2008年10月31日金曜日

の #ffce5b

ノスタルジアを覗いてみたら、野良猫がノアの方舟に乗って野原をノロノロ行くのが見えた。
閑かな野原に響くノクターンはノイズでしかない。野良猫がノイローゼにならないのは、能天気だからだと思う。

「の」#ffce5b

2008年10月30日木曜日

ね #e09bea

「姉さんのことは狙っちゃだめ。ネズミが寝間着の中で寝てるんだ。姉さんの寝汗をねちゃねちゃ音を立てて舐めてる。……ねぇ、ネズミを妬むのは止しなよ。願い事は猫なで声でするもんじゃない」

「ね」#e09bea

2008年10月29日水曜日

ぬ #aa6600

脱ぎたてのぬいぐるみには縫い目がなく、温もりばかりが抜きんでている。

ぬ #aa6600

2008年10月27日月曜日

に #efefcc

にわか雨が人形を二足歩行にする。賑やかな日曜日に西へ西へ。
忍耐強く歩いたが、人形には似付かわしくないニキビが二個できたところで、忍者により強制終了。憎まれ口は人間以上。

に #efefcc

2008年10月26日日曜日

な #7084cc

夏休みには茄子の漬物がナムアミダブツと何度も啼く。
情けや涙が並大抵ではないけれど、懐かしさだけで生意気になれる。

な #7084cc

2008年10月24日金曜日

と #93001c

トンボはとてつもないトンネルの中を飛ぶ。
轟く常磐津に戸惑いながら、時々トマトケチャップを採る。
兎角、都会化した東京では戸締まりがとても大切らしい、とトンボは唱えながら取りあえず飛び続ける。

「と」#93001c

て #f2efb7

天気予報は手短に、と帝王が謂う。敵対心ゆえ。
てるてる坊主が天使から転身したことは露呈していない。適応力のたまもの。
天からテキーラが点々と降る。適量を守って。

「て」#f2efb7

2008年10月22日水曜日

眩暈

甘い舌を喰みながら、夢だから醒めないでと願う。
けれど、わたしは知っている。願う時にはいつだって覚醒し始めているのだ。
現実に絶望する。仕方なく瞼を持ち上げればひどい眩暈で起き上がることができない。
目を瞑り、わたしだけの揺れに躰を預ける。一度だって味わうことの出来なかったあなたの舌をゆっくりと反芻しながら、わたしは再び眠りに落ちる。

2008年10月21日火曜日

つ #eff2cc

氷柱が連なる吊橋のかかる湿原。
艶っぽいつむじ風の吹く夜に、鶴が月にむかって次々と飛び立つ。

「つ」#eff2cc

ペンキぬりたて

「ペンキぬりたて」という紙切れがぶら下がったポストに、たくさんの落ち葉が張りついていた。
「せっかくですし」
わたしが恋文をとすん、と入れるとポストは言った。
「春が来るまでこうしています。葉っぱは、暖かいです」

2008年10月18日土曜日

ち #fc7000

血とはちょっと違う。
乳房はちやほやされてるから、これも違う。
地下道では痴話喧嘩が煩くて、中心に辿りつきたいのに遅々として進まない。

「ち」#fc7000

2008年10月17日金曜日

た #ddb277

筍と玉ねぎの竜田揚げを食べながら、黄昏れていた。「誕生日だからといって宝物をたくさんくれるのは短絡すぎやしないか?」
溜め息が聞こえたのか、たちまち台風が大変なことになった。
高床式の家は堪えられず助けを呼ぶが誰もが戯言と、取り合わない。太平洋にタイミングよくダイブしてタラバガニに叩きつけられた。これだからタンコブが絶えない。また、溜め息。

「た」#ddb277

鼠の金歯

屋根裏の鼠が、虫歯が痛いというので歯医者に連れて行った。
「こりゃあ大変。差し歯にしましょう。いや、チーズをよく噛れるようにインプラントがいいかな」
すると鼠は
「差しでもインでも構いやしませんが、金歯にしておくんなせぇ。ピカピカの!」
という。歯医者は金歯なんてずいぶん久しぶりに作るなぁ、と笑った。

鼠は特製金歯がすっかり気にいって、毎日見せびらかしにくる。

2008年10月15日水曜日

そ #00a5e2

村長の葬式では、ソクラテスをそそのかして粗悪なソルティードッグを呑ませてから、添い寝するがいいさ。
そうすりゃあ、葬式代の損失額はそれほどにはならないし、ソムリエだってソフトクリームを即座に供え物にできる。
空に還るだけだ、そんなもんよ。

