を出した。
薄暗い店の中でも、キラキラと眩しくほんのり酸味の利いたシャーベット。
「冬にシャーベットじゃあ、嫌がる人もいるでしょう?」
「私も色々と試してみたんですが……温めるとそれはもう、まずいんです。びっくりするくらい」
「へえ! 星屑ってどうやって手に入れるの?」
「これは、秘密なんですが……。うちの冷凍庫に出現するのです」
小さな器に乗ったシャーベットは、ほんの数口で食べ終わった。
「それはすごい!よくこれが星屑だとわかりましたね」
「それはお月さまが、こっそり」
「なるほどね」
マスターはそわそわと口を開いた。
「それで、シャーベットはどんなお味でしたか?」
「え?甘酸っぱくておいしかったよ」
「このシャーベット、食べる人によって味が変わるんです」
2002年11月15日金曜日
箒星を獲りに行った話
ラジオから「箒星情報」が連日流れている。冬になると皆必死だ。
「本日ぽんぽこ山方面に出現するとみられます。捕獲に向う人は火箸を忘れずに。みなさまからの箒星情報もお待ちしています。FMアポロ!05-25#まで」
ぽんぽこ山は歩いて行ける。すぐに重装備で出かけた。
「そんな格好でどちら迄ですか?」
「あ、今晩は。箒星を探しに行くところで」
「箒星!そんなのいくらでも差し上げますよ!あんなものどうするんです?」
「火鉢の火種にするのですよ」
お月さまは最高品質の箒星をくれた。喜ぶ私を怪訝そうに見ていたが。
「本日ぽんぽこ山方面に出現するとみられます。捕獲に向う人は火箸を忘れずに。みなさまからの箒星情報もお待ちしています。FMアポロ!05-25#まで」
ぽんぽこ山は歩いて行ける。すぐに重装備で出かけた。
「そんな格好でどちら迄ですか?」
「あ、今晩は。箒星を探しに行くところで」
「箒星!そんなのいくらでも差し上げますよ!あんなものどうするんです?」
「火鉢の火種にするのですよ」
お月さまは最高品質の箒星をくれた。喜ぶ私を怪訝そうに見ていたが。
2002年11月13日水曜日
2002年11月12日火曜日
2002年11月11日月曜日
2002年11月10日日曜日
2002年11月9日土曜日
2002年11月8日金曜日
2002年11月7日木曜日
2002年11月6日水曜日
2002年11月5日火曜日
2002年11月4日月曜日
黒猫のしっぽを切った話
ふと気配を感じて窓に目をやると黒猫が網戸にへばりついていた。
「わたしのしっぽを切って欲しいのです」
しっぽを切る……?
「……えー。しっぽ切るって、ほらトカゲじゃないんだし痛いでしょう?それにぼくが切らなくても、ねぇ?」
「はさみを持って来て下さい」
震える手ではさみを探し出す。
猫が舐めるとはさみは倍の大きさになった。
「これはこのためのはさみなのです。
さぁ、時間がないのです。急いで!……早く!」
目をつむりエイ!とはさみを閉じた。
豆腐なような感触。目をあけるとしっぽは消えていたが、四十年振りの星空が現われた。
「わたしのしっぽを切って欲しいのです」
しっぽを切る……?
「……えー。しっぽ切るって、ほらトカゲじゃないんだし痛いでしょう?それにぼくが切らなくても、ねぇ?」
「はさみを持って来て下さい」
震える手ではさみを探し出す。
猫が舐めるとはさみは倍の大きさになった。
「これはこのためのはさみなのです。
さぁ、時間がないのです。急いで!……早く!」
目をつむりエイ!とはさみを閉じた。
豆腐なような感触。目をあけるとしっぽは消えていたが、四十年振りの星空が現われた。
2002年11月3日日曜日
SOMETHING BLACK
「夜はなぜ妙な気分になるのでしょう」
『スターダスト』のマスターがぽつりと言った。今夜は客が少ない。
こんな時は異国の顔を持つマスターとゆっくり話ができる。
「妙な気分というと?」
「人恋しくなったり、心静かになったり、泣きたくなったり」
「夜の種には気分の成分が入っているのです」
そう言ったのは風変わりな、やはり常連の男だった。
パイプを取出し手で擦ると黒い粒がコトンと現れた。
「それが夜の種、ですか?」
「さよう」
黒い粒を両手でぱちん!と潰した。
「孤独の種」
『スターダスト』のマスターがぽつりと言った。今夜は客が少ない。
こんな時は異国の顔を持つマスターとゆっくり話ができる。
「妙な気分というと?」
「人恋しくなったり、心静かになったり、泣きたくなったり」
「夜の種には気分の成分が入っているのです」
そう言ったのは風変わりな、やはり常連の男だった。
パイプを取出し手で擦ると黒い粒がコトンと現れた。
「それが夜の種、ですか?」
「さよう」
黒い粒を両手でぱちん!と潰した。
「孤独の種」
2002年11月2日土曜日
IT'S NOTHING ELSE
「まばたきをするたびにさ、なにかひとつ消えてるんだよ」
「でも、みんなまばたきは毎日何回もしてるじゃないか」
「それでも世の中にはいろんなものがある、て言いたいんだろう?ふふふ ないものまで見えてるのさ。実に都合良くできている」
次の一瞬間、世界の美しかったこと!
「でも、みんなまばたきは毎日何回もしてるじゃないか」
「それでも世の中にはいろんなものがある、て言いたいんだろう?ふふふ ないものまで見えてるのさ。実に都合良くできている」
次の一瞬間、世界の美しかったこと!
2002年11月1日金曜日
2002年10月31日木曜日
2002年10月30日水曜日
2002年10月29日火曜日
2002年10月28日月曜日
2002年10月27日日曜日
お月様とけんかした話
夜道を歩いていたら酔っ払いがやってくるのが見えた。
「参ったな。ありゃ、お月さまだ」
お月さまはフラリフラリと歩いてきてぶつかった。
「おーい。謝れよぅー」
あんまり怖くない。
「ぶつかってきたのはそっちでしょう」
「なんだとぉー」
お月さまは殴りかかってきた。
しかし、そのまま勝手に倒れてしまった。
しばらくするとふらふらと空に昇っていった。
「参ったな。ありゃ、お月さまだ」
お月さまはフラリフラリと歩いてきてぶつかった。
「おーい。謝れよぅー」
あんまり怖くない。
「ぶつかってきたのはそっちでしょう」
「なんだとぉー」
お月さまは殴りかかってきた。
しかし、そのまま勝手に倒れてしまった。
しばらくするとふらふらと空に昇っていった。
2002年10月26日土曜日
2002年10月25日金曜日
ある夜倉庫のかげで聞いた話
近所に大きく古い倉庫があった。よくないウワサ―怪しい男が出入りしている―が流れていて、親には近付くなと度々言われていた。
でも俺たちは構いやしなかった。ほら、ガキが秘密基地にするのに最適だろ?
ある日、俺は一人で倉庫を探険していた。夢中になって日が暮れるのにも気付かず、慌てて帰ろうとしたら声が聞こえてきた。
「お月さま、早く起きて下さい!日が暮れましたよ!まったくねぼすけなんだから」
でも俺たちは構いやしなかった。ほら、ガキが秘密基地にするのに最適だろ?
ある日、俺は一人で倉庫を探険していた。夢中になって日が暮れるのにも気付かず、慌てて帰ろうとしたら声が聞こえてきた。
「お月さま、早く起きて下さい!日が暮れましたよ!まったくねぼすけなんだから」
2002年10月24日木曜日
ハーモニカが盗まれた話
ポケットに入っているハーモニカがなくなった時は、神業だと思ったよ。
何しろポケットに手を入れて歩いていたオレはハーモニカを握ったままだったのだから。
握っていた物が突然なくなれば誰だって気が付く。
「やいやい。たいしたスリがいるもんだ」
そう毒付くと前方でピカリ、猫の目が光るのが見えた。
その夜、言うまでもなく下手クソなハーモニカは一晩中途絶えることがなかった。
何しろポケットに手を入れて歩いていたオレはハーモニカを握ったままだったのだから。
握っていた物が突然なくなれば誰だって気が付く。
「やいやい。たいしたスリがいるもんだ」
そう毒付くと前方でピカリ、猫の目が光るのが見えた。
その夜、言うまでもなく下手クソなハーモニカは一晩中途絶えることがなかった。
2002年10月23日水曜日
2002年10月22日火曜日
2002年10月21日月曜日
2002年10月7日月曜日
妊婦
「あら奥さん、お腹の赤ちゃん元気そうでなによりね」
「ありがとう。でもせわしなくてこまるのよ」
「手なら、まだいいじゃない。うちの子は口だったのよ。もう、一日中、喋り続けるものだから本当に困ったわ」
「それは堪らないわね。私はジャンケンだけだから、我慢しなくちゃ。そうそう、Sさんは5ヶ月ですって」
「あら、そろそろ出てくるころじゃない」
「そうなの。それでさっき電話して聞いてみたら、髪の毛が生えてきたって」
「まあ!珍しい。それは将来有望よ!」
「でも、大変らしいわ。伸び続ける毛を切ってはいけないんですって」
「でも長ければ長いほどいいんでしょう?」
「そう。膝まで伸びたら、天才らしいわ」
パウル・クレー≪偶像の園≫をモチーフに
「ありがとう。でもせわしなくてこまるのよ」
「手なら、まだいいじゃない。うちの子は口だったのよ。もう、一日中、喋り続けるものだから本当に困ったわ」
「それは堪らないわね。私はジャンケンだけだから、我慢しなくちゃ。そうそう、Sさんは5ヶ月ですって」
「あら、そろそろ出てくるころじゃない」
「そうなの。それでさっき電話して聞いてみたら、髪の毛が生えてきたって」
「まあ!珍しい。それは将来有望よ!」
「でも、大変らしいわ。伸び続ける毛を切ってはいけないんですって」
「でも長ければ長いほどいいんでしょう?」
「そう。膝まで伸びたら、天才らしいわ」
パウル・クレー≪偶像の園≫をモチーフに
2002年10月6日日曜日
ここがイタリア?
