2026年5月22日金曜日

暮らしの140字小説69

五月某日、晴。画に描いたような白い眉を持った鳥が、麗しい声で歌っている。歌いながら、あらゆる窓や鏡を突いては罅を入れていくので堪ったものではない。自動車の被害が激しい。サイドミラーを粉々になるまで突いている。「それは侵入者ではなく、きみ自身だ」と伝えるために、口笛を練習している。

2026年5月13日水曜日

暮らしの140字小説68

五月某日、晴。真新しい鉛筆を削る。新品の鉛筆を削る機会は滅多にない。小さなアルミの鉛筆削り器で削る。削り屑が細かい。しばらく削るうちに波打った削り屑らしい削り屑になる。やっと黒い粉も出てきた。キリリと尖った鉛筆にアルミのキャップを被せてペンケースに仕舞う。まだ少し長くて窮屈そう。

2026年5月5日火曜日

暮らしの140字小説67

五月某日、晴。赤と黄に押され気味なのか、時季が過ぎたのか、不作なのかは知らぬが、緑のキウイにお目にかからない。或いは「たぬきの店」になら、と思い葉っぱを持って行くと、あった。赤も黄も美味ではあるが、目にも眩しい鮮やかな緑色、明瞭な酸味、たしかな種の歯触り、キウイはこうでなくちゃ。

2026年4月28日火曜日

暮らしの140字小説66

四月某日、晴。百年前の人が書いた本を續けて読んだためか、すっかり舊字體に目が慣れてしまった。最近の本を開いたら紙面がすかすかと白っぽい氣がしてならない。と思っていたら本当に新字がふわふわと浮いてくるので其の度に指で紙面に押さえ付けることとなった。指は新字体派となるのは畢竟である。

2026年4月15日水曜日

暮らしの140字小説65

四月某日、曇。散髪。青い蟹が髪を切ってくれる店へ。青い蟹は南の生まれらしく店ではいつも沖縄の唄が流れている。小気味よいハサミのリズムと、BGMに合わせて口ずさむ蟹の声を聞きながら微睡む。青い蟹は髪を切るのも、頭を洗うのも、髪を乾かすのも、実に手早い。午睡はあっという間に終わった。

2026年4月10日金曜日

暮らしの140字小説64

四月某日、曇。いつもの夢を見る。学校と病院が融合したような施設を彷徨う。リノリウムの廊下や階段を歩き回るが目的の部屋はなかなか見当たらない。目が覚めると頭痛がする。首の後ろから生えたチューリップを引っこ抜き、花瓶に挿した。前に脇腹から抜いたカーネーションは、三週間も咲いたままだ。

2026年4月4日土曜日

#春の星々140字コンテスト「布」未投稿作

これまで書いた詩を、物語を、すべて燃やして灰にしたい。その灰を空地に撒けば苧が繁茂するだろう。苧から繊維を取り、織って、身に纏う。かつて吐き出した言葉の成れの果てで紡いだ布でこの身を包み、痛みに耐えるべきだ。だが、叶わない。私の言葉は紙の中にはなく、液晶画面に表示されるのみ。