超短編
水の者である彼女はプールに入るとすっかり水と同化してしまって、僕には見えない。
戸惑う僕を面白がって「鬼ごっこしよ」と、はしゃいでいる。時折水面か ら顔を出す。息継ぎをして、悪戯っぽい顔で僕に合図する。
いつになく美しい彼女を早く抱きしめたくて必死の平泳ぎで追いかける。
#twnvday 7月14日ついのべの日 お題「水」
秒針がサボっているのに遭遇して、見ちゃってゴメンと腕時計に謝りたくなる。
傘立ての中で忘れ去られた蛇の目傘の蛇の目は、すっかり干からびて涙も枯れた。
五才の人が、家中の傘をひっぱり出して道に広げたもんだから、久しぶりに蛇 の目は目を見開くことができた。
積乱雲が見える。そして夕立。
雨が降ってよかったねと、五才の人が蛇の目に潜りながら言う。
#twnvday 6月14日ついのべの日 お題「ぐるぐる」 サブ企画「雨が降ってよかった」
母が作る雑巾の刺し子はいつも渦巻き模様で、だから私は掃除が苦手だった。四隅が拭けないのだ。
それならばと、大人になった私は丸い窓の付いた丸い家を建て、丸いテーブルで紅茶を飲む。掃除はもう、苦手じゃない。
#twnvday 6月14日ついのべの日 お題「ぐるぐる」
旋風にひょいと杖を引っ掛けてどこかへ飛んでいってしまったおじいさん。初恋の人は、メリー・ポピンズだそうだ。
垣根を潜って出てきた私を、隣家のおばあちゃんは「おや、大きな猫さんだこと」と笑って迎えてくれた。
私はチョコレート、おばあちゃんはお団子を用意して茶飲み話に花が咲く。
今は私がおばあちゃん。垣根から顔を覗かせる隣のおちびさんにおいでおいですると、目が輝いた。
#twnvday 5月14日ついのべの日 お題「ボーダーライン(境界)」
おじいさんの傘は、半分青くて、半分赤い。几帳面なおじいさんはきちんと青い方を右側にして傘を差す。
雨雲はそれが気になって、ついついおじいさんを追いかけてしまうから、おじいさんはいつも半分雨で、半分晴れ。
庭の落ち葉を積み上げて積み上げて、生涯を掛け腐葉土山を作り続けた男の死後、頂上に向日葵が生える。
ターミナル駅の真ん中で、父とはぐれた。
大きな手を離したのは、ほんの一瞬だったのに。
「お父さん」と呟くとスーツ姿の男の人が一斉に立ち止まってこちらを見た。
背の高い父の顔をよく思い出せないので、全員と握手することにした。
#twnvday 4月14日ついのべの日 お題「迷子」
その古書店に並んだ本に題の付いた本は一冊もなかった。
「食べちゃうんですよ、紙魚が、タイトルだけ綺麗に」店主は笑った。
目についた鮮やかな赤い本を買って帰り、家で飼っている紙魚に食わせようと与えたら、無題の本は不味いらしい。すぐに吐き出してしまった。
#twnvday 4月14日ついのべの日 お題なし
忌々しい今際をいまいち把握できないまま、居間で今までうたた寝をしていた。
#twnvday 3月21日ついのべの日 お題「今」
宇宙塵芥を掃き集めたはよいが、塵取星が見つからないので、途方に暮れている。
#twnvday 3月14日ついのべの日 お題「箒星」
娘は樹木と結婚するという。
子供の頃から仲良くしていた樹だから異存はない(こともないが)。
許しを出すと、娘は樹木を切り倒し、小さな家を建て、子供を生んだ。
雨風から守ってくれる夫が居て幸せだと娘は言う。
孫はすくすく育っている。どんぐりが大好きな男の子だ。
#twnvday 2月14日ついのべの日 お題「夫婦」
難しいなーと思いながらも、二つ書けました。
「ちちんぷいぷい」とおまじないをかけたら、照れくさそうに笑った。こないだ私が転んだとき、そうしてくれたから。
道は続く。小石を時々見落とすのは、仕方がない。
あんまり転ぶと痛いから、ゆっくり歩こうと呟いた。
そうしましょう、と繋いだ手をきゅっと握り直す。
「署名、捺印をお願いします」。ぎこちなく名前を書き、判を押す。私は今「大人」になった。昨夜、大人認定のための書類が送られてきた。認定には様々な条 件があるらしいが、それも大人だけが知る事柄だ。私はずいぶん遠回りして、三度目の歳男を迎えた。真新しい印鑑の朱肉を拭う。
#twnvday 1月14日ついのべの日 お題「大人」
真っ白な紙で作った紙飛行機と少年の日々は、永遠に帰ってこない。そう思っていたけれど、飛行機は数年の時を経て、僕の元に帰ってきた。
白かった紙飛行機は、潰れ、汚れ、とても飛べそうにない。しかし、切手という勲章をつけて戻ってきたのだ。
「前略、お元気ですか……」
#twnvday 12月14日ついのべの日 お題「白紙」
ちょっと「いいこといってやった」っぽい終わり方になって反省している。
ついのべはこれに陥りがちなので、やっぱり自由が利かない感じ。
自動的に短く書けたのとは違う。
降りしきる雨が痛いと泣く街灯に傘を差し出す白髪の影
米櫃を開けると米が一斉にこちらを睨む どこだ礫斎
『Mei(冥)』のツイッター怪談短歌コンテストに投稿したもの
ネオンの揺らめく町に憧れて歩き始めた少年は、いつの間にか杖をついていた。
いくつもの町を通り過ぎた。居心地のよい町もあったが、「ここではない」とま た歩き始めた。
憧れの町は目の前にあるように見えて、遠い。彼にしか見えない蜃気楼の町だと、本当は薄々気がついている。
#twnvday 11月14日ついのべの日 お題「幻」