異国に来たのは初めてだ。
「なんだか違う世界に迷い込んだようだ」
「SF小説みたいなこと言うんだな。飛行機で半日、海を渡っただけじゃないか。」
連れは町並みを眺めながら簡単に片付けてくれたので、それ以上は何も言いたくない。
しかし、この不安は本物だと確信できる。
空港を出てから、我々の声と靴音以外何の音も聞いていないのだから。
パウル・クレー≪イタリアの都市≫をモチーフに
「なんだか違う世界に迷い込んだようだ」
「SF小説みたいなこと言うんだな。飛行機で半日、海を渡っただけじゃないか。」
連れは町並みを眺めながら簡単に片付けてくれたので、それ以上は何も言いたくない。
しかし、この不安は本物だと確信できる。
空港を出てから、我々の声と靴音以外何の音も聞いていないのだから。
パウル・クレー≪イタリアの都市≫をモチーフに
2002年10月3日木曜日
2002年10月1日火曜日
ある時間旅行者の最期
《極秘調査報告》
20XX年10月1日22時ごろ都内某所交差点での
不可解な事故についての調査結果。
彼が轢いた男と彼を轢いた男は同一人物であったとみられる。
以上。
パウル・クレー≪ふたり分叫ぶ男≫をモチーフに
20XX年10月1日22時ごろ都内某所交差点での
不可解な事故についての調査結果。
彼が轢いた男と彼を轢いた男は同一人物であったとみられる。
以上。
パウル・クレー≪ふたり分叫ぶ男≫をモチーフに
2002年9月29日日曜日
すてきにへんな家
ぼくは家を買った。
中古の小さい家で、とにかく安かった。
下見もせずすぐに買うことを決めた。
そして今日から新しい古い家で暮らす。
家はとにかくボロだった。
さらに、とても効率の悪い作りだった。
台所や風呂はヘンな位置だし、天井ばかり高くて寒かった。
開閉不可能な位置に窓が二つもあるし勝手口は台所ではなく玄関の隣りにへばりついていた。
そして庭には自転車が六台捨てられ、屋根瓦は4種類まぜこぜだ。
ぼくは自転車を引き取ってもらうために電話をかけ、床を磨き、(手が届く)窓を拭き、3時間かけて選んだカーテンを吊した。
パウル・クレー≪回想譜≫をモチーフに
中古の小さい家で、とにかく安かった。
下見もせずすぐに買うことを決めた。
そして今日から新しい古い家で暮らす。
家はとにかくボロだった。
さらに、とても効率の悪い作りだった。
台所や風呂はヘンな位置だし、天井ばかり高くて寒かった。
開閉不可能な位置に窓が二つもあるし勝手口は台所ではなく玄関の隣りにへばりついていた。
そして庭には自転車が六台捨てられ、屋根瓦は4種類まぜこぜだ。
ぼくは自転車を引き取ってもらうために電話をかけ、床を磨き、(手が届く)窓を拭き、3時間かけて選んだカーテンを吊した。
パウル・クレー≪回想譜≫をモチーフに
2002年9月28日土曜日
仮面の独白
とにかくオレは仮面だ。
しかーし、オレはそんじょそこらの仮面じゃないぜ?
なにしろこうして人格があるんだから。
普通は、仮面は本面の一部だ。
都合に合わせて出たり消えたり。
だがオレは本面にないモンでできてるし
四六時中前に出てるんだ。
ところが!せっかくオレ様が庇ってやってるのに、本面は疲れ果ててる。
オレが剥がれるのが恐いらしいんだ。
まったく、無理してオレを作るからだよなぁ?
いっそのこと本面を乗っ取ろうかと思ってるんだが、アンタどう思う?
パウル・クレー≪喜劇役者≫をモチーフに
しかーし、オレはそんじょそこらの仮面じゃないぜ?
なにしろこうして人格があるんだから。
普通は、仮面は本面の一部だ。
都合に合わせて出たり消えたり。
だがオレは本面にないモンでできてるし
四六時中前に出てるんだ。
ところが!せっかくオレ様が庇ってやってるのに、本面は疲れ果ててる。
オレが剥がれるのが恐いらしいんだ。
まったく、無理してオレを作るからだよなぁ?
いっそのこと本面を乗っ取ろうかと思ってるんだが、アンタどう思う?
パウル・クレー≪喜劇役者≫をモチーフに
2002年9月24日火曜日
ある無口な男の話
彼は片輪であることを隠さなかったが、その理由を語ることもなかった。
彼の瞳はいつも憂いを帯びていた。しかし、黙って遠くを見据えていた。
町の人々は片輪の理由も憂いの理由も知っていた。
それでも彼を遠巻きに見る者は多かった。
そんな彼を遠方から訪ねてきた者があった。
若い娘とその母親だった。
「ただいま……」
彼の目から憂いが静かに流れていった。
パウル・クレー≪片翼の英雄≫をモチーフに
彼の瞳はいつも憂いを帯びていた。しかし、黙って遠くを見据えていた。
町の人々は片輪の理由も憂いの理由も知っていた。
それでも彼を遠巻きに見る者は多かった。
そんな彼を遠方から訪ねてきた者があった。
若い娘とその母親だった。
「ただいま……」
彼の目から憂いが静かに流れていった。
パウル・クレー≪片翼の英雄≫をモチーフに
2002年9月22日日曜日
透明な視線
ぼわぁぁ……
生暖かい感触に包まれて、俺は思わず立ち止まった。
妙に生々しくて急激に血が巡りはじめるのを感じた。
さっきから人は一人も見なかった。
景色は雄大で、それがかえって孤独を感じさせた。
なのに、なぜか視線を強く感じる。
怒りにも似た恥ずかしさ……誰も見ていないのに、ひどく居心地が悪かった。
本当に誰もいないはずなのだ。
家を一軒づつ覗いてみたのだから。
それでも射るような視線を感じるのは何故だ?
誰もいないのにたくさんの家があるのは何故だ?
女に抱きつかれているような、この感触はなんだ?
「隠れて!」
生暖かいものがささやいた。
「え?!」
ざわざわと無遠慮な噂話が聞こえてきた。
「ちょっと、あの人身体が見えてるよ!」
パウル・クレー≪マルクの庭の南風≫をモチーフ
生暖かい感触に包まれて、俺は思わず立ち止まった。
妙に生々しくて急激に血が巡りはじめるのを感じた。
さっきから人は一人も見なかった。
景色は雄大で、それがかえって孤独を感じさせた。
なのに、なぜか視線を強く感じる。
怒りにも似た恥ずかしさ……誰も見ていないのに、ひどく居心地が悪かった。
本当に誰もいないはずなのだ。
家を一軒づつ覗いてみたのだから。
それでも射るような視線を感じるのは何故だ?
誰もいないのにたくさんの家があるのは何故だ?
女に抱きつかれているような、この感触はなんだ?
