懸恋-keren-
超短編
2002年7月2日火曜日
珈琲はじめて物語
その人は、いつも白いコーヒーカップを覗きこんでいた。
客が飲み終えたカップを洗う前にひとつづつ、滑稽なくらい真剣な眼差しで。
客が少ない時を見計らって尋ねてみた。
「カップを読んでいるんです」
「占いの類ですか」
「まぁ、そんなようなものです」
「何がわかるんですか」
「お客さんは、銭湯のコーヒー牛乳。カップ達は飲んだ人とコーヒーの出会いがわかるのです。私はそれを読むだけ。いいカップでしょう」
そう言って髭がほころんだ。
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