「健気な若者だった。なあ?モンドくん」とションヴォリ氏。
「やっぱり愛だよな」と摩耶。
「人殺しはよくないと思う……」
と百合ちゃん。
「ぼく、にんじゃになる。あんちゃん、ちゃんばらしよう!」
と掃部くん。
主水くんは「おいしい山菜が食べたいな」と思っていたが、口には出さなかった。
もし言えば、このまま山に行くことになるだろうから。
主水くんはちょっと疲れている。
レオナルド・ションヴォリ氏は相変わらずじいさんで主水くんも少し前からじいさんだ。
「ほれ、モンドくん」
「はい、博士」
2004年1月17日土曜日
2004年1月16日金曜日
父の真実
長助は刀を振り回しながらいつしか涙を流していた。
そして、刀を降ろした。
長助の父、長吉も、父の仇討ちを狙う為に、隣国のスパイを監視する忍者になった。
監視を続けるうちスパイの女と長吉は恋に落ちた。
それが知れ渡り、やむなく自害することとなったのだ。
父は殺されたように見せかけるため、女に斬らせた上で、転げ落ちるようにして川へ飛び込んだのだ。
長助の初めて知る父の姿だった。
奥から娘が出てきた。7,8歳だろうか、色の白い子だ。女は言った。
「あんたの妹さ。あたしは自分の国に帰らなきゃいけない。どうか、この子を養ってやってください」
父の死の真相は明らかになった。
もう、長助に恨む者はない。
三代続いた父の仇のための忍者ごっこはおしまいだ。
いや、終わりにしなければならぬ。
これ以上戦ってもまたお互い仇を生むだけだ。
長助は忍者の看板を降ろした。
そもそも隣国のことなんて何一つしらないのだ。
長助は鍛冶屋に専念し、山菜売りは母と妹が継いだ。
長吉16の秋のこと。
完
そして、刀を降ろした。
長助の父、長吉も、父の仇討ちを狙う為に、隣国のスパイを監視する忍者になった。
監視を続けるうちスパイの女と長吉は恋に落ちた。
それが知れ渡り、やむなく自害することとなったのだ。
父は殺されたように見せかけるため、女に斬らせた上で、転げ落ちるようにして川へ飛び込んだのだ。
長助の初めて知る父の姿だった。
奥から娘が出てきた。7,8歳だろうか、色の白い子だ。女は言った。
「あんたの妹さ。あたしは自分の国に帰らなきゃいけない。どうか、この子を養ってやってください」
父の死の真相は明らかになった。
もう、長助に恨む者はない。
三代続いた父の仇のための忍者ごっこはおしまいだ。
いや、終わりにしなければならぬ。
これ以上戦ってもまたお互い仇を生むだけだ。
長助は忍者の看板を降ろした。
そもそも隣国のことなんて何一つしらないのだ。
長助は鍛冶屋に専念し、山菜売りは母と妹が継いだ。
長吉16の秋のこと。
完
2004年1月15日木曜日
父の仇
そしてついにその機会はやってきた。
山菜を買う奥さんの輪の中に鋭い目をした女がいたのだ。
若くないが身体が引き締まっているのが着物の上からでも見て取れる。
なんともないようで隙のない身のこなし。
長助は時間をかけて女を追った。ここで焦ってはいけない。
やっとのことで女の住まいを見つけだした。
「ごめんください。山菜のご用はありますか?」
「悪いね、うちは間に合ってるよ。」
長助は背中に隠した刀を取り出し、声色を変えた。
「ここであったが百年目、盲亀の浮木、うどんげの花・・・」
「長吉つぁん?」
女は父の名をつぶやいた。
「やはり、おぬしが父の仇。覚悟致せ。」
長助は女に切りかかった。
女はひらりと身を翻し、戸の脇に常備していると見える刀を手にした。
激しく刀を交えながら女は喋り続けた。
