神父は、息継ぎもせずに聖書を読み続けた。ゆっくりと話しているのに、早口言葉のようにも聞こえる。
一体いつ息をしているのだ?とじっと観察してみるが
御堂に静かに響くその声は、どんな子守歌より心地よくて私は眠ってしまう。
どれくらい時間が経ったのだろうか、私はにわかに覚醒した。
見渡すと、御堂にいるすべての人が皆、眠っていた。神父本人も、例外でない。胎児のように身体を丸めて眠っている。
だが、神父の声は響き続けている。
途絶えることなく、静かに、だがはっきりと。
私はキリストをちらりと見遣ると、再び眠りに沈んだ。
《Trombone》
2006年3月7日火曜日
2006年3月6日月曜日
2006年3月5日日曜日
2006年2月27日月曜日
2006年2月23日木曜日
デートのお誘い
「ぼくと一緒に」
「遊びに行きましょう?」
「かわいいお嬢さん」
学校帰り、目の前に三つの手が伸びてきた。顔を上げればおじいさんとおじさんとお兄さん。そっくりの笑顔が私を見つめている。
「おじいちゃん、彼女は僕が先に」
「息子よ、お前はまだ若い。先がある」
「老いぼれが一番安全ですぞ?お嬢さん」
私は三人の顔を代わる代わる見るしかできない。
「伜よ、お嬢さんが困っているではないか!」
「誰がお好みですか?」
「おっさんは置いて、僕と行こうよ」
私は堪らなくなって吹出した。
「みんな一緒に!」
そして、おじいさんと右手を繋いで、おじさんと左手を繋いで、お兄さんに荷物を持たせて遊園地に行ったの。お兄さんはちょっとご機嫌ななめだったけど!
《Accordeon》
「遊びに行きましょう?」
「かわいいお嬢さん」
学校帰り、目の前に三つの手が伸びてきた。顔を上げればおじいさんとおじさんとお兄さん。そっくりの笑顔が私を見つめている。
「おじいちゃん、彼女は僕が先に」
「息子よ、お前はまだ若い。先がある」
「老いぼれが一番安全ですぞ?お嬢さん」
私は三人の顔を代わる代わる見るしかできない。
「伜よ、お嬢さんが困っているではないか!」
「誰がお好みですか?」
「おっさんは置いて、僕と行こうよ」
私は堪らなくなって吹出した。
「みんな一緒に!」
そして、おじいさんと右手を繋いで、おじさんと左手を繋いで、お兄さんに荷物を持たせて遊園地に行ったの。お兄さんはちょっとご機嫌ななめだったけど!
《Accordeon》
2006年2月13日月曜日
美の探求
最近の私は、四角や三角の木の塊を積み上げることに夢中だ。
先月、はじめての誕生日に父から贈られたその木の塊は
「積み木」と呼ぶらしいが私はまだ正確に発音が出来ない。
私は積み木の感触、木目、匂いを目や手や舌で存分に味わう。
特に木目を撫でていると吸い込まれそうな感じがする。
よく観察した後で床に置く。積み木の指示に従って向きや位置を調節する。
そうやって一つづつ、並べ重ねていく。
積み木の注文は細かいので、なかなか完成しないが
その甲斐あって、出来上がりは見事なものになる。
造形はもちろん、輝き・木目・影……すべてに均整が取れたすばらしさ。
ああ、この美しさを言葉にできないもどかしさよ!
「言葉を獲得した頃には、その美しさを忘れているよ」と積み木は言うが、本当だろうか。
そんな思索も母の一声で台なしになる。
「お片付けしましょうね」
《Oboe》
先月、はじめての誕生日に父から贈られたその木の塊は
「積み木」と呼ぶらしいが私はまだ正確に発音が出来ない。
私は積み木の感触、木目、匂いを目や手や舌で存分に味わう。
特に木目を撫でていると吸い込まれそうな感じがする。
よく観察した後で床に置く。積み木の指示に従って向きや位置を調節する。
そうやって一つづつ、並べ重ねていく。
積み木の注文は細かいので、なかなか完成しないが
その甲斐あって、出来上がりは見事なものになる。
造形はもちろん、輝き・木目・影……すべてに均整が取れたすばらしさ。
ああ、この美しさを言葉にできないもどかしさよ!
「言葉を獲得した頃には、その美しさを忘れているよ」と積み木は言うが、本当だろうか。
そんな思索も母の一声で台なしになる。
「お片付けしましょうね」
《Oboe》
2006年2月11日土曜日
2006年2月9日木曜日
友からの手紙
絵画を前にして大声をあげて涙を流すのは初めてだったよ。
もっとも君は、私がこの絵の中の婦人と話していることのほうが驚くだろうけれど。
彼女の声は、どこまでも美しいが、時折動けないことを嘆き震えた。
友よ、私はどうしたと思う?
