2004年4月30日金曜日

冷えた秘密を拾いに飛行機がひらひらとヒマラヤを飛ぶ。
冷えた秘密は、飛行機を見つけてひそやかな光を放ちはじめる。
飛行機は低く飛んで秘密の光を引き上げる。
秘密を拾い終わった飛行機は翻り柊の里へ帰る。
柊の里には冷えた秘密を溶かす緋色の火が控えているのだ。
溶けた秘密は秘密でなくなるのか?
日暮れの里に姫の秘め事の響き。

2004年4月28日水曜日

春の晴れた日、ハミングしながら原っぱを走っていると、ハシゴがありました。
果てしなく続きそうな長いハシゴを昇りきると旗がありました。
旗を取ると初恋の人が現われて「おめでとう。一着だよ」と言ってくれました。
初恋の人には羽が生えていました。
二人でハラハラしながら墓に入りました。
墓に入るのは初めてだったので恥ずかしかったです。

2004年4月27日火曜日

のろまな野良猫蚤だらけ。残さず飲めや、爪伸ばすな、海苔巻きに乗るなと罵られたのろまな野良猫、のそのそ軒下に逃れる。

2004年4月25日日曜日

ネオン街は眠らない。
ネグリジェ姿のねえさんのねっとりな願いを叶えるために。
ネズミがネコに狙われるのを見届けるために。
嫉みにまみれた誰かさんの螺旋がゆるむように。
ネオン街は眠らない。

2004年4月24日土曜日

沼の主はヌエと呼ばれている。
ヌエの体は濡れ、ぬらぬらとしている。
その正体が盗人の縫ったぬいぐるみであることは、周知の事実。
盗人はしばしばヌエという名のぬいぐるみを沼から抜き、濡れた布で拭っているが、それは糠に釘かもしれぬ。

2004年4月23日金曜日

忍者は人魚の匂いを感じて逃げる。
刀傷沙汰は忍者に似合わない。
西へ西へ。
人魚の匂いは人形の匂いに似ている。
が、人形は偽物だ。人魚には苦みがあるが人形にはない。
忍者は憎憎しい人魚から逃げ切ると、賑やかな町に出た。まもなく日没だ。
我が家に戻り、ニシンの煮込みと握り飯を食べ日記をつける。
入浴の後には、乳液で肌を整え、妊娠中の女房と睨み合って眠る。

2004年4月22日木曜日

なにもなかった。波も渚も。
この星に夏はもうこない。涙も流れない。
底のない奈落になだれ落ちる。

2004年4月21日水曜日

「どれにしようかな」
泥棒が選んだのはどっしりとした銅像。
「どっこいしょ・・・・アタタタ」
ドジな泥棒ギックリ腰。
ドシンと銅像落っことした。
ドタバタ家の者が出てきた。
「どちらさまで」
堂々とした家の主。
「泥棒です」
泥棒ドキドキ。
「どうやらそのようですな。どうしてもその銅像がご入り用で?」
「ど、どうしてもというわけでは、へっへっへ」
「どうでしょう?ドリアを食べて行きませんか?」
どうやら腹が減っていた泥棒と、泥棒されそうになった主はドリアをどっぷり食べた。

2004年4月20日火曜日

できそこないででくのぼう、でっぷりでっかい出っ歯の丁稚が電波デビュー。
後に伝説となる電気炊飯器の宣伝が、デジタル電波で流れたよ。
「丁稚の電気炊飯器はデパートで!」
「丁稚とのデレデレデートはディスコで!」
でも、丁稚を溺愛しすぎて溺死しないでね。

2004年4月19日月曜日

彼のダラリとしたダンスとだらしない濁声は大不評だった。
彼は人々に駄目男と言われた。
だが、大王はこのダンスが一目で大好きになった。
「大胆なダンスは断然だ」
その途端、男は誰にも駄目だのださいだのと言われなくなった。
それどころか「伊達男」と呼ばれるようになった。
男のダンスは相変わらずダラリとしているし、濁声のままなのに。
やがて大王が荼毘に付された。
伊達男はダサ男に戻った。
男のダンスはダラリとしたままだし、濁声は相変わらずだ。

2004年4月18日日曜日

友達の乏しい年老いた虎は空飛ぶトナカイにときめいた。
吐息混じりにトナカイに問う。
「時にトナカイや、この虎の富とトナカイのトキメキを取り交わすことは可能といえるかね?」
トナカイは虎の遠吠えに戸惑い、空高く飛び去る。虎の心は届かない。
トナカイが姿が遠くなってもなおも虎は問い続ける。
とっくに虎はトナカイの虜だったわけだ。
虎は東西南北トナカイを追い掛けて止まることはなかった。
とうとうトナカイは故郷に到着した。虎は凍死した。
トナカイは言う。
「この唐変木が」

2004年4月16日金曜日

「てめぇはてっとりばやく鉄砲で撃ってやるから、テキーラ飲んで待ってな!帝王より」
天才哲学者は揺れる鉄道のカフェテリアで、てろてろになった手紙を畳む。その手には長く黒い手袋。手負いの跡だろう。
「てめぇ!てっきり死んだものと思ってたのに」
かつて帝王と呼ばれた男が哲学者に迫る。
しかしその顔は天真爛漫そのものであった。
「天国に行くんだよ、おまえもわたしも」
哲学者は車窓に広がる天界を眺めた。