「あんた、長吉っつぁんの倅だね?あたしの話を聞いとくれ。」
「問答無用」
「そんなら勝手に喋るわ」
山菜を買う奥さんの輪の中に鋭い目をした女がいたのだ。
若くないが身体が引き締まっているのが着物の上からでも見て取れる。
なんともないようで隙のない身のこなし。
長助は時間をかけて女を追った。ここで焦ってはいけない。
やっとのことで女の住まいを見つけだした。
「ごめんください。山菜のご用はありますか?」
「悪いね、うちは間に合ってるよ。」
長助は背中に隠した刀を取り出し、声色を変えた。
「ここであったが百年目、盲亀の浮木、うどんげの花・・・」
「長吉つぁん?」
女は父の名をつぶやいた。
「やはり、おぬしが父の仇。覚悟致せ。」
長助は女に切りかかった。
女はひらりと身を翻し、戸の脇に常備していると見える刀を手にした。
激しく刀を交えながら女は喋り続けた。
「あんた、長吉っつぁんの倅だね?あたしの話を聞いとくれ。」
「問答無用」
「そんなら勝手に喋るわ」
2004年1月13日火曜日
忍者になった長助のわけ
長助は隣国のスパイの噂を聞いた。
父の長吉はスパイの諜報活動を目撃してしまい、「消された」のでは、という内容だった。
そして長助は父の仇を討つために忍者としての修行をつみ、望み通り隣国のスパイを監視する役を仰せつかったのである。
与えられた仕事は監視することのみ。しかし長助は心に決めていた。
スパイと接触し、父の殺しと関係があるとわかれば、仇を討つと。
そのために長助は父の作品である大小を念入りに手入れしていた。
小刀はいつも懐に忍ばせ、いざという時には刀を持参するつもりだった。
父の長吉はスパイの諜報活動を目撃してしまい、「消された」のでは、という内容だった。
そして長助は父の仇を討つために忍者としての修行をつみ、望み通り隣国のスパイを監視する役を仰せつかったのである。
与えられた仕事は監視することのみ。しかし長助は心に決めていた。
スパイと接触し、父の殺しと関係があるとわかれば、仇を討つと。
そのために長助は父の作品である大小を念入りに手入れしていた。
小刀はいつも懐に忍ばせ、いざという時には刀を持参するつもりだった。
長助のこと
山菜売りの長助は毎朝早くに山へ入り、山菜を取り、昼前には町に出て売り歩く。
若い割に愛想のいい長助は町の奥さん連中にも人気があって、売り上げも安定していた。
贅沢さえ望まなければ、十分満足な暮しだった。
しかし、それは世を忍ぶ仮の姿であったのだ。
長助は隣国のスパイを探す一流忍者。
山を歩きながら、商売をしながら、夜の町を徘徊しながら、
スパイの気配が現れやしないかと全神経を研ぎ澄ませているのだ。
長助は特別な人間ではなかった。
真面目で優しい両親のもとで野山を駆け回って育ち、
将来は父の後を継いで鍛冶屋になるつもりでいた。
ところがその父が何者かに殺されたのである。長助10歳の秋のことだった。
若い割に愛想のいい長助は町の奥さん連中にも人気があって、売り上げも安定していた。
贅沢さえ望まなければ、十分満足な暮しだった。
しかし、それは世を忍ぶ仮の姿であったのだ。
長助は隣国のスパイを探す一流忍者。
山を歩きながら、商売をしながら、夜の町を徘徊しながら、
スパイの気配が現れやしないかと全神経を研ぎ澄ませているのだ。
長助は特別な人間ではなかった。
真面目で優しい両親のもとで野山を駆け回って育ち、
将来は父の後を継いで鍛冶屋になるつもりでいた。
ところがその父が何者かに殺されたのである。長助10歳の秋のことだった。
2004年1月12日月曜日
