超短編
私は最後の本を書き始めた。この本だけはトイの加筆なしに写してほしいと考えている。そして、将来この図書館にやって来た「篤学者」には最初に読んでもらいたい。物語風の本は初めて書く。崩れる紙のことと自動人形たちとの思い出。うまく書けているだろうか。そう、今あなたが読んでいる、この話。完
私は思いがけず長生きし、トイは近頃よく居眠りをしている。自動人形に作り変わるための眠りが近いのかも知れない。司書とルウバは協力して【トイの本】の詳細な目録を作り、完全に記憶していく。ルウバはそれを基に、一冊一冊に壺を作る。学者の本のための壺とは違う形だ。どことなくトイに似ている。
ただ、この町の崩れる紙には細密画は不向きなようで、テクネは大きく描いたり簡略化して描くことも多い。それはそれで私の目には好ましく映る。こうした工夫がテクネをさらに上達させ、時には新たな発見をもたらすこともあった。そしてまた私は本を書かずにはいられず、本棚に本が少しずつ戻ってきた。
自動人形の一族は人である頃から手先が器用であるようだ。司書の製本、ルウバの陶芸、トイは笛作りと演奏。テクネは絵が巧い。緻密な絵を描く。本に必要な図や絵も描いてくれるようになった。昆虫や植物、機械の構造などは特に素晴らしい。【私の本】と【トイの本】二回描くことになっても厭わない。
ルウバが【私の本】を音読するのをテクネは子守歌のように聞いて育った。テクネの「ねぇトク、どうして?」をきっかけに、私とトイは議論を深めることもよくあった。素朴な質問が多かったテクネも段々と本格的に議論に加わるようになり、おかげで当初予想していたよりも多くの本を書くことになった。
何の前触れもなくトイは赤ん坊を連れてきた。「朝起きたら、隣で子供が寝ていた」と、トイは生き写しのようにそっくりの子をあやしている。「トクに名付け親になってもらいましょう」と自動人形の司書が言う。私が「テクネ」と名付けた子は成長が早く、あっという間にトイと見分けがつかなくなった。
少しずつ本棚に【トイの本】が増えていく。【私の本】はトイが読み、参照し終えたものから故郷に送っている。故郷の若者たちが読み、勉学に励んでくれれば嬉しい。何度でも読めるのだから。いつかは故郷に戻り、本はその時に自分で持ち帰るつもりだったのだが、状況が変わった。トイが子を成したのだ。