2026年10月24日土曜日

#秋の星々 140字小説 コンテスト「本」未投稿作品

羊羹を切るのは難しい。真っすぐ包丁を入れるのももちろん難しいのだが、本煉羊羹ならではの深い色と艶に見惚れて刃物を当てる気になれないのだ。しかしそうも言っていられない。お茶が冷める。上手く切れれば今度はその断面の美しさに息を呑む。いつまでも見ていたいと思うのに気づけば湯呑も皿も空。

2026年10月14日水曜日

#秋の星々 140字小説 コンテスト「本」未投稿作品

図書室の隅でしゃがみ込んでいる子がいた。「気持ち悪い? 保健室行く?」黙って首を横に振るばかり。先生を呼ぼうかと思ったが、私の服を引っ張って嫌がる。なんとなく気が合って、放課後、一緒に本を読むのが日課になった。オバケや幽霊が出てくる絵本が好きで、何度も読んではケタケタ笑っていた。

2026年9月17日木曜日

崩れる紙80

私は最後の本を書き始めた。この本だけはトイの加筆なしに写してほしいと考えている。そして、将来この図書館にやって来た「篤学者」には最初に読んでもらいたい。物語風の本は初めて書く。崩れる紙のことと自動人形たちとの思い出。うまく書けているだろうか。そう、今あなたが読んでいる、この話。完

2026年9月16日水曜日

崩れる紙79

私は思いがけず長生きし、トイは近頃よく居眠りをしている。自動人形に作り変わるための眠りが近いのかも知れない。司書とルウバは協力して【トイの本】の詳細な目録を作り、完全に記憶していく。ルウバはそれを基に、一冊一冊に壺を作る。学者の本のための壺とは違う形だ。どことなくトイに似ている。

崩れる紙78

ただ、この町の崩れる紙には細密画は不向きなようで、テクネは大きく描いたり簡略化して描くことも多い。それはそれで私の目には好ましく映る。こうした工夫がテクネをさらに上達させ、時には新たな発見をもたらすこともあった。そしてまた私は本を書かずにはいられず、本棚に本が少しずつ戻ってきた。

2026年9月15日火曜日

崩れる紙77

自動人形の一族は人である頃から手先が器用であるようだ。司書の製本、ルウバの陶芸、トイは笛作りと演奏。テクネは絵が巧い。緻密な絵を描く。本に必要な図や絵も描いてくれるようになった。昆虫や植物、機械の構造などは特に素晴らしい。【私の本】と【トイの本】二回描くことになっても厭わない。

崩れる紙76

ルウバが【私の本】を音読するのをテクネは子守歌のように聞いて育った。テクネの「ねぇトク、どうして?」をきっかけに、私とトイは議論を深めることもよくあった。素朴な質問が多かったテクネも段々と本格的に議論に加わるようになり、おかげで当初予想していたよりも多くの本を書くことになった。