「隠れて!」
生暖かいものがささやいた。
「え?!」
ざわざわと無遠慮な噂話が聞こえてきた。
「ちょっと、あの人身体が見えてるよ!」
パウル・クレー≪マルクの庭の南風≫をモチーフ
2002年9月20日金曜日
不吉な家の上にのぼった星々
「不吉な家」と呼ばれる家があった。
その家の住人は極めて温厚だったし、それなりに幸せに暮らしていた。
それでも家は「不吉な家」と呼ばれていた。
「不吉な家」はなかなか絵になる家だった。
建物としても、景観としても。
多くの人々が家をスケッチしたり写真を撮ったりしたがった。
その度に、かの住人はそれを承諾した。
そして、その度に人間が消え、星が増えた。
家の壁には何百枚もの家の絵や写真が
消えない染みとなって残っている。
パウル・クレー≪不吉な家の上にのぼった星々≫をモチーフ
その家の住人は極めて温厚だったし、それなりに幸せに暮らしていた。
それでも家は「不吉な家」と呼ばれていた。
「不吉な家」はなかなか絵になる家だった。
建物としても、景観としても。
多くの人々が家をスケッチしたり写真を撮ったりしたがった。
その度に、かの住人はそれを承諾した。
そして、その度に人間が消え、星が増えた。
家の壁には何百枚もの家の絵や写真が
消えない染みとなって残っている。
パウル・クレー≪不吉な家の上にのぼった星々≫をモチーフ
2002年9月19日木曜日
WHITE SUN
友人Pの実家に遊びに行った。
そこは温暖な気候で、目に映るもの全てが鮮やかに見えた。
Pが、用事があるというので、俺は一人、彼の家に残された。
窓の向こうに緑濃き世界が広がっている。
降りてみないわけにはいかない。俺は庭に出てみた。
すぐにここが俺の知っている「庭」としては最大級だと気づいた。
広さも、美しさも。俺は心が躍った。
奥の方に大きな木が見える。あの木まで行ってみよう。
俺は早足で歩き始めた。鮮やかな花々に見守られながら。
まっすぐに木を見つめて、どんどん歩いた。
しかし、なかなか木は近づいてこない。俺は焦れてきた。
「どうなってるんだ、この庭は!」
俺はとうとう立ち止まり、手を膝に、呼吸を整えた。
「……ふう。仕方ない、もう戻ろう」
「戻れないよ。」Pの声がした。
南の白い太陽の下で、俺とPが向き合っていた。
パウル・クレー≪南方の庭≫をモチーフに
そこは温暖な気候で、目に映るもの全てが鮮やかに見えた。
Pが、用事があるというので、俺は一人、彼の家に残された。
窓の向こうに緑濃き世界が広がっている。
降りてみないわけにはいかない。俺は庭に出てみた。
すぐにここが俺の知っている「庭」としては最大級だと気づいた。
広さも、美しさも。俺は心が躍った。
奥の方に大きな木が見える。あの木まで行ってみよう。
俺は早足で歩き始めた。鮮やかな花々に見守られながら。
まっすぐに木を見つめて、どんどん歩いた。
しかし、なかなか木は近づいてこない。俺は焦れてきた。
「どうなってるんだ、この庭は!」
俺はとうとう立ち止まり、手を膝に、呼吸を整えた。
「……ふう。仕方ない、もう戻ろう」
「戻れないよ。」Pの声がした。
南の白い太陽の下で、俺とPが向き合っていた。
パウル・クレー≪南方の庭≫をモチーフに
2002年9月18日水曜日
急ブレーキ
土曜の朝、車を走らせていたら角からヒョイッと
少年が目の前に出てきた。
俺は急ブレーキをかけて車から降りた。
「おい、ボウズ!危ないじゃないか。ケガはないか?」
少年はなぜかニコッと笑って車を指差し「乗る」と言った。
10歳くらいに見えるが、もっと幼いのかもしれない。
服も少し時代遅れに見えた。
俺はそんな少年の姿に少し戸惑いながら、尋ねた。
「え?迷子なのか?どこか行きたいのか?名前は?」
でも彼は人懐っこい笑顔で車を指差すだけだ。
「オジサン、誘拐犯みたいだなぁ。」
と言いつつ、俺は少年を助手席に乗せていた。
少年は車に乗ると、目付きが変わり
「つぎ、曲がる。あっち」
ときっぱりと道を指示し始めた。俺は夢中でハンドルを切る。
いつのまにか町並みは変わり、暖かい色になっていた。
「着いた!あ、お母さんだ!」
「……え?!」
俺は、思いっきりブレーキを踏んだ。
少年の指差す先にいたのは、写真でしか知らない俺の母だった。
パウル・クレー≪赤と黄色のチェニスの家々≫をモチーフに
少年が目の前に出てきた。
俺は急ブレーキをかけて車から降りた。
「おい、ボウズ!危ないじゃないか。ケガはないか?」
少年はなぜかニコッと笑って車を指差し「乗る」と言った。
10歳くらいに見えるが、もっと幼いのかもしれない。
服も少し時代遅れに見えた。
俺はそんな少年の姿に少し戸惑いながら、尋ねた。
「え?迷子なのか?どこか行きたいのか?名前は?」
でも彼は人懐っこい笑顔で車を指差すだけだ。
「オジサン、誘拐犯みたいだなぁ。」
と言いつつ、俺は少年を助手席に乗せていた。
少年は車に乗ると、目付きが変わり
「つぎ、曲がる。あっち」
ときっぱりと道を指示し始めた。俺は夢中でハンドルを切る。
いつのまにか町並みは変わり、暖かい色になっていた。
「着いた!あ、お母さんだ!」
「……え?!」
俺は、思いっきりブレーキを踏んだ。
少年の指差す先にいたのは、写真でしか知らない俺の母だった。
パウル・クレー≪赤と黄色のチェニスの家々≫をモチーフに
2002年9月17日火曜日
夕焼けがくれたエジプト
近所にそれは見事な三角屋根の家がある。
屋根は薄汚い海老茶色に見えるのだけど、
古い家だから当初の色が何だったのかはわからない。
さらに言うと、僕はその家の屋根しかみたことがなかった。
普段はその家の前を通るわけではなかったし、
なにより、その家は塀が高かったのだ。
それは、辺りの雰囲気を異質なものにしていた。
特にここ数年、周囲の景色から置いてけぼりにされていく様は
目を背けたくなるほどだった。
ところが、ある日を境に激しく惹きつけられるようになった。
その日、夕焼けの中を歩いていると
突然、宙に浮かぶピラミッドが現れた。
それがあの、三角屋根だったのだ。
パウル・クレー≪エジプトに捧げる小さなヴィネット≫をモチーフに
屋根は薄汚い海老茶色に見えるのだけど、
古い家だから当初の色が何だったのかはわからない。
さらに言うと、僕はその家の屋根しかみたことがなかった。
普段はその家の前を通るわけではなかったし、
なにより、その家は塀が高かったのだ。
それは、辺りの雰囲気を異質なものにしていた。
特にここ数年、周囲の景色から置いてけぼりにされていく様は
目を背けたくなるほどだった。
ところが、ある日を境に激しく惹きつけられるようになった。
その日、夕焼けの中を歩いていると
突然、宙に浮かぶピラミッドが現れた。
それがあの、三角屋根だったのだ。
パウル・クレー≪エジプトに捧げる小さなヴィネット≫をモチーフに
2002年9月16日月曜日
今日も僕は駅に向かう
これは夢かもしれないなあ。
なんだか周りの景色がフワフワしている。
今日は目覚めが悪かったし。きのう飲みすぎたもんな。
でも、ちゃんとスーツを着て、鞄も持っている。
定期だって……ほらポケットに入っている。大丈夫。
それにしてもどうして夢のようだと感じるんだろう?
ああ、きっと霧のせいだ。
こんなに霧の濃い朝はずいぶん久しぶりだから。
次の角を曲がれは駅だ。
で、駅ってどんな形をしていたっけ?
僕は駅で何をするんだ?それより、駅って何?
パウル・クレー≪パルナッソスへ≫をモチーフに
なんだか周りの景色がフワフワしている。
今日は目覚めが悪かったし。きのう飲みすぎたもんな。
でも、ちゃんとスーツを着て、鞄も持っている。
定期だって……ほらポケットに入っている。大丈夫。
それにしてもどうして夢のようだと感じるんだろう?
ああ、きっと霧のせいだ。
こんなに霧の濃い朝はずいぶん久しぶりだから。
次の角を曲がれは駅だ。
で、駅ってどんな形をしていたっけ?
僕は駅で何をするんだ?それより、駅って何?
パウル・クレー≪パルナッソスへ≫をモチーフに
2002年9月15日日曜日
2002年9月14日土曜日
2002年9月13日金曜日
2002年9月12日木曜日
turn it into rain
コーヒーをこぼしたら、とたんに外で雨が降りだした。
紙コップコーヒーを持ち歩いていたら、人にぶつかってコーヒーが飛び散った。
雨が降った。
それ以来、僕はときどきコーヒーをこぼすようにしている。
わざとらしくないようにね。
そうしないと、深刻な水不足になってしまう。やれやれ!
紙コップコーヒーを持ち歩いていたら、人にぶつかってコーヒーが飛び散った。
雨が降った。
それ以来、僕はときどきコーヒーをこぼすようにしている。
わざとらしくないようにね。
そうしないと、深刻な水不足になってしまう。やれやれ!
2002年9月11日水曜日
2002年9月10日火曜日
2002年9月9日月曜日
SMOKE GETS IN MY EYES
香を焚いたら、やたら煙が多くて、咳き込んでしまった。
「おっかしいなぁ」
と涙をぼろぼろ流しながら、香立てを見るとお香はコーヒーに変わっていた。
コーヒーは、とてもおいしかった。
空のカップを香立てに載せると、さらさらと灰になった。
僕も灰になった。
「おっかしいなぁ」
と涙をぼろぼろ流しながら、香立てを見るとお香はコーヒーに変わっていた。
コーヒーは、とてもおいしかった。
空のカップを香立てに載せると、さらさらと灰になった。
僕も灰になった。
2002年9月8日日曜日
2002年9月7日土曜日
Crying out loud
大人になれば泣くことはないと思ってた。
小さい頃は泣きながらいつも心は冷めていたから。
「もっと大声で泣いてやろうか?飽きてきたから泣き止もうか?」って。
でも本当に喚きたいのは大人になってからだ。
テーブルのコーヒーカップを薙ぎ倒したくなるのは大人になってからだ。
パジャマのまま、どしゃぶり雨に射たれて叫びたい。
でも、それはできないのよ?