2004年4月15日木曜日

お月さんがつれない。
連れ合いのお鶴さんがツンツン突いても、つねってもつっけんどん。
次から次へつまらないものが作られていくことにお月さんは疲れていた。
次の日お月さんはツクシを、お鶴さんはツバキを見付けた。
つまり、つらいことはなくなった。
愛を貫く辻褄は整ったのだ。

2004年4月14日水曜日

乳飲み子、ちっぽけな地球に近づき力も入れずにチクリとやったら、地球血塗れ。

2004年4月13日火曜日

例えば黄昏時に滝に落ちた卵を短時間で助けたいなら
太鼓とタンバリンを叩きながら滝壺に降りればいいのだが
タンコブだらけになるからたやすいことではない。
たとえたくましくタンコブに耐えたとしてもたぶん逮捕されるから大変だ。
逮捕にためらわず、ためしにやってみると
卵はたちまち魂になって高く昇り大気圏に達して竜巻になったのでたまげた。

2004年4月12日月曜日

しょ

しょうがなく、ショウガを処理する。
消費の仕方が承知できないのだ。
商店街の懸賞の賞品だったショウガだ。
食欲をそそらない、しょうもないショウガ。
しょっぱいニオイがするショウガ。
賞味期限が正月に切れているショウガ。
ジョボジョボと醤油をかけたら食べられるだろうか。

2004年4月11日日曜日

じょ

嬢ちゃん 、上空で上手に乗馬 。
常連の乗客はジョッキ 片手に上等な蒸留酒をジョボジョボ。
情報は状態を現さない。
ジョークな冗談という冗談は序の口。
如雨露の条件は常識でしょ。

2004年4月10日土曜日

しゅ

週末。囚人の子供が宿題の手裏剣をしている脇で
酒乱の囚人はシュロの葉に座って祝杯をあげている。
「せがれが手裏剣を習得した祝酒じゃーい」
その側で、頬を朱に染めた囚人の細君が趣味の手芸をしている。
細君のしゅるしゅると動く手つきを見つめているのは、この囚人一家を監視している守衛さん。

2004年4月8日木曜日

じゅ

巡査の数珠には呪文がかけられていた。
受話器を取る度寿命が縮み、潤沢にあった純金は減っていった。
巡査の呪縛に気づいた獣医は数珠が樹海の樹木で作られていることを突き止めた。獣医は呪縛を破るジュエリーを10個、作ろうとした。しかし、準備は間に合わなかったのだ。巡査は銃に蹂躙されて事切れた。あとに残ったのはじゅるじゅるになった数珠だけ。

2004年4月7日水曜日

しゃ

右手に三味線、左手にしゃもじを持った社員がしゃなりしゃなりと歩いている。
向こうからは借金とシャチに追われて遮二無二の社員がやってくる。
社長の私はシャワーを浴びてシャチホコに跨り、二人の社員に向けてシャボン玉を吹きかける。

2004年4月6日火曜日

じゃ

じゃんけんで負けたオレは邪魔者だからジャングルに行くよ。
蛇の目の傘さしてジャックナイフ持ってジャンパー着てジャガイモ背負ってジャンボジェットに乗ってさ。
じゃあね。

2004年4月5日月曜日

象に乗ったゾンビがぞくぞくとやってきた。
ゾンビがぞろりと勢ぞろい。
ゾンビ達は象の上でもぞもぞしている。
懐から雑巾を出したゾンビ達は、冷蔵庫に保存してある秘蔵の蔵書に雑巾をぞんざいに掛け始めた。
なぜゾンビが象に乗って蔵書の雑巾掛けをするのかは謎である。

2004年4月4日日曜日

ぜえぜえ息を切らせ税務署に全員集合。
これは全市民の絶対の義務である。
絶妙の量の贅肉を納める。
絶命することがあってはならないから全部の贅肉を納める事は是が非でも禁止されている。
あなたも是非、贅肉税を納税しよう。絶筆

2004年4月3日土曜日

図鑑に載せたいずいぶん杜撰なこの恋心。
図体のでかいあなたにずるずると骨の髄まで吸い取られ、心はずたずた、頭に頭巾。
お礼に、ずるむけして頭陀袋に入れてずっと持ち運んであげる。
ずっこけるくらいにずうずうしい二人。

2004年4月2日金曜日

じわじわと迫ってきたなぁ。さあ時間だ。じりじりしても仕方がない。慈悲?そんなもんないよ。自業自得だ。着いたぜ、ジジイ、ここが地獄だ。

2004年4月1日木曜日

引き算

これで最後のひとり/恋をするたび/ページをめくると
[ケガレが]
[指先で操る]
[止められない]
[心臓を貫き]
[物語の終わり]
[やがて快感となり]
[増えるけれど]
[痛みは]
あなたが消えた。


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500文字の心臓 第36回タイトル競作投稿作

座敷の座布団にザリガ二が座しているざます。
ざっと三千匹いるざます。
ざわざわと騒がしいざますね。
ざんぎり頭になったあなたは、この座敷に通されるざます。
ここは懺悔の座敷ざます。
あなたの犯した残酷な殺人沙汰をざくざく白状するざます。
罪悪に気付いてさめざめと泣いても駄目ざます。
あなたは斬罪ざます。ザマミロ