2002年10月31日木曜日

月光鬼語

「やあやあ某、武蔵国、山奥に住まう……」
「何をしているのですか?」
「邪魔するない。拙者は月に決闘を」
「なに決闘?それは聞き捨てなりませんな。こんな所では迷惑です。移動しましょう」
「おぬしには関わりのないこと。余計な口出しは無用でござる!」
「何をおっしゃいますか、私に決闘を申し込むのでしょう?」

2002年10月30日水曜日

A CHILDREN'S SONG

お月さまはおおいそがし
お月さまはおおあわて
お月さまはおおさわぎ

2002年10月29日火曜日

A PUZZLE

ジグソーパズルをやっている。
1週間かかってやっと完成に近づいた。
夜空のイラストのパズルで、サイズは小さめだが難しさは一級だ。
なにしろ濃紺の背景と月と星、そしてなぜか黒猫、それだけしか描かれていないのだ。
「よっし……」
最後のピースをはめた。
「おめでとーございマス!」
パズルが喋った……。いや、パズルの中の猫が喋った……。
「お祝いに-流星をプレゼンッしまーす」

バラバラバラバラバラバラバラバラ

2002年10月28日月曜日

A MEMORY

ちっちゃな黒猫を見つけたので、追いかけてみたんだ。
そいつは時々こちらを振り返って「ニャ」って言った。
「ついておいで」と言っているような気がしたんだ。
どんどん周りは知らない景色になった。でも怖くはなかった。
黒猫はいつのまにかいなくなってた。
覚えているのは、ただただ、お月さまがまんまるででっかくて眩しかったってことだけ。
どうやって家に帰ったのか、わからない。
そんな思い出。

2002年10月27日日曜日

お月様とけんかした話

夜道を歩いていたら酔っ払いがやってくるのが見えた。
「参ったな。ありゃ、お月さまだ」
お月さまはフラリフラリと歩いてきてぶつかった。
「おーい。謝れよぅー」
あんまり怖くない。
「ぶつかってきたのはそっちでしょう」
「なんだとぉー」
お月さまは殴りかかってきた。
しかし、そのまま勝手に倒れてしまった。
しばらくするとふらふらと空に昇っていった。

2002年10月26日土曜日

月とシガレット

いつもの自動販売機でたばこを買うと、知らないたばこがでてきた。
大きめの箱は青墨色、「SILVER MAN」と明るい鼠色の文字で書いてあった。
「外国のたばこがまぎれたのだろうか」
怪しいと思いつつ、好奇心もあり、そのまま持ち帰った。

早速たばこを開けようとした時、チャイムがなった。
「あぁ あなたは」
『スターダスト』で顔馴染みの男だ。
「私のたばこを返してください」
「あれはあなたのものでしたか!しかし、せっかくなので私にも味見させて下さいよ」
「それでは、今夜はあなたが月になってください」

2002年10月25日金曜日

ある夜倉庫のかげで聞いた話

近所に大きく古い倉庫があった。よくないウワサ―怪しい男が出入りしている―が流れていて、親には近付くなと度々言われていた。
でも俺たちは構いやしなかった。ほら、ガキが秘密基地にするのに最適だろ?
ある日、俺は一人で倉庫を探険していた。夢中になって日が暮れるのにも気付かず、慌てて帰ろうとしたら声が聞こえてきた。
「お月さま、早く起きて下さい!日が暮れましたよ!まったくねぼすけなんだから」

2002年10月24日木曜日

ハーモニカが盗まれた話

ポケットに入っているハーモニカがなくなった時は、神業だと思ったよ。
何しろポケットに手を入れて歩いていたオレはハーモニカを握ったままだったのだから。
握っていた物が突然なくなれば誰だって気が付く。
「やいやい。たいしたスリがいるもんだ」
そう毒付くと前方でピカリ、猫の目が光るのが見えた。