連れ戻して頭を撫でてくれるはずの大きな手は消えてしまった。
だからわたし、泣いている。
小さい頃は泣きながらいつも心は冷めていたから。
「もっと大声で泣いてやろうか?飽きてきたから泣き止もうか?」って。
でも本当に喚きたいのは大人になってからだ。
テーブルのコーヒーカップを薙ぎ倒したくなるのは大人になってからだ。
パジャマのまま、どしゃぶり雨に射たれて叫びたい。
でも、それはできないのよ?
連れ戻して頭を撫でてくれるはずの大きな手は消えてしまった。
だからわたし、泣いている。
2002年9月6日金曜日
2002年9月4日水曜日
2002年9月3日火曜日
2002年9月2日月曜日
おばあさんが話してくれたこと
病院でよく会うおばあさんが
「お茶でも飲みましょう」
と喫茶店に誘ってくれた。
そこは10代の僕は遠慮してしまうような、雰囲気のある店だった。
要するに、古くてボロかった。
おばあさんは生まれて初めてのデートで飲んだ、これまた生まれて初めてのコーヒーのことを話してくれた。
それはブラックコーヒーと同じくらい苦くて寂しくて、でもいい香りがした。
「そんな大切な思い出をなんで僕に?」
おばあさんの微笑みの意味は祖父が持っていた。
「お茶でも飲みましょう」
と喫茶店に誘ってくれた。
そこは10代の僕は遠慮してしまうような、雰囲気のある店だった。
要するに、古くてボロかった。
おばあさんは生まれて初めてのデートで飲んだ、これまた生まれて初めてのコーヒーのことを話してくれた。
それはブラックコーヒーと同じくらい苦くて寂しくて、でもいい香りがした。
「そんな大切な思い出をなんで僕に?」
おばあさんの微笑みの意味は祖父が持っていた。
2002年8月30日金曜日
2002年8月27日火曜日
2002年8月26日月曜日
2002年8月24日土曜日
マイ・珈琲in魔法瓶
コーヒーを魔法瓶に入れて車で出かけた。
いまどき、自動販売機やらコンビニやらでコーヒーはいくらでも買えるが、
やっぱり自分で作ったコーヒーが一番だし、コーヒーは自分てつくるべきだ。
行き先は決まっていない。
決めないのが決まりだ。
「次の角はどっちに行く?」
「うーん右にしようか?」
魔法瓶が答える。
なんたって俺のコーヒーだからな。
いまどき、自動販売機やらコンビニやらでコーヒーはいくらでも買えるが、
やっぱり自分で作ったコーヒーが一番だし、コーヒーは自分てつくるべきだ。
行き先は決まっていない。
決めないのが決まりだ。
「次の角はどっちに行く?」
「うーん右にしようか?」
魔法瓶が答える。
なんたって俺のコーヒーだからな。
2002年8月22日木曜日
2002年8月21日水曜日
SHE IS MINE.
彼女は僕を見つめる。
僕も彼女を見つめる。
それは日曜の朝食後のきまりだ。
コーヒーを飲みながら、彼女と見つめあう。
彼女はまばたきもせずに大きな瞳で僕に微笑みかける。
あぁ、僕はなんて幸せなんだろう。
コーヒーカップを片手に彼女に近付く。
波立つ髪を撫で、ほんのり紅い頬をつつく。
左手だけで彼女を抱こうとして、コーヒーをこぼした。
僕は染みだらけになった人形を床に叩きつけた。
僕も彼女を見つめる。
それは日曜の朝食後のきまりだ。
コーヒーを飲みながら、彼女と見つめあう。
彼女はまばたきもせずに大きな瞳で僕に微笑みかける。
あぁ、僕はなんて幸せなんだろう。
コーヒーカップを片手に彼女に近付く。
波立つ髪を撫で、ほんのり紅い頬をつつく。
左手だけで彼女を抱こうとして、コーヒーをこぼした。
僕は染みだらけになった人形を床に叩きつけた。
2002年8月20日火曜日
ぼくはコーヒーを飲むたび、溜め息をつく
キミはコーヒーの最初のひと口を飲んだあと、溜め息をついた。
ぼくは、それを見るとバラバラと悲しかった。
「ねえ?どうしてため息なんかつくんだよ?」
「え?ため息?ついてないよ。ナニ泣きそうな顔してるの?」
それは、二人で初めて朝御飯を食べたときだった。
ぼくはコーヒーを飲むたび、溜め息をつく。
キミの写真の隣で
ぼくはコーヒーを飲むたび、溜め息をつく。
ぼくは、それを見るとバラバラと悲しかった。
「ねえ?どうしてため息なんかつくんだよ?」
「え?ため息?ついてないよ。ナニ泣きそうな顔してるの?」
それは、二人で初めて朝御飯を食べたときだった。
ぼくはコーヒーを飲むたび、溜め息をつく。
キミの写真の隣で
ぼくはコーヒーを飲むたび、溜め息をつく。
2002年8月18日日曜日
Dear Diary
日記帳にコーヒーをこぼしてしまった。
コーヒーがどんどん深く染み込んでいくのを僕はただ眺めていた。
「あ~、新しい日記帳を買わなくちゃ」
なんて思いながら。
遂にコーヒーは白い表紙を汚した。
そして、その瞬間
僕は僕の知っている僕が消えたのを感じた。
コーヒーがどんどん深く染み込んでいくのを僕はただ眺めていた。
「あ~、新しい日記帳を買わなくちゃ」
なんて思いながら。
遂にコーヒーは白い表紙を汚した。
そして、その瞬間
僕は僕の知っている僕が消えたのを感じた。
2002年8月17日土曜日
さよならはキスの後で
一体、俺は何時間かけてコーヒーを飲んだのだろう。
朔月の空を見上げて自虐的に笑ってみる。
月すら一緒に居てくれないのか、今夜は。
秋の気配を夜風に感じたのは愁いのせいだろう。たぶん、そうだ。
朔月の空を見上げて自虐的に笑ってみる。
月すら一緒に居てくれないのか、今夜は。
秋の気配を夜風に感じたのは愁いのせいだろう。たぶん、そうだ。
2002年8月14日水曜日
2002年8月13日火曜日
ありえるのならば、それは
眠くて眠くてどうしようもなかった。
朝、ブラックコーヒーを飲んだよなぁ、とトロトロの頭で考える。
俺はカフェインに弱く、コーヒーの効果は絶大なのだ。
朝、コーヒーを飲んで眠くなるなんて、死んでもありえない……。
朝、ブラックコーヒーを飲んだよなぁ、とトロトロの頭で考える。
俺はカフェインに弱く、コーヒーの効果は絶大なのだ。
朝、コーヒーを飲んで眠くなるなんて、死んでもありえない……。
2002年8月12日月曜日
満月と珈琲と人形のカンケイ
窓から見える満月を眺めていたら玄関のチャイムが鳴った。
こんな夜中に何だ?と注意深くドアを開けると三つ編みの女の子がたっていた。
「さあ、祭りにでかけましょう」
家の前の道は行列だった。仮装しているのかピエロやロボットもいる。
「何の祭りですか?」
女の子に聞くと
「あなたも人形になるのです。コーヒーを飲んでいたでしょう。だから祭りに参加して人形になるのです」
こんな夜中に何だ?と注意深くドアを開けると三つ編みの女の子がたっていた。
「さあ、祭りにでかけましょう」
家の前の道は行列だった。仮装しているのかピエロやロボットもいる。
「何の祭りですか?」
女の子に聞くと
「あなたも人形になるのです。コーヒーを飲んでいたでしょう。だから祭りに参加して人形になるのです」
2002年8月11日日曜日
2002年8月8日木曜日
2002年8月5日月曜日
ビターチョコレートフレーバー
フレーバーコーヒーという物を妻が買ってきた。
袋にはコーヒー園の農夫と貴族の女の絵が付いている。
「めずらしいでしょ?色々な香りがあってねとりあえずチョコを買ってみたの」
さっそく二人で飲んでみることにした。
それは本当にチョコレートの香りがするが、ほのかに匂いがするだけで普通のコーヒーだった。
「匂いと味がバラバラなのって不思議だね…」
そう言って笑い合った。
「匂いを付けるなんてまやかしだ。無意味な贅沢なんだよ。コーヒーはもとからいい香りがするんだ、これ以上の贅沢はねぇ」
農夫が言った。
袋にはコーヒー園の農夫と貴族の女の絵が付いている。
「めずらしいでしょ?色々な香りがあってねとりあえずチョコを買ってみたの」
さっそく二人で飲んでみることにした。
それは本当にチョコレートの香りがするが、ほのかに匂いがするだけで普通のコーヒーだった。
「匂いと味がバラバラなのって不思議だね…」
そう言って笑い合った。
「匂いを付けるなんてまやかしだ。無意味な贅沢なんだよ。コーヒーはもとからいい香りがするんだ、これ以上の贅沢はねぇ」
農夫が言った。
2002年8月3日土曜日
2002年7月29日月曜日
2002年7月24日水曜日
缶コーヒーが引き起こしたぬるま湯とは
私が何をしたというのだろう。
自動販売機の前で缶コーヒー片手にしゃがみ込んでいる男に声を掛けただけなのに。
「おつりが転がってしまって」
と言って男は立ち上がり私を縛り上げて車に乗せた。
何故こんなに冷静でいられるのだろう。
今、生まれて初めて鉄の塊をつきつけられているというのに。
ああ、なんだかぬるま湯を浴びているような
自動販売機の前で缶コーヒー片手にしゃがみ込んでいる男に声を掛けただけなのに。
「おつりが転がってしまって」
と言って男は立ち上がり私を縛り上げて車に乗せた。
