2013年9月28日土曜日

奇行師と飛行師2

飛行師には過去がある。非行師にはなれなかった過去だ。
非行ができなかった飛行師に飛行を勧めたのは、他でもない奇行師である。
飛行師は、飛べる。立ったまま飛べる。速くはないが速くすることもできる。
それを飛行師は「歩く」や「走る」という動作だと長年信じていたが、「キミ、地に足がついてないね」と指摘したのが奇行師だったのだ。


2013年9月25日水曜日

奇行師と飛行師1

奇行師は、その名の通り奇行を生業としている。
一体、どういう経緯で奇行師なんてものを始めたのか、奇行師もとっくに忘れている。
生白い足に、目いっぱい脛毛を生やし、右足には赤いハイヒールを、左足には高下駄を履いて、フラフラと歩いている年齢不詳の性別不詳な人物がいたら、それが奇行師だ。
カツコロン、カツコロン、という足音が聞こえたら要注意。


2013年9月23日月曜日

彫刻家(お題:冷たい)

氷の世界に住む彫刻家の手は、白く冷たい。
私はその手を温めたいといつも願っているけれど、「氷が解けてしまうから」とほんの一瞬握手するだけ。
彫刻家の作った彫刻は、氷の世界の地下深くで眠っていて、私は一度も見たことがない。
「誰のための彫刻なの?」と尋ねるけれど、神様のそのまた神様の話から聞かなくてはならないから、いつも途中で眠ってしまう。
目覚めると、彫刻家はもういなくなっていて、私は氷の涙を流すのだ。

2013年9月11日水曜日

憧れ(お題:ネズミ)

小さくなりたいと願っているネズミ、排水口が通れなくなったからではなく、蟻の生活にあこがれてしまったから、らしい。



2013年9月7日土曜日

Re: 無題

壁と箪笥の隙間に指を差し入れると、何かが指先を舐めるのだ。


這いつくばって懐中電灯で箪笥の隙間を照らし覗きこんでも、何も居ない。何もない。


けれども、人差し指を入れると、やっぱりチロチロと何かが舐めるのだ。


まあ、何でもいいや。チロチロチロチロと指を必死で舐めている「何か」が私はだんだん愛おしくなる。お乳をやる母猫はこんな気分かもしれない。いや、「何か」がいることを確かめて安心しているのは、私だ。


毎日、何時間もそうやって指を舐めさせているからか、近頃、指先がいつも腫れていて赤い。


その指を自分で舐めてみるが、「何か」のように上手く舐めることはできず、思わず歯を当ててしまう。赤く晴れた指からは、簡単に血が出るけれど、血が出ていると「何か」は舐めてくれないのだ。



2013年9月4日水曜日

Re: 無題

飼い猫がにゃーにゃーと鳴いているので、探すけれども見つからない。


あちこち探して、姿見の前を通りがかったときに目の端に猫の姿を捉えた。


反射的に姿見が映しているあたりを見るけれども、そこには居ない。果たして猫は鏡の中に入ってしまったのだった。


「どうやって入ったの?」


私は姿見の前にしゃがみこんで、猫に問うた。


にゃーと答えるばかりで人間にはわからない。猫も事情を察しているらしくて、こちらに懸命に訴えてくる。にゃーにゃー。


私は家中の鏡を引っ張り出してきて、姿見の前に並べた。なんだか魔術でもはじまりそうだ。


あっちこっちに鏡の位置を変えたり、上から横から覗いたりしていると、猫は別の鏡に映ったり映らなかったり、移ったり移らなかったり。


そうこうしているうちに、一番小さな手鏡からヒョイと飛び出してきた。


以来、鏡は必ず布を掛けているが、それでも時々知らない猫が鏡から飛び出してくる。