その夜、言うまでもなく下手クソなハーモニカは一晩中途絶えることがなかった。

2002年10月23日水曜日

流星と格闘した話

満月の晩、公園からなにやら嬌声が聞こえてきた。
行ってみると流星がプロレスの試合をしていた。
「あのー、これはどういう試合ですか?」
傍にいた星に尋ねると彼はひどく狼狽した後ニヤリとし
「おーい、コイツをリングに上げようぜ!」と叫んだ。
あっという間に連行された。
「えー、本日のメインエベントに続きまして、飛び込み試合を行ないます。
チャンピオンミスターハレー!VS通りすがりの人間!」

2002年10月22日火曜日

投石事件

あんまり石が降るので傘を差した。
しばらく歩くと兎が石を投げているのにでくわした。
「原因はキミか。あぶないじゃないか。」
「そんなことないよ。ただのキャッチボールだ。」
「キャッチボール?一人で?石で??なんてこった!」
ガッチャーン!
「コラァ!」

兎の姿は既になく、
雨でもないのに傘を差した背広姿の男が説教されたのだった。
ナンテコッタ。

星をひろった話

見慣れない物をひろったので人に見せてまわった。
「きれいだね」とA が言った。
Bは「盗みはよくない。」と言い
「高く買ってやれるぞ。悪くないだろ。」とCは言った。
「これ、なんだと思う?」と聞くと
皆「わからない」と言って去った。
「ちょっと見せて御覧なさい」
そう言ってきた男はかなり妖しかった。
「星だね」
星と呼ばれた物は、その言葉を待っていたかのように静かに光り、そして消えた。

2002年10月21日月曜日

月から出た人

ときどき独りで飲みに来る男、に気付いたのは『スターダスト』に通うようになって数か月経ってからのことだった。
静かな光を纏った、と言いたくなるような独特な雰囲気があり、しばしば見惚れてしまうのだった。
「いつもお独りですね?」
そう声を掛けると意外にも人懐こい笑顔が返ってきた。
我々は店を出て、秋の夜風にあたりながらゆっくりと歩いた。
「お住まいはどちらで?」
そう尋ねると男はゆっくりと十六夜の空を指差した。

2002年10月7日月曜日

妊婦

「あら奥さん、お腹の赤ちゃん元気そうでなによりね」
「ありがとう。でもせわしなくてこまるのよ」
「手なら、まだいいじゃない。うちの子は口だったのよ。もう、一日中、喋り続けるものだから本当に困ったわ」
「それは堪らないわね。私はジャンケンだけだから、我慢しなくちゃ。そうそう、Sさんは5ヶ月ですって」
「あら、そろそろ出てくるころじゃない」
「そうなの。それでさっき電話して聞いてみたら、髪の毛が生えてきたって」
「まあ!珍しい。それは将来有望よ!」
「でも、大変らしいわ。伸び続ける毛を切ってはいけないんですって」
「でも長ければ長いほどいいんでしょう?」
「そう。膝まで伸びたら、天才らしいわ」

パウル・クレー≪偶像の園≫をモチーフに

2002年10月6日日曜日

ここがイタリア?

異国に来たのは初めてだ。
「なんだか違う世界に迷い込んだようだ」
「SF小説みたいなこと言うんだな。飛行機で半日、海を渡っただけじゃないか。」
連れは町並みを眺めながら簡単に片付けてくれたので、それ以上は何も言いたくない。
しかし、この不安は本物だと確信できる。
空港を出てから、我々の声と靴音以外何の音も聞いていないのだから。

パウル・クレー≪イタリアの都市≫をモチーフに

2002年10月3日木曜日

自画像

空に映ったボクの姿。
それをカンバスにスケッチする。
ある時は太陽とともに、またある時は月とともに。
でも一番多いのは雲なんだよね。

パウル・クレー≪月は昇り、陽は沈む≫をモチーフ

2002年10月1日火曜日

ある時間旅行者の最期

《極秘調査報告》
20XX年10月1日22時ごろ都内某所交差点での
不可解な事故についての調査結果。
彼が轢いた男と彼を轢いた男は同一人物であったとみられる。
以上。

パウル・クレー≪ふたり分叫ぶ男≫をモチーフに