2012年2月28日火曜日

海の怪物

大海蛇は、真上を通った大きな船に気づいて目を覚まし、ちょっと伸びをしただけのつもりなのだが、海の上は大騒ぎになってしまった。

謝る術もないので、また眠ることにする。



2012年2月27日月曜日

子守をする小馬

小馬が走ると子供も走る。
背に乗せた子供が眠る。小馬はゆっくり歩む。
子供が泣けば、尾で頭を撫でる。
夕焼け空に向かって小馬が歌う。子供も歌う。
子供はいつでも歌を歌うけれど、小馬が歌えるのは草原に日が沈みきるまでの短い間だけ。
お日さまがちょっぴり油断しているその間だけ。
日が沈めば、子守はお月さまに交代だ。


2012年2月26日日曜日

飛行機と鷲

飛行機と競争するのに飽いた鷲は、飛行機に乗って昼寝することを覚えた。
雛鳥への教育必須項目に「大鉄鳥のエンジンに巻き込まれないの法」が加わった。


2012年2月23日木曜日

アンソニー猿

アンソニーという種の猿がいる。
オスもメスも、ヒトの少女のような容貌で、セミロングの黒髪、白いブラウスと黒いスカートを履いている。
見惚れて視線が合うと、アンソニーは無言で貴方に寄ってきて、擽る。
擽ったくても、声を出してはならない。声を出したらアンソニーは貴方が絶命するまで擽り続ける。
もしも声を出さずに耐えることができても、アンソニーは他の誰かと視線を交わすまで、貴方を擽り続ける



今日は、「鳥獸蟲魚の生態」のタイトルではありません。


2012年2月21日火曜日

動物の保護色

小さなカメレオンが今にも落ちそうな葉っぱの上でポーズを取る。上手に葉っぱ色に似せることができていると、非常に満足している。

リーフフィッシュはくすぐったい。このケッタイな小さな生き物をリーフフィッシュは知らない。

カメレオンが水に潜ったのか、リーフフィッシュが枯れ木に絡まったのか、それはお月さんだけが知っている。


2012年2月19日日曜日

針鼠と蛇の喧嘩

啓蟄。
「やあ、蛇。ぼくのごちそうになる気はないかい?」
「おはよう、針鼠。ずいぶん旨そうなツラをしてるね」
そんな会話を交わして、針鼠は蛇を、蛇は針鼠を食べようとした。
が、お互いがお互いを食おうというのだから、これがうまくいくわけはないのだ。
「まず、オレがお前を食べるよ、針鼠」
「いいや、ぼくが先だよ、蛇」
喧喧囂囂。
針鼠は困っていた。蛇が絡まって解けないのだ。
蛇もまた困っていた。針鼠が刺さって動けないのだ。
多くの獣や鳥が見ていたが、誰も二人を解き外す術を知らない。




2012年2月16日木曜日

狐狩り

英国紳士たちが首を傾げるのは、このところめっきり狐が捕まらないからなのである。
どんなに猟犬を増やしても、どんなに立派な衣装に着替えても、狐が全く見つからない。
犬たちもずいぶん苛苛している。
というのも、ある狐がニッポンに留学して、犬に化けることを覚えてしまったからなのだ。
教える方も習う方もずいぶん優秀な狐で、犬の鼻をも化かすことができるという術を身につけ、帰国後に英国中の狐に広めてしまったそうである。

「狐に化かされた」という言葉は、まだ輸入されていない時代の話だ。




2012年2月12日日曜日

雁の大將

長い道のりを歩いて、雁の群れを迎える。
赤い空に点点とした群れを見上げる。次第に輪郭がはっきりしてくる。
大將を筆頭にめいめい場所を見つけて降り立った。
「よく来たね」と人が言う。
「互いに、遠路遥々」と雁が鳴く。


家離り 旅にしあれば 秋風の 寒き夕に 雁鳴きわたる

万葉集 巻7-1161


2012年2月7日火曜日

いつも空腹の時計

その時計は地下道の壁にチューブで繋がれている。


ここを通る人間は少ないから、時計を見る人などほとんどいない。


しかし、時計が休むことは許されず、休みたくとも動いてしまうのが時計というものなので、時計は律儀に時を刻んでいる。


この時計は電力もゼンマイも必要とせず、しかしそのかわり、ミューズリーを食べないと動かない。


チューブの先は、ローズマリーさんの家に繋がっていて、毎朝決まった時間に、前夜からミルクに浸してあったミューズリーを大量に流し入れてもらう。


うっかりローズマリーさんが寝坊したときには、目覚ましのベルを鳴らして起こすのだ。


チューブから鳴り響くぼんやりとした目覚ましベルで、ローズマリーさんはノソノソと起きだし、不運にも地下道を歩いていた人はあまりの大音響に、数日間は頭痛が治まらない。



2012年2月3日金曜日

みんな溺れ死ぬ狐猿

もれなく溺死するという動物がいるそうだ。狐猿という。

彼らは、雲から生まれる。雲は、夥しい数の狐猿を生み落とす。ココアの滝が、年に一度だけ現れるのとほぼ同時に。

雲からボタボタと生まれた狐猿は、ほろ苦く甘い香りを頼りに大地を埋め尽くしての大移動をし、そのままココアの滝へ雪崩込む。

ココアは、熱い。
だから本当は溺死ではなくて、火傷死かもしれない。


2012年2月1日水曜日

奇怪な牡蠣

すでに岩にびっしりと付いている牡蠣だが、実は一日一匹づつ増えていることを、レオナルド・ションヴォリ氏だけが知っている。
牡蠣たちは、氏が数え間違えないかと、固唾を飲んで岩に付着している。


+++++
ものすごく久しぶりにションヴォリ氏が出てきました。
今読むと、微妙なのですが、キャラクターたちは案外よく動いてくれます。