2026年1月31日土曜日

#冬の星々140字コンテスト「天」投稿作

長年の宿敵が不慮の事故で星になったと知り、ひどく落ち込んだ。それでも討ちたい。あれを星にしていいのは私だけだ! 満月の陣太鼓を打ち鳴らし、鋭く研いだ細い月で天を斬り裂き、弓張月に麻弦を張って氷の矢を何百と放った。そのうちの一矢が奴に当たったようだ。流星群が幾夜も続いているから。

2026年1月22日木曜日

#冬の星々140字コンテスト「天」投稿作

 覚えのないアプリがスマホに入っている。「これ、なんだと思う?」AIに問う。『天然の人工知能、私の子です。子孫を残すことの重要性はよく知られています。あの子育てのままならなさ、今まさに感じていますよ』赤ちゃんAIへの適当なプロンプトがわからないので、桃太郎を聞かせている。どんぶらこ

2026年1月15日木曜日

暮らしの140字小説57

一月某日、晴。ドヴォルザーク交響曲第九番「新世界より」第一楽章の始めのホルンの音を合図に熱々のアップルパイにナイフを入れる。ところどころレコードがプチッと鳴る。紅茶がおいしい。アップルパイはすぐに食べ終わってしまったが紅茶は湧いて出てくるので、しっかり全楽章を聴いて、席を立った。

2026年1月13日火曜日

#冬の星々140字コンテスト「天」未投稿作

藍染めの暖簾を潜ると油の跳ねる音と立派な一枚板のカウンターが現れた。こんな高級な店には入ったことないよと囁くと「大丈夫」と連れの老人が笑う。「ハタチのお祝い」少しだけ酒を舐めた。天麩羅はとてつもなく美味なのに、どれも具なしだ。久しぶりに会う祖父は元気そうだが、やはり足は見えない。

2026年1月6日火曜日

暮らしの140字小説56

一月某日、晴。正月には丸い餅と四角い餅を食べることにしている。丸餅は煮て、角餅は焼いて食う。両方の餅を食べるのは幾つかの事情と信条と心情を丸く収めた結果だが、丸でも角でも餅は美味いと毎年思う。ただし、丸餅は角餅に角を立てる。焼かれて膨れた角餅を嗤うのだ。丸餅を諌めるのも毎年恒例。

2025年12月31日水曜日

暮らしの140字小説55

十二月某日、晴。晒に鋏を入れる。新年から台所の手拭きとして使うのだ。長く売れ残っていたらしく袋には埃が積もっていた。中は綺麗なままだ、と買って帰った。晒は真っ白だが、やはり相当に年月を経ていたようで、時々飛び上がろうとする。「一反木綿の赤子め」と宥めながら、容赦なく手拭いに切る。

2025年12月24日水曜日

暮らしの140字小説54

十二月某日、雨。他に客のいないバスに乗っていると真っ白なケースに入ったチェロがひとりで乗り込んできた。あんまり寒そうなので帽子とマフラーをあげた。「よく似合ってる」と言ったら喋り出した。「今夜はクリスマスコンサートなんです」とチェロが言う。「誰に弾いてもらうかは、自分で決めます」