叱り叱られた主水くんのこと
ションヴォリ氏一行は開演分秒前に劇場に入った。
売店でジュースとポップコーンを買う。
ションヴォリ氏はチョコレートを欲しがったが、主水くんに止められて諦めた。
ションヴォリ氏、摩耶、百合ちゃん、掃部くん、主水くんの並びで席に付いた。
客席はガラガラだ。
ションヴォリ氏たちの他は親子連れが4組いるだけである。
それもそのはず、274人しか住民がいない町にある、500席の劇場なのだ。
「まだ?」
掃部くんは主水くんに聞く。これで八回目だ。
呆れた主水くんがちょっと怖い顔で睨むと
「もう少しだからね」
とにっこり百合ちゃんが言い、膝をぽんぽんとたたいた。
掃部くんは主水くんに「あかんべー」をしてみせた。
ブーーーーーーーー
開演のブザーがなり照明が落ちる。
「ほ! ほーい!」
ションヴォリ氏は喜びの声をあげた。
「ちょっと博士、やめてください。他にも見てる人がいるんですよ」
「大人四人、子供四人。たったのこれっぽちではないか」
「人数の問題じゃないでしょう」
「あんちゃん、うるさい」
売店でジュースとポップコーンを買う。
ションヴォリ氏はチョコレートを欲しがったが、主水くんに止められて諦めた。
ションヴォリ氏、摩耶、百合ちゃん、掃部くん、主水くんの並びで席に付いた。
客席はガラガラだ。
ションヴォリ氏たちの他は親子連れが4組いるだけである。
それもそのはず、274人しか住民がいない町にある、500席の劇場なのだ。
「まだ?」
掃部くんは主水くんに聞く。これで八回目だ。
呆れた主水くんがちょっと怖い顔で睨むと
「もう少しだからね」
とにっこり百合ちゃんが言い、膝をぽんぽんとたたいた。
掃部くんは主水くんに「あかんべー」をしてみせた。
ブーーーーーーーー
開演のブザーがなり照明が落ちる。
「ほ! ほーい!」
ションヴォリ氏は喜びの声をあげた。
「ちょっと博士、やめてください。他にも見てる人がいるんですよ」
「大人四人、子供四人。たったのこれっぽちではないか」
「人数の問題じゃないでしょう」
「あんちゃん、うるさい」
2004年1月11日日曜日
敏捷な火付け人について歩いた一行のこと
一行は火付け人の後に付いて劇場まで歩いた。
火付け人の様子はいつまで見ていても飽きなかったのだ。
火付け人は狭い通路の中を反復横跳びのごとく、左右の壁に寄りながら火を付けるので忙しい。
しかし、彼の動きはすばやく一行の歩みは遅くはならなかった。
掃部くんは火付け人に合わせて「あいせっふぁいあ と きんど」と大きな声で言っていた。
「こら、掃部。仕事の邪魔をしちゃだめじゃないか。すみません、うるさくて」
と主水くんは謝ったが、火付け人は気にしてないようだった。
「どうでっしゃろ。あいせっふぁいあ と きんど」
火付け人の様子はいつまで見ていても飽きなかったのだ。
火付け人は狭い通路の中を反復横跳びのごとく、左右の壁に寄りながら火を付けるので忙しい。
しかし、彼の動きはすばやく一行の歩みは遅くはならなかった。
掃部くんは火付け人に合わせて「あいせっふぁいあ と きんど」と大きな声で言っていた。
「こら、掃部。仕事の邪魔をしちゃだめじゃないか。すみません、うるさくて」
と主水くんは謝ったが、火付け人は気にしてないようだった。
「どうでっしゃろ。あいせっふぁいあ と きんど」
2004年1月9日金曜日
あいせっふぁいあ と きんど のこと
主水くんがなかなか戻ってこないので皆、様子を見に来た。
「あ、博士。この人が 壁の蝋燭を付けてまわっている人です。」
「そりゃご苦労なことで」
