懸恋-keren-
超短編
2002年9月3日火曜日
マニキュア
妻にとってマニキュアを塗るという行為は儀式だった。
彼女はまずコーヒーを入れる。
それから、手を念入りに洗って、マッサージする。
そして何十色もある中から一つを選び、
お気に入りのチェアーに掛けて、ライトを点けて
塗りはじめる。右手の親指から。
僕は妻の入れたコーヒーを飲みながらそれを眺める。
僕の見ている前でしか、妻はマニキュアを塗らない。
それは僕にとっても儀式だった。
コーヒーはいつもとなぜか味が違う。
妻の顔も、いつもとはなぜか違う。
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