絵画に手を差し入れて、婦人を引っ張りだそうとしたのだ。……私は婦人に恋をしていた。
存外、簡単に手は入った。肘も入った。けれども、何も触れるものがない。
「もっと奥よ」と彼女が言うので、私は目一杯腕を伸ばして、中を探った。動かせるだけ動かした。
「ありがとう、もういいわ……」と涙声が聞こえて、私は仕方なく手を抜いた。
絵の中に彼女はいなかった。何が描いてあるのか、わからなくなっていた。私が目茶苦茶に手を動かしたから、絵が掻き混ぜられたのだと理解した。
その証拠に私の腕は、絵の具で塗れていた。
私は己の手で、愛しい人を消してしまったのだ。……一度も触れることなく!
《Lute》
もっとも君は、私がこの絵の中の婦人と話していることのほうが驚くだろうけれど。
彼女の声は、どこまでも美しいが、時折動けないことを嘆き震えた。
友よ、私はどうしたと思う?
絵画に手を差し入れて、婦人を引っ張りだそうとしたのだ。……私は婦人に恋をしていた。
存外、簡単に手は入った。肘も入った。けれども、何も触れるものがない。
「もっと奥よ」と彼女が言うので、私は目一杯腕を伸ばして、中を探った。動かせるだけ動かした。
「ありがとう、もういいわ……」と涙声が聞こえて、私は仕方なく手を抜いた。
絵の中に彼女はいなかった。何が描いてあるのか、わからなくなっていた。私が目茶苦茶に手を動かしたから、絵が掻き混ぜられたのだと理解した。
その証拠に私の腕は、絵の具で塗れていた。
私は己の手で、愛しい人を消してしまったのだ。……一度も触れることなく!
《Lute》
2006年2月8日水曜日
2006年2月6日月曜日
Rendezvous
ほうれん草の缶詰が好きなアイツが華奢なあの娘と踊ってる。
ほら、ご覧!錨のマークもスウィングしてるよ。
よしな、あの娘は他の野郎は目に留まらないんだ。
妬けるねぇ、まったく。
《Cornet》
ほら、ご覧!錨のマークもスウィングしてるよ。
よしな、あの娘は他の野郎は目に留まらないんだ。
妬けるねぇ、まったく。
《Cornet》
2006年2月5日日曜日
2006年2月3日金曜日
2006年2月2日木曜日
2006年1月31日火曜日
ハンバーガーとコーラとポテト
ハンバーガーショップに店員は一人しかいなかった。
お下げ頭にキャップをかぶっている。きっと高校生だ。
「クヤエキュ?」
「え?」
「クヤエキュ?」
ぼくは彼女の顔をまじまじと見た。別にバカでもなさそうだ。
それどころか、かなりの美人だ、というかオレのタイプかもしれない。
「ハンバーガーと…コーラと、ポテト」
「スエアッケ、バムメ、ッメオイウ」
と言うと彼女は楽しそうに鼻歌を歌いながら厨房に引っ込んだ。
オレは外国にでも来たのだろうか?
家から四分のハンバーガーショップに来たつもりなのだけど。
そんなに頻繁ではないけれど、何度も来たことがあるハンバーガーショップに。
ほどなく、彼女はきちんとハンバーガーとコーラとポテトをトレーに載せて戻ってきた。
「ゥッベッキュ」
値段はレジに出るので分かる。ありがたい。
オレは彼女から一番遠い席に座って、モソモソとハンバーガーを食べた。
あの娘はまた、歌を歌っている。とても気持ちよさそうに。
どこの言葉なんだろう?なんでここで働いているのだろう?なんで一人なんだろう?
ハンバーガーは、いつもより数段旨かった。いつもしょっぱすぎるポテトの塩加減も言うことなしだった。それでもオレは縮こまってモソモソと食べ、彼女に気づかれないように、そっと店を出た。
どういうわけか、彼女の歌がいつまでも忘れられない。
《Ukulele》
お下げ頭にキャップをかぶっている。きっと高校生だ。
「クヤエキュ?」
「え?」
「クヤエキュ?」
ぼくは彼女の顔をまじまじと見た。別にバカでもなさそうだ。
それどころか、かなりの美人だ、というかオレのタイプかもしれない。
「ハンバーガーと…コーラと、ポテト」
「スエアッケ、バムメ、ッメオイウ」
と言うと彼女は楽しそうに鼻歌を歌いながら厨房に引っ込んだ。
オレは外国にでも来たのだろうか?
家から四分のハンバーガーショップに来たつもりなのだけど。
そんなに頻繁ではないけれど、何度も来たことがあるハンバーガーショップに。
ほどなく、彼女はきちんとハンバーガーとコーラとポテトをトレーに載せて戻ってきた。
「ゥッベッキュ」
値段はレジに出るので分かる。ありがたい。
オレは彼女から一番遠い席に座って、モソモソとハンバーガーを食べた。
あの娘はまた、歌を歌っている。とても気持ちよさそうに。
どこの言葉なんだろう?なんでここで働いているのだろう?なんで一人なんだろう?