「どうでっしゃろ。あいせっふぁいあ と きんど」
「千本もあるんですって、蝋燭」
「それは前に数えたから知ってる」
「はぁ、そうですか。この蝋燭、一時間持つそうですよ」
「じゃあ、千本目の火を付けたころ、一本目はもう消えてるんじゃないかしら?」
百合ちゃんが言ったが、火付け人は聞こえなかったらしい。
「千本目の火を付けるときには、一本目はどうなってるんですか?」
「右壁、左壁かわりばんこにえっほ、えっほ。全部終わるのに45分後、戻ってくるのに15分。あいせっふぁいあ と きんど」
火付けはこの科白を何度も言っているのだろう、よどみなく歌うように口にした。
「すごい。ちょうど一時間だ。でも、それじゃぁ休む時間がないじゃない!」
摩耶が大きな声を出した。
「どうでっしゃろ。あいせっふぁいあ と きんど」
「あ、博士。この人が 壁の蝋燭を付けてまわっている人です。」
「そりゃご苦労なことで」
「どうでっしゃろ。あいせっふぁいあ と きんど」
「千本もあるんですって、蝋燭」
「それは前に数えたから知ってる」
「はぁ、そうですか。この蝋燭、一時間持つそうですよ」
「じゃあ、千本目の火を付けたころ、一本目はもう消えてるんじゃないかしら?」
百合ちゃんが言ったが、火付け人は聞こえなかったらしい。
「千本目の火を付けるときには、一本目はどうなってるんですか?」
「右壁、左壁かわりばんこにえっほ、えっほ。全部終わるのに45分後、戻ってくるのに15分。あいせっふぁいあ と きんど」
火付けはこの科白を何度も言っているのだろう、よどみなく歌うように口にした。
「すごい。ちょうど一時間だ。でも、それじゃぁ休む時間がないじゃない!」
摩耶が大きな声を出した。
「どうでっしゃろ。あいせっふぁいあ と きんど」
2004年1月8日木曜日
火付け人のこと
ひょっこひょっこと背の低い男がぶつくさ歌いながら歩いていた。
「きゃんどる、ろうそく、えっほ、えっほ」
壁の蝋燭の前に来ると今度はインギンに低い声を出した。
「あいせっふぁいあ と きんど」
禿びて消えかかった蝋燭に手をかざし息を吹きかけると、たちまち蝋燭は甦った。
主水くんは合点した。
おそらくこの人が地下通路の唯一の明かりである蝋燭の管理をしているのだ。
「こんにちは」
「どうでっしゃろ」
「あのう、おじさんが蝋燭をつけて回ってるんですか?」
「わしがやらなきゃだれがやる。あいせっふぁいあ と きんど」
「この蝋燭、どのくらい火が持つんですか?」
「一時間。あいせっふぁいあ と きんど」
「蝋燭、何本あるんですか?」
「千本。あいせっふぁいあ と きんど」
「そんなに!」
「きゃんどる、ろうそく、えっほ、えっほ」
壁の蝋燭の前に来ると今度はインギンに低い声を出した。
「あいせっふぁいあ と きんど」
禿びて消えかかった蝋燭に手をかざし息を吹きかけると、たちまち蝋燭は甦った。
主水くんは合点した。
おそらくこの人が地下通路の唯一の明かりである蝋燭の管理をしているのだ。
「こんにちは」
「どうでっしゃろ」
「あのう、おじさんが蝋燭をつけて回ってるんですか?」
「わしがやらなきゃだれがやる。あいせっふぁいあ と きんど」
「この蝋燭、どのくらい火が持つんですか?」
「一時間。あいせっふぁいあ と きんど」
「蝋燭、何本あるんですか?」
「千本。あいせっふぁいあ と きんど」
「そんなに!」
2004年1月7日水曜日
耳を澄ます百合ちゃんのこと
コツン コツンコツン コツンと後方で不規則な足音がすることに気づいたのは百合ちゃんだった。
