2018年7月22日日曜日

傘が溶けた

 あまりの暑さに、日傘が溶けた。
 まず、布地が溶けた。チリチリと縁から縮み、それから一気にズルリと骨から垂れ下がり、地面に落ちて、アスファルトの上で「ジュッ」と音を立てた。
 そのまま骨だけの傘を差してしばらく歩いていたが、とうとう骨も溶けた。
 意外にも、中骨から溶け始めた。なんとなく持ち手が軟化してきたような気がすると思ったら、突然グニャグニャになった。
 親骨は傘の形を保ったまま、頭に落ちてきた。慌てて傾けると、ぼとぼとと親骨は外れ、八本の親骨は、二本ずつ四組になって、まるでヒトの足のようにスタコラサッサとどこかへ去っていった。
 次は私が溶ける番だ。

2018年7月13日金曜日

ペペペペペ

 雪の上に、見慣れない足跡がある。いや、本当に足跡なのかどうかはわからない。しかし、ひとまず足跡と呼ぶのが適切な気がする。
 「ペ」と読める。カタカナか、ひらがなかは、わからない。
 それは等間隔で続いている。追いかけようかと思ったが、隣家の畑の上を歩くことになるのでやめた。

 夜道、後ろから聞き慣れない足音がする。「ぺたん」でも「ぺこ」でもなく、ただ「ペ」だ。
 いつかの冬、雪の上に見た足跡の主だろうと思う。この音は「ひらがなだ」と、わかる。
 振り返って姿を見てやろうと思ったが、途端、右へ曲がってしまった。隣家の畑の方角だ。矢張り、あの足跡の主だと確信する。

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500文字の心臓 第163回タイトル競作 
〇5 △1 正選王