「そ」#00a5e2

2008年10月13日月曜日

せ #a8e5ce

先だって仙台で蝉の世界選手権が行われた。
占星術対セラピスト、セクシーポーズ対セールストーク。
せめぎあい、競り合う蝉たちの背中は戦士のように切ない。
蝉をせせら笑うなら、せいぜい聖書を精読してからにしな。

「せ」#a8e5ce

2008年10月11日土曜日

蟻が向かう場所

蟻が二の腕を歩いていたので、どこに行くのだろうかとしばらく観察していたら、肩をあがり、鎖骨を伝い、そのまま真っ直ぐ下に向かう。鳩尾あたりまで見ていたが、飽いたので潰した。黄色い汁が染みになってまだ消えない。

2008年10月10日金曜日

す #f9ff3f

雀の巣で涼んでいると、鈴なりの西瓜をぶら下げて寿司屋がスクーターでやってきた。
「少し酸っぱいですよ」
と寿司屋が言うのですりおろして啜って食べた。
隅々まで吸い上げると、相撲取りがスフィンクスと寸劇をするのが透けて見えた。

「す」#f9ff3f

2008年10月8日水曜日

し #f4ffff

しわくちゃの下着を写真に撮って調べていたら、知らない歯科医を紹介された。
歯科医の審判により、真実の椎茸を試食すると、下着のシワは思春期の司法書士の仕業だとわかった。
しらばっくれる司法書士をしごいて尻拭いをさせる。
信濃川の清水で下着を始末すれば、しっかりシワが取れて幸せ。

「し」#f4ffff

2008年10月6日月曜日

さ #edf2ff

淋しいと叫びたい寒空なのに、さっき最後の酒が尽きてしまった。
さしあたり、栄螺のサンドイッチしかない。鮭のサーロインステーキはサウジアラビアのサーカス団に差し入れてしまった。
散々、彷徨った。さまざまな災難を避けてきた。最後に着いたのは、砂漠だった。
三月のサハラに、桜は咲かない。

「さ」#edf2ff

2008年10月5日日曜日

こ #000000

根拠のない古文書にはこうある。
「凍える黄砂に呼応して、恋物語は粉々になる」
困った子羊ちゃんは琥珀のコルセットでこれでもかと腰を膠着した。木陰で小刻みに鼓膜を震わせ、恋人と言葉を交換した痕跡はここにはない。
混迷する骨盤が恍惚とする間は、木枯らしが来ないだろう。

「こ」#000000

二人だけの秘密

小学一年生の時、転校してきて転校していった男の子がいた。苗字は覚えているけれど、果たして正しい記憶かどうか。
ヘラヘラして垢抜けない少し変な(それまでに会ったことのないタイプ)子だった。クラスも最後まで完全には彼を受け入れていなかったと思う。
転校してきた日、家が近くだった私は彼と下校するように言われて、ひどく憂鬱だった。けれども、それ以降毎日二人で帰ることとなる。示し合わせるわけでもなく、ごく当たり前に二人並んで歩いた。幼すぎる猥談でゲラゲラと笑いながら。帰り道だけの、二人だけの時間。邪魔されたくなかった。
「夏になると早く冬になれ、冬になると早く夏になれって思うよね」
と、珍しくしんみりと語り合ったのはいつの季節だったのだろう。
たぶん一緒に過ごしたのは夏でも冬でもないほんの短い間だったのだ。
名簿にも写真にも彼の痕跡は残っていない。この記憶を裏付けてくれるものは、何一つない。あの男の子との思い出は幻なのかもしれない。

鮮やか過ぎる彼の面影を仕舞う術を私は持たない。彼もまた私との帰り道を思い出すことがあるのだろうか、あって欲しいと願う度に、彼の存在の不確かさに絶望する。

2008年10月4日土曜日

け #c18c49

今朝、ケーキに蹴躓いて肩胛骨を怪我した。
血液が欠如したので、ケチャップで毛穴から輸血した。
結果、毛むくじゃらの獣に蹴られて、アキレス腱を怪我をした。けんもほろろ

「け」#c18c49

2008年10月3日金曜日

ひなたぼっこ

縁側で目が覚めて欠伸をして伸びをしたところで、子猫になっていることに気がついた。
硝子窓に己の姿を写してみる。まだまだ小さいがなかなか良い姿ではないか。特に耳の形がいいと思う。
人間だった時はためつすがめつ鏡を見ることなんて滅多になかった。冴えない中年男だったのだから。
俺はもう一度伸びをしてから考えた。まだ日は高い。縁側はこれ以上ないほど心地よいが、もう一眠りするには惜しい気がする。これから猫として生きてゆくのだ、辺りを探索したほうがいいのではないか。
迷っているうちに、お日さまの野郎は、俺をぬくぬくとあたためる。欠伸が止まらない。