言い忘れていたが百合ちゃんは耳がいい。摩耶の歌声を耳栓なしで聞くことができるのだ。
自分の声がよく聞こえるせいか、百合ちゃんの声はやや小さい。
「ねぇ、主水くん、後に誰かいるみたい……」
「ん?なに?」
「うしろに」
「誰かいるの?シネマを見に行く人じゃない?」
「ううん、変な歩き方してるし……おかしな歌を歌ってるみたい……」
「見てきたほうがいい?」
「うん……」
主水くんはだいぶ前を歩いているションヴォリ氏と摩耶に声を掛けた。
(掃部くんの歩調に合わせていた主水くんたちは、ションヴォリ氏たちと離れてしまっていたのだ。)
「博士!少し待っててください」
「どうかしたのか、モンドくん」
「ちょっと後の様子を見てきます。時間はまだ32分44秒ありますから」
「ほいほい」
言い忘れていたが百合ちゃんは耳がいい。摩耶の歌声を耳栓なしで聞くことができるのだ。
自分の声がよく聞こえるせいか、百合ちゃんの声はやや小さい。
「ねぇ、主水くん、後に誰かいるみたい……」
「ん?なに?」
「うしろに」
「誰かいるの?シネマを見に行く人じゃない?」
「ううん、変な歩き方してるし……おかしな歌を歌ってるみたい……」
「見てきたほうがいい?」
「うん……」
主水くんはだいぶ前を歩いているションヴォリ氏と摩耶に声を掛けた。
(掃部くんの歩調に合わせていた主水くんたちは、ションヴォリ氏たちと離れてしまっていたのだ。)
「博士!少し待っててください」
「どうかしたのか、モンドくん」
「ちょっと後の様子を見てきます。時間はまだ32分44秒ありますから」
「ほいほい」
2004年1月6日火曜日
落とし穴のこと
大通りの花屋と靴屋の間には大きな四角い穴がある。
店舗がぴっちり立ち並ぶ大通りにあってその隙間はあきらかにテンポを乱している。
余所の人がそうと知らずにのぞき込み、足を踏み外して怪我をする事故も後を断たない。
ゆえに通称「落とし穴」。
実はこれが劇場への入り口なのだ。
石でできた長い階段を降りて暗い地下通路を15分ほど行くと、劇場だ。
掃部くんがここに入るのは初めてである。
通路は三人歩くのがやっとくらいの幅で、天井も低い。
両側の壁には6尺ごとに蝋燭が灯されているが、それでも相当に暗い。
五人の足音がカン カンと響きわたる。
店舗がぴっちり立ち並ぶ大通りにあってその隙間はあきらかにテンポを乱している。
余所の人がそうと知らずにのぞき込み、足を踏み外して怪我をする事故も後を断たない。
ゆえに通称「落とし穴」。
実はこれが劇場への入り口なのだ。
石でできた長い階段を降りて暗い地下通路を15分ほど行くと、劇場だ。
掃部くんがここに入るのは初めてである。
通路は三人歩くのがやっとくらいの幅で、天井も低い。
両側の壁には6尺ごとに蝋燭が灯されているが、それでも相当に暗い。
五人の足音がカン カンと響きわたる。
2004年1月5日月曜日
主水くんの胸に冷たい風が通り抜けたこと
翌日、ションヴォリ氏と主水くんと掃部くんが10時00分2秒に噴水前に到着すると、すでに百合ちゃんは待っていた。
「おはよう、百合ちゃん。早いんだね」
「掃部ちゃん」
「あー、ゆりちゃーん」
「久しぶりね、掃部ちゃん」
掃部くんは百合ちゃんの手を取ってブンブン振り回している。主水くんはちょっと寂しい。
10時4分23秒に摩耶がやってきた。
「おはよう、レオナルド、みんな」
「さぁ、行こう。シネマは10時45分の開演なんだ」
ションヴォリ氏と摩耶はしっかりと腕を組んでずんずん歩き始めた。
へんな動物の皮を着た掃部くんは百合ちゃんに手を引かれて歩き出した。