ハンバーガーは、いつもより数段旨かった。いつもしょっぱすぎるポテトの塩加減も言うことなしだった。それでもオレは縮こまってモソモソと食べ、彼女に気づかれないように、そっと店を出た。
どういうわけか、彼女の歌がいつまでも忘れられない。
《Ukulele》
2006年1月28日土曜日
Aurora
細く暗い道に突然強い光が射してきて、僕は目が眩んだ。頭が痛んでしばらく歩けないほどに。
ようやく目が慣れてくると、途端に自分が何をしていたのか、サッパリわからなくなった。
「オレ、何してるんだろう」
トンネルのようなところをとぼとぼ歩いていると思っていたのに、オレは白い森にいた。
白い幹に白い葉を繁らせた木々、地面も苔も、虫たちも白かった。
さっきの強い光のせいで目がおかしくなっているんだと思ったけれど、いくら時間が経ってもやっぱり白い。
オレの目を眩ませたはずの太陽はどこにもなく、空はどんな夜より暗い。
輝いているのは木であり大地であり、虫たち、そのものなのか……。
オレは自分も白くなっていることに気付いた。身につけている服も身体も。
森に飲み込まれる!
でも恐怖はすぐに喜びに変わった。
白くなったオレの影は、七色に輝いている。
《笙》
ようやく目が慣れてくると、途端に自分が何をしていたのか、サッパリわからなくなった。
「オレ、何してるんだろう」
トンネルのようなところをとぼとぼ歩いていると思っていたのに、オレは白い森にいた。
白い幹に白い葉を繁らせた木々、地面も苔も、虫たちも白かった。
さっきの強い光のせいで目がおかしくなっているんだと思ったけれど、いくら時間が経ってもやっぱり白い。
オレの目を眩ませたはずの太陽はどこにもなく、空はどんな夜より暗い。
輝いているのは木であり大地であり、虫たち、そのものなのか……。
オレは自分も白くなっていることに気付いた。身につけている服も身体も。
森に飲み込まれる!
でも恐怖はすぐに喜びに変わった。
白くなったオレの影は、七色に輝いている。
《笙》
2006年1月23日月曜日
2006年1月21日土曜日
歌姫
うまく声が出ない。何度歌っても掠れてしまう。
「わたしが教えてあげる」振り向くとよく日に焼けた女の子が立っていた。
女の子の声は大きな声ではなかったけれど、いとも簡単に風に乗った。
声も気持ちよさそうだ。
「もうすぐ来るよ……ヨッ!」
女の子は降って来たマーブル玉をキャッチした。
「丁寧に声を出さなくちゃ。大きな声だけ出しても駄目なんだ」
僕はもう一度歌った。
女の子のアドバイスを聞きながら声を出す。
時々掠れるけど、足元の草が震えて冷たくなってきたのがわかる。
一瞬、自分じゃないような声が出てびっくりすると、女の子が言った。
「そう! 今の声だよ! ホラ、見て! 風に乗ってる」
あんまり驚いてマーブル玉を掴み損ねた。
慌てて拾い上げると女の子の姿はなかった。
《Quena》
「わたしが教えてあげる」振り向くとよく日に焼けた女の子が立っていた。
女の子の声は大きな声ではなかったけれど、いとも簡単に風に乗った。
声も気持ちよさそうだ。
「もうすぐ来るよ……ヨッ!」
女の子は降って来たマーブル玉をキャッチした。
「丁寧に声を出さなくちゃ。大きな声だけ出しても駄目なんだ」
僕はもう一度歌った。
女の子のアドバイスを聞きながら声を出す。
時々掠れるけど、足元の草が震えて冷たくなってきたのがわかる。
一瞬、自分じゃないような声が出てびっくりすると、女の子が言った。
「そう! 今の声だよ! ホラ、見て! 風に乗ってる」
あんまり驚いてマーブル玉を掴み損ねた。
慌てて拾い上げると女の子の姿はなかった。
《Quena》
2006年1月20日金曜日
キンキュウジタイ、走る
発条ネコのキンキュウジタイが、走る走る。
そんなに慌てて何処に行くのだ、発条ネコ。発条が切れてしまうぞ。
現実はもっと厳しかった。発条が切れるどころの話じゃない。
シッポからバネが飛び出し、バネ製のヒゲが伸び、胴体の歯車が剥き出しになった。
もはやガラクタ、屑鉄ネコのキンキュウジタイ。
それでも走る走る…。
《SlideGuitar》
そんなに慌てて何処に行くのだ、発条ネコ。発条が切れてしまうぞ。
現実はもっと厳しかった。発条が切れるどころの話じゃない。
シッポからバネが飛び出し、バネ製のヒゲが伸び、胴体の歯車が剥き出しになった。
もはやガラクタ、屑鉄ネコのキンキュウジタイ。
それでも走る走る…。
《SlideGuitar》
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