懸恋-keren-
超短編
2002年11月7日木曜日
押し出された話
帰ってくると家の塀に不自然なくらい真ん丸い穴が空いていた。
こどもなら通れそうな大きさである。
「これはどうしたもんかな。とにかく直してもらわなけりゃ」
しゃがみこんで穴をしげしげと観察していたら、後からぐいぐいと押し込まれた。
いくらなんでも大人の私が通れるはずもない。
身体はちぎれそうなのに容赦なく押され気が遠くなりかけた。
ようやく押し出され顔を上げると知らない月が見えた。
「ご苦労さまでした。今夜は私の後ろ姿をお目にかけようと思いまして」
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