主水くんは、とても寂しい。
仕方ないのでちょっと強引に、空いている掃部くんの右手を取った。
「あんちゃん、おてていたいよー」
「うるさい」
「?」
「おはよう、百合ちゃん。早いんだね」
「掃部ちゃん」
「あー、ゆりちゃーん」
「久しぶりね、掃部ちゃん」
掃部くんは百合ちゃんの手を取ってブンブン振り回している。主水くんはちょっと寂しい。
10時4分23秒に摩耶がやってきた。
「おはよう、レオナルド、みんな」
「さぁ、行こう。シネマは10時45分の開演なんだ」
ションヴォリ氏と摩耶はしっかりと腕を組んでずんずん歩き始めた。
へんな動物の皮を着た掃部くんは百合ちゃんに手を引かれて歩き出した。
主水くんは、とても寂しい。
仕方ないのでちょっと強引に、空いている掃部くんの右手を取った。
「あんちゃん、おてていたいよー」
「うるさい」
「?」
2004年1月3日土曜日
思惑がはずれた主水くんのこと
そういえば主水くんと百合ちゃんがこうしてゆっくり顔を合わすのはひさびさだ。
主水くんは思い切った。
「百合ちゃん明日は時間ある?シネマに行かない?明日の10時きっかりから10時4分59秒の間で待ち合わせよう。噴水のところで」
主水くんは一息にしゃべった。
「いいねぇ!行こう行こう」
答えたのは百合ちゃんではなく、摩耶だった。
「ほっほーい!シネマ!久しく見とらんな。リリィ、何が見たい?」
「あの、別に博士たちは……」
「掃部も一緒でしょ?やっぱりヒーローものかなー。百合はイヤ?」
「ううん、そんなことない。楽しみ」
主水くんは思い切った。
「百合ちゃん明日は時間ある?シネマに行かない?明日の10時きっかりから10時4分59秒の間で待ち合わせよう。噴水のところで」
主水くんは一息にしゃべった。
「いいねぇ!行こう行こう」
答えたのは百合ちゃんではなく、摩耶だった。
「ほっほーい!シネマ!久しく見とらんな。リリィ、何が見たい?」
「あの、別に博士たちは……」
「掃部も一緒でしょ?やっぱりヒーローものかなー。百合はイヤ?」
「ううん、そんなことない。楽しみ」
2004年1月2日金曜日
パフェに取り付くションヴォリ氏のこと
結局、ションヴォリ氏と主水くんと百合ちゃんの三人は摩耶の歌う喫茶店でチョコレートパフェを食べている。
「博士、こんな巨大なパフェでいいんですか?しかも、おやつの時間を47分23秒過ぎています。あとで食事が入らなくてもしりませんよ」
「だいじょうぶ。クリームがたっぷりで大変結構」
「わたし、お金持ってきてないよ……」
「気にしないで、百合ちゃん。お代は博士か゛ぜーんぶ持つからね」
「うん……ありがと、ションヴォリさん」
「リリィはやせっぽちだからなー。顔色も悪いの。たんとお食べ」
「博士、なんてこと言うんですか。百合ちゃんがもともと色白なのは博士だって知ってるでしょう」
「おーこわいこわい。モンドくんは何でそんなにご機嫌ななめなのかね」
「博士!」
「博士、こんな巨大なパフェでいいんですか?しかも、おやつの時間を47分23秒過ぎています。あとで食事が入らなくてもしりませんよ」
「だいじょうぶ。クリームがたっぷりで大変結構」
「わたし、お金持ってきてないよ……」
「気にしないで、百合ちゃん。お代は博士か゛ぜーんぶ持つからね」
「うん……ありがと、ションヴォリさん」
「リリィはやせっぽちだからなー。顔色も悪いの。たんとお食べ」
「博士、なんてこと言うんですか。百合ちゃんがもともと色白なのは博士だって知ってるでしょう」