何故こんなに冷静でいられるのだろう。
今、生まれて初めて鉄の塊をつきつけられているというのに。
ああ、なんだかぬるま湯を浴びているような
2002年7月23日火曜日
2002年7月19日金曜日
猫とおじいさんとハムサンドの話
朝から喫茶店でノートを広げるようになって、一ヶ月。
新しい友達ができた。猫と、おじいさん。
猫の友達も、おじいさんの友達も、はじめてだった。
猫は店のカウンターの端でいつも寝ていた。
通い始めて一週間くらいで、ドアを開けると挨拶してくれるようになった。
アイスカフェ・オ・レとハムとチーズのサンドウィッチを頼んで、
彼の後ろのテーブルに座ると、彼は、私の方に向き直って寝る。
そして、毎日この喫茶店で朝食を取るおじいさん。
おじいさんはある日「いつもがんばってるね。何の勉強かい?」と私に話し掛けた。
おじいさんはいろんな話をしてくれた。毎日自転車でこの喫茶店にくること。
絵を書いていること。孫が二人いること。
猫はもう10年もこのカウンターに居座っている、ノラだということ。
そしてこの国でかつて起きた悲しい出来事について……。
通いはじめて5ヶ月、おじいさんと猫にお別れをしなければならなくなった。
私は試験に合格し、遠くの学校へ行くことになったのだ。
猫はいつもよりも甘えてくれた。
おじいさんは、うさぎの絵と筆をくれた。
今はもう、猫は死んでしまったけど、
おじいさんは元気にうさぎの絵を描いている。
私は、この喫茶店で働き始めた。
新しい友達ができた。猫と、おじいさん。
猫の友達も、おじいさんの友達も、はじめてだった。
猫は店のカウンターの端でいつも寝ていた。
通い始めて一週間くらいで、ドアを開けると挨拶してくれるようになった。
アイスカフェ・オ・レとハムとチーズのサンドウィッチを頼んで、
彼の後ろのテーブルに座ると、彼は、私の方に向き直って寝る。
そして、毎日この喫茶店で朝食を取るおじいさん。
おじいさんはある日「いつもがんばってるね。何の勉強かい?」と私に話し掛けた。
おじいさんはいろんな話をしてくれた。毎日自転車でこの喫茶店にくること。
絵を書いていること。孫が二人いること。
猫はもう10年もこのカウンターに居座っている、ノラだということ。
そしてこの国でかつて起きた悲しい出来事について……。
通いはじめて5ヶ月、おじいさんと猫にお別れをしなければならなくなった。
私は試験に合格し、遠くの学校へ行くことになったのだ。
猫はいつもよりも甘えてくれた。
おじいさんは、うさぎの絵と筆をくれた。
今はもう、猫は死んでしまったけど、
おじいさんは元気にうさぎの絵を描いている。
私は、この喫茶店で働き始めた。
2002年7月16日火曜日
2002年7月14日日曜日
宝物
ヒョウ太さんは、毎日、一杯のコーヒーを時間をかけて飲んでいました。
いいえ、一杯のコーヒーが一日中、机の上にあるのです。
朝は湯気が立っていたコーヒーも、お昼になるころには
冷たくなっています。でも、夕方にはきちんと飲み終えているのです。
アヤコさんが聞きました。
「コーヒー、好きなの?嫌いなの?」
冷えたコーヒーなんて、とても不味そうに見えるのです。
ヒョウ太さんは言いました。
「好きだからじっくりと味わうのさ。時間をかければ気が付かないことが見えてくる。」
ヒョウ太さんは、カップを覗き込みながら笑いました。
何が見えるのか、とても気になったアヤコさんは翌日からヒョウ太さんの真似をするようになりました。
季節が変わるころ、
やっとヒョウ太さんの言っていたことがわかりました。
それはとてもかわいらしくて素敵だった。
と、おばあさんになったアヤコさんは
おじいさんになったヒョウ太さんに語るのでした。
いいえ、一杯のコーヒーが一日中、机の上にあるのです。
朝は湯気が立っていたコーヒーも、お昼になるころには
冷たくなっています。でも、夕方にはきちんと飲み終えているのです。
アヤコさんが聞きました。
「コーヒー、好きなの?嫌いなの?」
冷えたコーヒーなんて、とても不味そうに見えるのです。
ヒョウ太さんは言いました。
「好きだからじっくりと味わうのさ。時間をかければ気が付かないことが見えてくる。」
ヒョウ太さんは、カップを覗き込みながら笑いました。
何が見えるのか、とても気になったアヤコさんは翌日からヒョウ太さんの真似をするようになりました。
季節が変わるころ、
やっとヒョウ太さんの言っていたことがわかりました。
それはとてもかわいらしくて素敵だった。
と、おばあさんになったアヤコさんは
おじいさんになったヒョウ太さんに語るのでした。
2002年7月9日火曜日
2002年7月7日日曜日
セピア色のタイムマシン
十数年ぶりに一冊の文庫本を取り出した。
すっかり茶けた頁から、古い文庫本の匂いの中に
微かなコーヒーの香りを見つけた。
「ああ、〔La Voie lactee〕だ・・・」
久しぶりに行ってみようか。
あの頃と同じ時刻に、同じ本を持って。
そして、窓際のあの席で待つのだ。
すっかり茶けた頁から、古い文庫本の匂いの中に
微かなコーヒーの香りを見つけた。
「ああ、〔La Voie lactee〕だ・・・」
久しぶりに行ってみようか。
あの頃と同じ時刻に、同じ本を持って。
そして、窓際のあの席で待つのだ。
2002年7月6日土曜日
2002年7月5日金曜日
配達ボーイと看板ガール
私は、毎日この喫茶店に通っている。
もう、40年になる。
ここでは、娘が一人、給仕し、LPを入れ替え、レジを打っている。
床やテーブルを磨く姿を、見かけたこともあった。
とにかく、よく働く。
そして、彼女は十分に人目に付くくらいの容姿は備えている。
加えて喫茶店の看板娘には、「やさしい笑顔」が必要らしい。
私は若干年上の彼女に「憧れ」ている。
そのような感情を持ってはいけないと言われているがどうしようもない。
私は、40年間変わらぬ姿で、毎日この店に品物を届けている。
彼女は今日も、同じ笑顔で「ごくろうさま」と言うだろう。
あと60年は言うだろう。
私たちのタイプは100年の使用期間が定められている。
もう、40年になる。
ここでは、娘が一人、給仕し、LPを入れ替え、レジを打っている。
床やテーブルを磨く姿を、見かけたこともあった。
とにかく、よく働く。
そして、彼女は十分に人目に付くくらいの容姿は備えている。
加えて喫茶店の看板娘には、「やさしい笑顔」が必要らしい。
私は若干年上の彼女に「憧れ」ている。
そのような感情を持ってはいけないと言われているがどうしようもない。
私は、40年間変わらぬ姿で、毎日この店に品物を届けている。
彼女は今日も、同じ笑顔で「ごくろうさま」と言うだろう。
あと60年は言うだろう。
私たちのタイプは100年の使用期間が定められている。
2002年7月2日火曜日
2002年7月1日月曜日
2002年6月30日日曜日
2002年6月29日土曜日
2002年6月28日金曜日
2002年6月26日水曜日
師走の珈琲
ブラックコーヒーを飲みながら、ベランダに出て身震いした。
真冬の真夜中、寒くないわけがない。おかげで目は覚めた。
自分の息とコーヒーの湯気でオレの目の前は霜色になった。
「ちょっとそのコーヒーをひとくち飲ませてくださらんかの?」
白い湯気の中から、これまた白い顔のオッサンがニュっと現れて、そう言った。
オレは相当、面食らったが「どうぞ、寒いですからね」と言ってコーヒーカップを渡した。
彼は実に美味そうにコーヒーを飲み、「メリークリスマス!」と言って、消えた。
ここが二階なのは関係ないんだな、あの白髭のオッサンには。
オレは、クックックとひとしきり笑ったのだった。
真冬の真夜中、寒くないわけがない。おかげで目は覚めた。
自分の息とコーヒーの湯気でオレの目の前は霜色になった。
「ちょっとそのコーヒーをひとくち飲ませてくださらんかの?」
白い湯気の中から、これまた白い顔のオッサンがニュっと現れて、そう言った。
オレは相当、面食らったが「どうぞ、寒いですからね」と言ってコーヒーカップを渡した。
彼は実に美味そうにコーヒーを飲み、「メリークリスマス!」と言って、消えた。
ここが二階なのは関係ないんだな、あの白髭のオッサンには。
オレは、クックックとひとしきり笑ったのだった。
2002年6月25日火曜日
2002年6月23日日曜日
学生街の喫茶店
若いお客さんが多いんだ。ここらあたりは三つも大学があるからね。
喫茶店に入るのを、ちょっと緊張してなさるお客さんも多い。
ふぁーすとふーどの店に入るのとは勝手が違うんだね。
お嬢さん方や、ひとりでフラっとくる青年もおるし、恋人同士もある。
私から見れば、みんな、孫のようなかわいらしいお客さんだよ。
だから、私は、なるべくかわいい声を出してお客さんを迎えるんだ。驚かすといけないから。
ゆったりと贅沢な時間をすごしてほしいから、はじめの一声が肝心だ。
