六月某日、雨。今季食べ損なっていた空豆を、やっと求めることができた。莢は小振りだが、中の豆は思ったよりずっと立派で行儀よく二つずつ並んでいた。旨い。昨年は莢に包まれ眠る夢が叶ったが、こんなに小さい莢では望みは薄いと思いきや、枕用の空豆だった由。青い空豆の香りいっぱいの中で眠った。
懸恋-keren-
超短編
2026年6月25日木曜日
2026年6月8日月曜日
暮らしの140字小説70
六月某日、雨のち曇。雨が止んだので、苔たちのご機嫌伺いに出掛ける。自転車置き場の下、ブロック塀の陰、ごみ集積所の裏。しゃがみ込んで苔に話しかけていると犬に吠えられる。しっとりと濡れて緑を濃くした苔たち、元気そうで嬉しい。苔の顔と名前が一致しない不勉強を詫びながら、苔を巡って歩く。
2026年5月22日金曜日
暮らしの140字小説69
五月某日、晴。画に描いたような白い眉を持った鳥が、麗しい声で歌っている。歌いながら、あらゆる窓や鏡を突いては罅を入れていくので堪ったものではない。自動車の被害が激しい。サイドミラーを粉々になるまで突いている。「それは侵入者ではなく、きみ自身だ」と伝えるために、口笛を練習している。
2026年5月13日水曜日
暮らしの140字小説68
五月某日、晴。真新しい鉛筆を削る。新品の鉛筆を削る機会は滅多にない。小さなアルミの鉛筆削り器で削る。削り屑が細かい。しばらく削るうちに波打った削り屑らしい削り屑になる。やっと黒い粉も出てきた。キリリと尖った鉛筆にアルミのキャップを被せてペンケースに仕舞う。まだ少し長くて窮屈そう。
2026年5月5日火曜日
暮らしの140字小説67
五月某日、晴。赤と黄に押され気味なのか、時季が過ぎたのか、不作なのかは知らぬが、緑のキウイにお目にかからない。或いは「たぬきの店」になら、と思い葉っぱを持って行くと、あった。赤も黄も美味ではあるが、目にも眩しい鮮やかな緑色、明瞭な酸味、たしかな種の歯触り、キウイはこうでなくちゃ。
2026年4月28日火曜日
暮らしの140字小説66
四月某日、晴。百年前の人が書いた本を續けて読んだためか、すっかり舊字體に目が慣れてしまった。最近の本を開いたら紙面がすかすかと白っぽい氣がしてならない。と思っていたら本当に新字がふわふわと浮いてくるので其の度に指で紙面に押さえ付けることとなった。指は新字体派となるのは畢竟である。
2026年4月15日水曜日
暮らしの140字小説65
四月某日、曇。散髪。青い蟹が髪を切ってくれる店へ。青い蟹は南の生まれらしく店ではいつも沖縄の唄が流れている。小気味よいハサミのリズムと、BGMに合わせて口ずさむ蟹の声を聞きながら微睡む。青い蟹は髪を切るのも、頭を洗うのも、髪を乾かすのも、実に手早い。午睡はあっという間に終わった。