「おーこわいこわい。モンドくんは何でそんなにご機嫌ななめなのかね」
「博士!」
2004年1月1日木曜日
察しの悪いションヴォリ氏のこと
「百合ちゃん!」
「あ、主水くん……」
「ほほーい、モンドくんでないか?どうした?マリーと一緒じゃなかったか?」
「どうしてって。博士こそ、どうして百合ちゃんと一緒にいるんですか」
「リリィか?久しぶりに会ったらかわいくなってたから声を掛けた」
「そんな……あー、もう!」
改めて百合ちゃんの姿を見た主水くん、そそくさと出ていってしまった。
「ん?なんで怒ってるんだモンドくんは」
「あ、主水くん……」
「ほほーい、モンドくんでないか?どうした?マリーと一緒じゃなかったか?」
「どうしてって。博士こそ、どうして百合ちゃんと一緒にいるんですか」
「リリィか?久しぶりに会ったらかわいくなってたから声を掛けた」
「そんな……あー、もう!」
改めて百合ちゃんの姿を見た主水くん、そそくさと出ていってしまった。
「ん?なんで怒ってるんだモンドくんは」
2003年12月31日水曜日
湯煙の中をさまよう主水くんのこと
広くて湯煙が立ちこめる浴場内を歩き回るのは難儀だ。
どんどん身体が熱くなり、主水くんの息は荒くなっていた。
大勢の人のざわめきとあちこちで流れる湯の音が反響する中でションヴォリ氏を呼ぶ声もかき消された。
「あ、あの洗面器は」
主水くんは桃色の洗面器の周囲にいる人々を見渡した。
そして湯に浸かっているションヴォリ氏を見つけた主水くんは、ションヴォリ氏ではない名を口にしたのである。
どんどん身体が熱くなり、主水くんの息は荒くなっていた。
大勢の人のざわめきとあちこちで流れる湯の音が反響する中でションヴォリ氏を呼ぶ声もかき消された。
「あ、あの洗面器は」
主水くんは桃色の洗面器の周囲にいる人々を見渡した。
そして湯に浸かっているションヴォリ氏を見つけた主水くんは、ションヴォリ氏ではない名を口にしたのである。
2003年12月29日月曜日
引く手あまたの毬子嬢のこと
主水くんが髪を洗われている間にも、何人かの人が毬子嬢に声を掛けていった。
「マリー、あとで頭を洗って欲しいんだ」
「マリちゃん、背中流してくれよう」
「頼んだよ、マリー」
頭を流し終えたところで主水くんは言った。
「おばちゃま、ありがとう。ぼくはもう自分でできますから。ほら、丈二おじさんが待ちくたびれてのぼせちゃいますよ」
「あら、ジョージ、あんなに真っ赤な顔して。そうねぇ、残念だけど」
毬子はウィンクして去っていった。
やっと解放された主水くん、心底ほっとした。
「あれ、博士はどこにいるんだろう」
「マリー、あとで頭を洗って欲しいんだ」
「マリちゃん、背中流してくれよう」
「頼んだよ、マリー」
頭を流し終えたところで主水くんは言った。
「おばちゃま、ありがとう。ぼくはもう自分でできますから。ほら、丈二おじさんが待ちくたびれてのぼせちゃいますよ」
「あら、ジョージ、あんなに真っ赤な顔して。そうねぇ、残念だけど」
毬子はウィンクして去っていった。
やっと解放された主水くん、心底ほっとした。
「あれ、博士はどこにいるんだろう」
2003年12月27日土曜日
毬子嬢のこと
主水くんは観念した。
こうなることは、はじめからわかっていたのだ。
確かに毬子嬢の洗髪は上手い。
広い浴場内をわざわざ探して彼女に頭を洗ってもらう人も少なくないのだ。
中にはお金を渡そうとする人もいたが、毬子はそれを嫌がる。
「こちらこそ洗わせてくれてありがとう。このお金は、次にここへ来るためにとって置いてちょうだい。そうしたらまた私が洗ってあげられるでしょ」