そして、お見送りの時には元気な声で「また、おいで」と言うんだよ。
ほんのすこーしだけ大人になった彼らの背中に向かって。
喫茶店に入るのを、ちょっと緊張してなさるお客さんも多い。
ふぁーすとふーどの店に入るのとは勝手が違うんだね。
お嬢さん方や、ひとりでフラっとくる青年もおるし、恋人同士もある。
私から見れば、みんな、孫のようなかわいらしいお客さんだよ。
だから、私は、なるべくかわいい声を出してお客さんを迎えるんだ。驚かすといけないから。
ゆったりと贅沢な時間をすごしてほしいから、はじめの一声が肝心だ。
そして、お見送りの時には元気な声で「また、おいで」と言うんだよ。
ほんのすこーしだけ大人になった彼らの背中に向かって。
2002年6月21日金曜日
2002年6月20日木曜日
広告機能付自動販売機
夕方、どうしても喉が渇いて、自動販売機の前に立った。
「コーヒー買うんですか。最近はペットボトルが人気ですけどね。やっぱり自動販売機でコーヒー買うなら缶ですよねえ。しかし、缶コーヒーを買ってくれる人は久しぶりだ。ちなみに9日ぶりです。あ、あなたは「20代」「男性」なんですね。ごめんなさーい♪やっぱり缶コーヒーといったら、「親分印のブラックコーヒー」よね?買ってくれなきゃ、困っちゃうの。オ・ネ・ガ・イ あ、待って。そっちじゃないわ。缶コーヒーは『親分印』でしょ。どうして聞いてくれないの? あん、そう、そうソレよ。あぁ、よかった♪ また、遊んでネ」
最近の自動販売機は五月蝿くて困る。
「コーヒー買うんですか。最近はペットボトルが人気ですけどね。やっぱり自動販売機でコーヒー買うなら缶ですよねえ。しかし、缶コーヒーを買ってくれる人は久しぶりだ。ちなみに9日ぶりです。あ、あなたは「20代」「男性」なんですね。ごめんなさーい♪やっぱり缶コーヒーといったら、「親分印のブラックコーヒー」よね?買ってくれなきゃ、困っちゃうの。オ・ネ・ガ・イ あ、待って。そっちじゃないわ。缶コーヒーは『親分印』でしょ。どうして聞いてくれないの? あん、そう、そうソレよ。あぁ、よかった♪ また、遊んでネ」
最近の自動販売機は五月蝿くて困る。
2002年6月18日火曜日
コーヒーをこぼした話
コーヒーカップを落として床を汚した。
こぼれたコーヒーはインスタントだったけれども、「勿体無いな」と思った。
私はインスタントだろうが、コーヒーがとても、好きなのだ。
床を拭くことも忘れて、コーヒーの地図を眺めていたら、突然、その中に足を入れたくなった。
こぼれたコーヒーの中に吸い込まれたら、どんなに素敵だろう。
こぼれたコーヒーはインスタントだったけれども、「勿体無いな」と思った。
私はインスタントだろうが、コーヒーがとても、好きなのだ。
床を拭くことも忘れて、コーヒーの地図を眺めていたら、突然、その中に足を入れたくなった。
こぼれたコーヒーの中に吸い込まれたら、どんなに素敵だろう。
2002年6月17日月曜日
The flower of milk
「ミルクをわたくしがお入れしてもよろしいですか」
と彼は、ホットコーヒーを頼んだ客に訊く。
カップの中に浮かんだ白い渦は、花になり、蝶になり、そして、すぅっと消えていく。
客に何か尋ねられても、ただ、微笑むだけ。
と彼は、ホットコーヒーを頼んだ客に訊く。
カップの中に浮かんだ白い渦は、花になり、蝶になり、そして、すぅっと消えていく。
客に何か尋ねられても、ただ、微笑むだけ。
2002年6月16日日曜日
2002年6月14日金曜日
2002年6月12日水曜日
2002年6月11日火曜日
2002年6月8日土曜日
2002年6月7日金曜日
THE GIANT-BIRD
怪我をしているスズメを拾った。
よく朝、スズメはハトくらいになっていた。
スズメに見えたそいつは、よく見ればスズメとは似ても似つかない、変な鳥だった。
彼は、石を食べるので、庭の石っころがなくなって助かった。
さらに数日後、ダチョウもびっくりなくらいでかくなっていた。
「ギョエー」
と一声鳴いたあと、線路沿いに食事しながら、どこかへいってしまった。
よく朝、スズメはハトくらいになっていた。
スズメに見えたそいつは、よく見ればスズメとは似ても似つかない、変な鳥だった。
彼は、石を食べるので、庭の石っころがなくなって助かった。
さらに数日後、ダチョウもびっくりなくらいでかくなっていた。
「ギョエー」
と一声鳴いたあと、線路沿いに食事しながら、どこかへいってしまった。
2002年6月6日木曜日
2002年6月5日水曜日
A MOONSHINE
「そんな無茶な話あるかい?一体誰が言いだしたんだろう。お月様を溶かしたサイダーを飲むと、自転車で空を飛べる、なんて。できるはずがないし、どうしてそんな話を信じるんだ?大体、お月様をどうやって取ってくるのさ。サイダーに溶かしちまったら、月はなくなるじゃないか。なんで、俺に頼むんだよ?え?」
「……だって、オマエが今、自転車で宙に浮いているから」
「……だって、オマエが今、自転車で宙に浮いているから」
2002年6月4日火曜日
どうして彼は喫煙家になったか?
彼がタバコを吸うのを見て、誰もが驚愕した。
彼の視界に灰皿が入っているだけで周囲の人は怯えた。
大体、彼がそこまでタバコを嫌っている訳を誰一人知らなかった。
その彼が、タバコを手に、紫煙を、吐いている。
一人の男が、なるべくさりげなく、なるべく明るく尋ねた。
「やあ、珍しいじゃないか。どういう心境の変化なんだ?」
「月と仲良くなりたかったんだ」
彼の視界に灰皿が入っているだけで周囲の人は怯えた。
大体、彼がそこまでタバコを嫌っている訳を誰一人知らなかった。
その彼が、タバコを手に、紫煙を、吐いている。
一人の男が、なるべくさりげなく、なるべく明るく尋ねた。
「やあ、珍しいじゃないか。どういう心境の変化なんだ?」
「月と仲良くなりたかったんだ」
2002年6月3日月曜日
はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたか?
「古い物置にあったんだ。ビンといっしょにメモがあった。」
<この壜に箒星を封じたり。開封厳禁。火気厳禁。水気厳禁>
友人の持ってきた古びたビンは曇っていて中を透かしてみることはできなかった。
「なぜ、この中にホーキ星が入っているんだ?」
「どうやって入れたんだ?」
「本当に入っているのか?」
散々二人で悩んだ末、まず水で絞った布で埃だらけのびんを拭いてみることにした。
「しまった!水気厳禁ってこういうことだったのか!」
ビンはショワショワと解けながら、飛んでいった。
<この壜に箒星を封じたり。開封厳禁。火気厳禁。水気厳禁>
友人の持ってきた古びたビンは曇っていて中を透かしてみることはできなかった。
「なぜ、この中にホーキ星が入っているんだ?」
「どうやって入れたんだ?」
「本当に入っているのか?」
散々二人で悩んだ末、まず水で絞った布で埃だらけのびんを拭いてみることにした。
「しまった!水気厳禁ってこういうことだったのか!」
ビンはショワショワと解けながら、飛んでいった。
2002年6月1日土曜日
2002年5月31日金曜日
お月様が三角になった話
お月様は自分がまるいのを自慢に思っている。
「どうだ!まぁるくていいだろう?マルは美しいのだ」
「こちらではサンカクが重宝なんですよ。ほら、あのタワーを見てごらんなさい。サンカクがいっぱいだ」
「・・・あれは人気があるのか?」
「すごく有名だし、人気だよ」
十五夜、こちらを見上げた者たちの驚きように、月はご満悦だった。
「どうだ!まぁるくていいだろう?マルは美しいのだ」
「こちらではサンカクが重宝なんですよ。ほら、あのタワーを見てごらんなさい。サンカクがいっぱいだ」
「・・・あれは人気があるのか?」
「すごく有名だし、人気だよ」
十五夜、こちらを見上げた者たちの驚きように、月はご満悦だった。
2002年5月30日木曜日
2002年5月29日水曜日
2002年5月28日火曜日
2002年5月27日月曜日
2002年5月26日日曜日
2002年5月25日土曜日
A ROC ON A PAVEMENT
歩いていく先に大きな石が見えた。
それは色がどんどん変わっていった。
目の前まで来たとき、石は紫になっていた。
傘の先でつついたら「ポキョーン」と音がしてどこかへ飛んでいった。
家に帰ると、さっきの石を小さくしたような紫の動物が
「ポキョーン ポキョーン ポキョーン」
と鳴き続けていた。
それは色がどんどん変わっていった。
目の前まで来たとき、石は紫になっていた。
傘の先でつついたら「ポキョーン」と音がしてどこかへ飛んでいった。
家に帰ると、さっきの石を小さくしたような紫の動物が
「ポキョーン ポキョーン ポキョーン」
と鳴き続けていた。
2002年5月23日木曜日
どうして酔よりさめたか?
