2019年12月27日金曜日

長く小さく、深く大きく

モニターに映し出されたのは長く長く小さな小さな数字の羅列だった。
IDを照会するには、この数字をすべて写し、入力しなければならない。

もっと問題だったのは、小さな数字が、円形にびっしり書き込まれていることだった。
どこからどういう順序で写せばよいのか、わからないのだ。

背中の消えず見えずインクも同様だった。皆が、深く大きなため息をついた。
「これでは、ID照会するのは難しいですね」
若者も天道虫も、しょんぼりとしていた。
「擽ったい目に合わせてしまって、申し訳ない……」
どうか気にしないでほしいと、心から伝えた。

「最新の機器であれば、入力せず、画像から自動的に照会できるのですが、この町にはそこまでできる機械はないのです」
歯がゆそうに言う。何か思うところがあるのだろう。

この町やこの家族に甘えられる時間は、もうないのかもしれない。ふとそんな思いが沸いた途端に、青い鳥が叫んだ。

2019年12月14日土曜日

擽りの刑

「腕から行きましょう」
と、主治医はゴム手袋を手にしながら言った。
シャツを脱ぎ、左腕を差し出す。

「上腕の内側だったと思います」
スタンプを捺す白い服の男の様子を思い出しながら言った。

主治医の手が、左腕の内側を撫でていく。
「ひっ!」
思わず声が出た。擽ったい。
「動かないで」
主治医が硬い声音で言う。
「羽毛でくすぐられているようです……」
そばにいた若者が、掴まれと目配せする。手首を握ってしまったが、ずいぶん力を入れてしまう。あまりにも擽ったいので、緩められない。
こちらは苦痛に耐えながら笑い震え、若者の手首を握りしめる。
彼は強く握られた手首の痛みに顔を歪ませる。
「申し訳、ひゃっ! ない……」
一秒でも早く終わってほしい。
「ああ、ここだ」
モニターにスタンプが映し出された。