懸恋-keren-
超短編
2002年9月24日火曜日
ある無口な男の話
彼は片輪であることを隠さなかったが、その理由を語ることもなかった。
彼の瞳はいつも憂いを帯びていた。しかし、黙って遠くを見据えていた。
町の人々は片輪の理由も憂いの理由も知っていた。
それでも彼を遠巻きに見る者は多かった。
そんな彼を遠方から訪ねてきた者があった。
若い娘とその母親だった。
「ただいま……」
彼の目から憂いが静かに流れていった。
パウル・クレー≪片翼の英雄≫をモチーフに
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