黒猫が来た晩、しこたま酔っ払った。
翌日も翌々日も、酔ったままだった。
四日目になって、やっと風呂に入ったら
シャワーが言った。
「ケケケ。ずいぶん久しぶりじゃないのかい?何に溺れてたんだ? 女か?酒か?両方か?」
黒猫のヤツ、なんてことをしてくれたんだ……。
おかげで酔からさめたけれど。
翌日も翌々日も、酔ったままだった。
四日目になって、やっと風呂に入ったら
シャワーが言った。
「ケケケ。ずいぶん久しぶりじゃないのかい?何に溺れてたんだ? 女か?酒か?両方か?」
黒猫のヤツ、なんてことをしてくれたんだ……。
おかげで酔からさめたけれど。
2002年5月22日水曜日
2002年5月21日火曜日
ニュウヨークから帰ってきた人の話
長い間音信不通だった知人がニュウヨークから帰ってきたと電話してきた。
彼は
「アメリカの月はとんでもないことになっている」
と言った。よくよく聞いてみると
「月が銀色の顔をしているんだ!」
帰ってきて月はどう見える?と訊くと
「ちゃんとうさぎが餅ついてるよ」
彼は
「アメリカの月はとんでもないことになっている」
と言った。よくよく聞いてみると
「月が銀色の顔をしているんだ!」
帰ってきて月はどう見える?と訊くと
「ちゃんとうさぎが餅ついてるよ」
2002年5月20日月曜日
2002年5月19日日曜日
2002年5月18日土曜日
2002年5月17日金曜日
2002年5月16日木曜日
2002年5月15日水曜日
AN INCIDIDENT AT A STREET CORNER
夕闇のなか、家路を急いでいた。
家につく最後の角を曲がったら、また、曲がる前の道に出た。
もう一度、曲がったら、今度は家の先の道に出た。
「なあ、早く帰りたいんだが、なんとかしてくれよ」
そう言うと、空が歪んで見えた。
家につく最後の角を曲がったら、また、曲がる前の道に出た。
もう一度、曲がったら、今度は家の先の道に出た。
「なあ、早く帰りたいんだが、なんとかしてくれよ」
そう言うと、空が歪んで見えた。
2002年5月14日火曜日
見てきたようなことを云う人
「月の裏側は、真っ赤なのだ。黄色が不足したから」
「流れ星っていうのは、パチンコで飛んでるのだ」
「あの黒猫はもう248年も生きている」
そう言いながら向こうから歩いてきた男は、お月様と同じタバコの香りがした。
「流れ星っていうのは、パチンコで飛んでるのだ」
「あの黒猫はもう248年も生きている」
そう言いながら向こうから歩いてきた男は、お月様と同じタバコの香りがした。
2002年5月13日月曜日
2002年5月12日日曜日
2002年5月11日土曜日
2002年5月10日金曜日
2002年5月9日木曜日
黒猫を射ち落とした話
窓から見える塀の上を黒猫が歩いていた。
それはだんだんと巨大になり、しかもこちらに向かってものすごい速さで突進してきた。
銃を向けるとそいつはますます大きくなり、周りの景色は見えなくなった。
バン!
巨大猫は塀から墜落した。見に行くと、そこには大量の砂利が落ちていた。
むこうの屋根に黒いしっぽが見えた。
それはだんだんと巨大になり、しかもこちらに向かってものすごい速さで突進してきた。
銃を向けるとそいつはますます大きくなり、周りの景色は見えなくなった。
バン!
巨大猫は塀から墜落した。見に行くと、そこには大量の砂利が落ちていた。
むこうの屋根に黒いしっぽが見えた。
2002年5月8日水曜日
A TWILIGHT EPISODE
薄暮の街を歩くとき、まるで彼の地にいるような心地になる。
すべてが見慣れない景色になって、普段見えない人たちとあいさつを交わす。
あの黒猫ですら機嫌がよい。
夢でも現実でも構わない。
その中間、ってことはないんだから。
すべてが見慣れない景色になって、普段見えない人たちとあいさつを交わす。
あの黒猫ですら機嫌がよい。
夢でも現実でも構わない。
その中間、ってことはないんだから。
2002年5月7日火曜日
煙突から投げこまれた話
夜遅く、足早に家へ向かっていたら、上の方で、何かが二つ光って
「そんなに早く帰りたけりゃ、手伝ってやろう」と声がした。
襟首を持ち上げられて、家の上空まで運ばれ、煙突にポトリと落とされた。
「おい!痛いじゃないか!しかも身体中ススだらけだ」
「せっかく運んでやったのに。しかたがない」
すると今度は全身をぴちゃぴちゃと舐められた。
「そんなに早く帰りたけりゃ、手伝ってやろう」と声がした。
襟首を持ち上げられて、家の上空まで運ばれ、煙突にポトリと落とされた。
「おい!痛いじゃないか!しかも身体中ススだらけだ」
「せっかく運んでやったのに。しかたがない」
すると今度は全身をぴちゃぴちゃと舐められた。
2002年5月6日月曜日
THE MOONRIDERS
THE MOONRIDERSは月の明るい晩にしか現れない。
誰にも気づかれることはない。彼らは精鋭なのだから。
それでも彼らを見たいと思ったら、よく晴れた満月の真夜中、自分の影としゃべりながら散歩してみればいい。
風もないのに影が揺らめいたら、それはTHE MOONRIDERが駆け抜けた証だ。
耳を澄ませば彼らの轟きを、鼻を利かせば彼らの煙を、感じられるかもしれない。
誰にも気づかれることはない。彼らは精鋭なのだから。
それでも彼らを見たいと思ったら、よく晴れた満月の真夜中、自分の影としゃべりながら散歩してみればいい。
風もないのに影が揺らめいたら、それはTHE MOONRIDERが駆け抜けた証だ。
耳を澄ませば彼らの轟きを、鼻を利かせば彼らの煙を、感じられるかもしれない。
2002年5月4日土曜日
2002年5月3日金曜日
電燈の下をへんなものが通った話
電燈の下を何かが通ったような気がして振り返ったが、何もなかったので再び歩きだそうとすると、また何か緑色の光がすぅっと通ったのでもう一度見ようとしたが、何も見えなくてあきらめようとしたのに、今度は耳のような形のものが跳ねるのを、確かに見たような気がするのだがよくわからなかった。
2002年5月2日木曜日
2002年5月1日水曜日
2002年4月30日火曜日
2002年4月29日月曜日
水道へ突き落とされた話
徹夜明け、洗面所でジャブジャブと顔を洗っていたら、後頭部をコツンと叩かれた。
洗面台に落っこちて、蛇口に吸い込まれた。
流れに逆らうのは、なかなか気分がよい。
そう思った瞬間、下水道まで流された。
洗面台に落っこちて、蛇口に吸い込まれた。
流れに逆らうのは、なかなか気分がよい。
そう思った瞬間、下水道まで流された。
2002年4月28日日曜日
2002年4月26日金曜日
2002年4月25日木曜日
星でパンをこしらえた話
月が瓶に入った黄いろい粉と星の欠片をくれるという。
「これでパンを焼いてくれ」
さっそくパンをこしらえた。
黄いろい粉をタネに星の欠片をトッピングに。
なかなかうまく焼けた、と満足した。
月は焼きあがったパンを持って帰ってしまった。
その晩の月はおいしそうな湯気を立てていた。
「これでパンを焼いてくれ」
さっそくパンをこしらえた。
黄いろい粉をタネに星の欠片をトッピングに。
なかなかうまく焼けた、と満足した。
月は焼きあがったパンを持って帰ってしまった。
その晩の月はおいしそうな湯気を立てていた。
2002年4月24日水曜日
自分を落としてしまった話
月が月を落とした。
彼は落ちるつもりではなかったのでとても驚いた。
彼も落とすつもりではなかったので戸惑い、焦った。
月に向かっていた。「よかった」と思った。
ぶつかる瞬間、月はゆがんだ。
彼は落ちるつもりではなかったのでとても驚いた。
彼も落とすつもりではなかったので戸惑い、焦った。
月に向かっていた。「よかった」と思った。
ぶつかる瞬間、月はゆがんだ。
2002年4月23日火曜日
ガス燈とつかみ合いをした話
酔っぱらってあちこち蹴飛ばしながら歩いていたら
「ちょっと君、失礼じゃないか。」と上から声がした。
周りには誰もいないので、もう一度そこを蹴飛ばしたら
それがつかみかかってきた。ガス燈だった。