などと言ってやんわりと断っている。
本当に人を洗うのが好きなのだ。若い子が好きなのもまた、真実である。
主水くんがそんな毬子嬢に目をつけられないわけがない。
いくら上手に洗ってもらえるとは言っても、主水くんはトウのたった子供であるので
他人に身体を触られるのはどうにも具合が悪いらしい。
こうなることは、はじめからわかっていたのだ。
確かに毬子嬢の洗髪は上手い。
広い浴場内をわざわざ探して彼女に頭を洗ってもらう人も少なくないのだ。
中にはお金を渡そうとする人もいたが、毬子はそれを嫌がる。
「こちらこそ洗わせてくれてありがとう。このお金は、次にここへ来るためにとって置いてちょうだい。そうしたらまた私が洗ってあげられるでしょ」
などと言ってやんわりと断っている。
本当に人を洗うのが好きなのだ。若い子が好きなのもまた、真実である。
主水くんがそんな毬子嬢に目をつけられないわけがない。
いくら上手に洗ってもらえるとは言っても、主水くんはトウのたった子供であるので
他人に身体を触られるのはどうにも具合が悪いらしい。
2003年12月26日金曜日
石鹸を泡立てる毬子嬢のこと
大浴場の中は熱気と湯気でモワンとしている。
「さ、モンドちゃん。あっちが空いているわ。座ってちょうだい。」
主水くんが腰をおろすと、毬子嬢は長いお下げをグイッと頭のてっぺんでまとめてから、勢いよく石鹸を泡立てはじめた。
またたく間に毬子の両手には白い泡が山盛りになった。
「髪の毛、しばらく洗ってないんでしょ?かゆいところはない?」
「頭も身体も自分で洗えますから」
主水くんは最後の抵抗を試みた。
「遠慮しないでいいの。自分で洗うよりキレイになるんだから」
「さ、モンドちゃん。あっちが空いているわ。座ってちょうだい。」
主水くんが腰をおろすと、毬子嬢は長いお下げをグイッと頭のてっぺんでまとめてから、勢いよく石鹸を泡立てはじめた。
またたく間に毬子の両手には白い泡が山盛りになった。
「髪の毛、しばらく洗ってないんでしょ?かゆいところはない?」
「頭も身体も自分で洗えますから」
主水くんは最後の抵抗を試みた。
「遠慮しないでいいの。自分で洗うよりキレイになるんだから」
2003年12月24日水曜日
毬子嬢の視線を浴びる主水くんのこと
主水くんはあきらめて服を脱ぎ始める。
「モンドちゃん、おっきくなったわねぇ。ちょっと前まであんなに小さかったのに。カモンちゃんは元気?たまにはお風呂に入らないと」
毬子嬢はねっとりとした視線を主水くんに浴びせながら
彼の脱いだものをさらりと畳んでカゴに入れていく。
手と目と口が別々の生きものみたいだ、と主水くんは思った。
「放っておいて下さい。自分でできますから」
「いいのよぅ」
主水くんは毬子嬢に気付かれないよう、大きく息を吐いた。
「さぁ。お風呂に行きましょう。背中洗ってあげるからねぇ」
「モンドちゃん、おっきくなったわねぇ。ちょっと前まであんなに小さかったのに。カモンちゃんは元気?たまにはお風呂に入らないと」
毬子嬢はねっとりとした視線を主水くんに浴びせながら
彼の脱いだものをさらりと畳んでカゴに入れていく。
手と目と口が別々の生きものみたいだ、と主水くんは思った。
「放っておいて下さい。自分でできますから」
「いいのよぅ」
主水くんは毬子嬢に気付かれないよう、大きく息を吐いた。
「さぁ。お風呂に行きましょう。背中洗ってあげるからねぇ」
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