懸恋-keren-
超短編
2002年9月8日日曜日
消えない十字架
遅い朝食の後、コーヒーを飲んでいた。
彼女は僕のコーヒーをひとくち飲むと、僕のパジャマのボタンをひとつ外した。
ヒトサシユビが僕の胸を静かになぞった。
僕は黙ってその動きを見ていた。
赤い十字が浮き上がり、そして崩れた。
痛くはなかったが、ひどく悲しかった。
彼女は十字架から溢れた血を舐め、「ありがとう」と涙を一粒こぼして消えた。
今でもその十字架は僕の胸にある。
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