格闘の末、火口を壊すとガス燈は動かなくなった。
次の晩ガス燈の前を通ると、やはり昨晩の体勢のままだったので
黄いろい粉を火口に蒔いておいた。
「ちょっと君、失礼じゃないか。」と上から声がした。
周りには誰もいないので、もう一度そこを蹴飛ばしたら
それがつかみかかってきた。ガス燈だった。
格闘の末、火口を壊すとガス燈は動かなくなった。
次の晩ガス燈の前を通ると、やはり昨晩の体勢のままだったので
黄いろい粉を火口に蒔いておいた。
2002年4月22日月曜日
2002年4月21日日曜日
TOUR DE CHAT-NOIR
崩れそうな石の階段を上っていくと黒猫が待っていた。
「ようこそ。どうぞこちらへ」
なんと高い塔のてっぺんに出た。強い風が吹いている。
風は黄いろい粉が混ざっていてキラキラしていた。
黒猫はうにゃーと欠伸をしながら言った。
「どうですか?よい眺めでしょう。では、さっそく仕事に取り掛かってください。この黄いろい粉を集めないと私の命に関わりますのでね……」
「あッ!」黒猫を見て思わず小さく叫んだ。
彼にはしっぽがなかったのである。
「ようこそ。どうぞこちらへ」
なんと高い塔のてっぺんに出た。強い風が吹いている。
風は黄いろい粉が混ざっていてキラキラしていた。
黒猫はうにゃーと欠伸をしながら言った。
「どうですか?よい眺めでしょう。では、さっそく仕事に取り掛かってください。この黄いろい粉を集めないと私の命に関わりますのでね……」
「あッ!」黒猫を見て思わず小さく叫んだ。
彼にはしっぽがなかったのである。
2002年4月20日土曜日
AN INCIDENT IN THE CONCERT
ホールはそのピアノを聴きにきた人々でいっぱいだった。
照明が落ち、塵の音もしないほどの静寂と緊張が訪れる。
お月様は開演ギリギリに席についた。
そしてピアニストと観客は〈月の光〉に満たされながら、そのメロディーに身を任せたのだった。
照明が落ち、塵の音もしないほどの静寂と緊張が訪れる。
お月様は開演ギリギリに席についた。
そしてピアニストと観客は〈月の光〉に満たされながら、そのメロディーに身を任せたのだった。
2002年4月19日金曜日
2002年4月18日木曜日
箒星を獲りに行った話
ある人にホーキ星を獲って来てくれと、ボロボロの地図を渡された。
その地図の★が指し示す場所まで行ってみると、古い洋館が建っていた。
ハテナと思いながら、門を開けると、少女が漆黒の瞳でこちらを見つめていた。
少女に案内されたのは、階段だった。
ミルクで磨いているであろう、その階段を、一段づつ上っていく。
その地図の★が指し示す場所まで行ってみると、古い洋館が建っていた。
ハテナと思いながら、門を開けると、少女が漆黒の瞳でこちらを見つめていた。
少女に案内されたのは、階段だった。
ミルクで磨いているであろう、その階段を、一段づつ上っていく。
2002年4月16日火曜日
2002年4月15日月曜日
2002年4月14日日曜日
2002年4月13日土曜日
2002年4月12日金曜日
2002年4月11日木曜日
2002年4月10日水曜日
2002年4月9日火曜日
2002年4月8日月曜日
2002年4月7日日曜日
黒猫のしっぽを切った話
黒猫がついてくるので、ミルクをやったら、みるみるしっぽが伸びて、ついに月に届いてしまった。
恐る恐る鋏でしっぽをパチン!と切ったら、黄いろい粉が舞い上がった。
「あァ、苦しかった!」
と月が叫ぶと、粉はみんなホーキ星になってあちこちへ飛んでいった。
恐る恐る鋏でしっぽをパチン!と切ったら、黄いろい粉が舞い上がった。
「あァ、苦しかった!」
と月が叫ぶと、粉はみんなホーキ星になってあちこちへ飛んでいった。
2002年4月6日土曜日
SOMETHING BLACK
〈黒い何か〉が言った。
「ちょっと失礼して調査させてください。イヤ、調査と言ってもごく簡単なものでしてね」
〈黒い何か〉は拡がって、縮んだあと、こう言って消えた。
「では、良い日常を!」
「ちょっと失礼して調査させてください。イヤ、調査と言ってもごく簡単なものでしてね」
〈黒い何か〉は拡がって、縮んだあと、こう言って消えた。
「では、良い日常を!」
2002年4月5日金曜日
2002年4月4日木曜日
2002年4月3日水曜日
2002年4月2日火曜日
2002年3月29日金曜日
2002年3月28日木曜日
2002年3月27日水曜日
お月様とけんかした話
男がタバコを店員のいない隙に盗もうとしていた。
「いい年して、万引きかい?」
男は俺に掴みかかった。若い店員が驚いて出てきた。
俺は男のまんまるい右頬をぶん殴った。
男は右頬をかばうように、よろよろと逃げた。
男を追いかけて、店の外へ出ると男は消えていた。
俺は空に向かって、声を掛けた。
「やあ、お月さん。半月の気分はどうだね?」
「いい年して、万引きかい?」
男は俺に掴みかかった。若い店員が驚いて出てきた。
俺は男のまんまるい右頬をぶん殴った。
男は右頬をかばうように、よろよろと逃げた。
男を追いかけて、店の外へ出ると男は消えていた。
俺は空に向かって、声を掛けた。
「やあ、お月さん。半月の気分はどうだね?」
2002年3月25日月曜日
2002年3月23日土曜日
ある夜倉庫のかげで聞いた話
「明日から三晩は月が出ないんだって」
「なんだって?曇るのか?」
「いや、違う。なんでも月が旅行に出かけるらしい」
「えぇ?どこに?」
「オホーツク海の流氷を見に行くんだってさ」
「なんでまた流氷?」
「流星の参考にしたいんだと」
「なんだって?曇るのか?」
「いや、違う。なんでも月が旅行に出かけるらしい」
「えぇ?どこに?」
「オホーツク海の流氷を見に行くんだってさ」
「なんでまた流氷?」
「流星の参考にしたいんだと」
2002年3月22日金曜日
ハーモニカが盗まれた話
振り返ると、ハーモニカが無くなっていた。 テーブルの上に置いて、台所へ向かおうとしたその瞬間、白い影が横切り、振り返ると、ハーモニカが無くなっていた。
外に出ると、あたりは夕闇だった。
北東の空に白く輝く流れ星ひとつ。
冷たい風と木々のざわめき。
よく朝、ハーモニカはテーブルの上にあった。
氷の粒がびっしりついていた。もう、音は出ない。
外に出ると、あたりは夕闇だった。
北東の空に白く輝く流れ星ひとつ。
冷たい風と木々のざわめき。
よく朝、ハーモニカはテーブルの上にあった。
氷の粒がびっしりついていた。もう、音は出ない。
2002年3月21日木曜日
流星と格闘した話
夜中に散歩をするのが好きだ。家々の灯りも消えた中、靴音と呼吸のリズムに没頭する。
角を曲がったところで、流星が勢いよくぶつかってきた。
「おい、なにするんだ」
俺は、流星に馬乗りになり殴りかかった。
流星に反撃され、形勢逆転。
「あ。ちょっと待ってください」
俺の顔を見た流星が言った。
「はあ?」
流星は、青く輝いていた。急用らしい。
「すみません、どうやら着地点の計算を誤ったようです」
「……人違いと言うことか?」
「はい、申し訳ないです。大変失礼しました。急ぎですので、失礼します」
そう言うと流星は消えていった。
パーンと黄色い光が遠くに見えた。今度は上手くやったらしい。
角を曲がったところで、流星が勢いよくぶつかってきた。
「おい、なにするんだ」
俺は、流星に馬乗りになり殴りかかった。
流星に反撃され、形勢逆転。
「あ。ちょっと待ってください」
俺の顔を見た流星が言った。
「はあ?」
流星は、青く輝いていた。急用らしい。
「すみません、どうやら着地点の計算を誤ったようです」
「……人違いと言うことか?」
「はい、申し訳ないです。大変失礼しました。急ぎですので、失礼します」
そう言うと流星は消えていった。
パーンと黄色い光が遠くに見えた。今度は上手くやったらしい。
2002年3月20日水曜日
2002年3月19日火曜日
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