2026年9月7日月曜日

崩れる紙59

「まずは歌を覚えてもらわなくちゃ」とトイが言う。この町の葬送の際に唱えらる祈りの詩に節が付いたもので、古代語が含まれるために発音も難しいらしい。さらに学者が自動人形のために加えた詩も一緒に覚えなければならない。トイによる特訓が始まった。「美しい発音」にしたいと司書もトイも言った。

2026年9月6日日曜日

崩れる紙58

自動人形の司書がやってきて淡々と本だった欠片を羽根帚で掃き集め、壺に入れる。蓋をして、棚に置く。棚から本は消えた。壺だけがずらりと並ぶ姿は荘厳ですらあった。トイが呟く。「もう一度、本棚にしたいな」私も考えを固めつつあった。でもその前に「地下の自動人形たちのお弔いを」司書は頷いた。

崩れる紙57

図書館の最後の一冊は「死」であった。生物の細胞や組織の破綻、なぜ死を恐れるのか、古今東西の哲学者が語った死。特に各地の葬送の文化と歴史について多くの頁が費やされている。細かな情報を載せ、学者の深い考察が述べられていた。この本を閉じた瞬間、この図書館は「死」を迎える。本は、崩れた。

2026年9月5日土曜日

崩れる紙56

本を書くとしても選択肢は多い。ここの崩れる紙に書き、この町に残す。故郷の紙で書き、この町に残す。故郷の紙に書き、持ち帰る。同じ本を二冊ずつ作り、この町にも故郷にも残す――継承すること。物を残すこと。この町で過ごすうちにこれらへの考え方が揺らいでいる。永年に残すことは「是」なのか。

2026年9月4日金曜日

崩れる紙55

そうだった。学者は話すのに困難を抱ええていた。「学者の頭脳と自動人形を繋ぎ、自動人形が筆記しました。人形にも休息は必要ですが、人よりはずっと速く、長時間書き続けられます。『うっかり読み返す』こともありません」ここの紙は少し読んだだけで字は消えてしまう。「筆記したのは、私の親です」

崩れる紙54

「学者はこの図書館の本をどうやって書いたのでしょうか。一人で書くには膨大な数だと思うのですが」と、自動人形の司書に聞いてみた。「一部は学者本人が書きましたが、多くは自動人形が書きました」「口述筆記?」「いいえ。学者の声は聞き取り難く、学者本人も長く話すと調子を崩してしまいました」

崩れる紙56

自動人形三代で、学者の本を代筆し、本にして、遺物を収める壺まで作ったということか……。学者と自動人形一族との関わりの深さに少々嫉妬している自分に気が付き、苦笑いをする。「私も司書さんと繋がって、本を書いてもらうことはできるのですか」「はい。小さな手術が必要になりますが、可能です」