2002年12月20日金曜日

自分によく似た人

「あのー。落としましたよ」
振り返ると中年の男が私の財布を差し出していた。
「あぁ!どうもありがとうございます。……あの、何か?」
彼は私が礼を述べても半ば放心したようにつっ立っていたのだ。
「これは失敬、あなたが私の知り合いによく似ているもので……」
「はぁ。そんなに似ていますか?」
「ええ」
彼は困ったような泣きそうな笑顔で去っていった。

その表情が印象的で長いこと忘れられずにいた。
近ごろは鏡の前に立つ度に思い出す。
鏡の中から私を見つめ返す顔は、二十年前に財布を拾ってくれた男にそっくりなのだ。