2011年12月27日火曜日

鳥の母性愛

鳥の母子は、意思を疎通し合うのだろうか。意思の疎通があれば、きっと雛は母に抗議しているであろう、とっくの昔に。
この鳥籠の中で繰り広げられる、母から子への、間断なき餌やり。
太った雛は時折、こちらに濁った目を向けて懇願する様子を見せるが、私の哀れみがそう思わせるだけで、実際のところ雛は何も思っていないのかもしれない。
鳥籠の扉を開け放ってやりたい衝動に駆られるが、扉を開けたところでこの肥満した小鳥は飛び立つことができないだろう。
そもそも、私自身が囚われの身なのだ。小さな窓の外では何が起きているのか、わからない。
母鳥は、せっせと雛に餌を与え続けている。私はそれを飽きずに見ている。他に見るものがない。

2011年12月25日日曜日

薄明のメロディー

 お酒を飲むと、ふわふわとよい心持ちになる人は多いと思うが、本当にふわふわと宙を歩く人は、なかなか居ないものだ。
 私の友人のバカリーは、コルネット吹きのやさしい男だ。いつもにこにことしているから、年寄りや子供や猫によく声を掛けられる。
 彼も私も酒が好きで、機会をみては二人で飲みに出掛ける。しゃべるのは私ばかりで、バカリーはもっぱら聞き役だ。
 もちろんたまにはバカリーも話をする。いつも決まって、尻尾を切られた黒猫と女の子の思い出話だ。女の子は、もうすっかりきれいな娘になっているらしい。
 すっかり語り合って薄明、彼は顔を赤く染め(それは酔った男というよりも、恥らう少年のようなのだ)、「今夜は素敵だった。ありがとな」と言って、そのまま空中散歩に出かけてしまう。
「おーい、バカリー、落っこちるなよ!」
 私は空に叫んで、千鳥足で家に向かう。
 だんだんと明るくなる町を、バカリーの奏でるコルネットが祝うのだ。


コルネット吹きのチョット・バカリーは、四千四秒物語に出てきます。

2011年12月20日火曜日

悪戯者の鴉

駄菓子屋の主人に問い詰められた鴉は、「その男と友達になりたかったのだ」と供述した。
愛すべき愚鈍な男は、毎日家の前に落ちている好物のキャラメルを拾って食べてはニッコリした。鴉は傍らの電線で、男の笑顔を見ては、またキャラメルを盗みに駄菓子屋へ飛んでいった。
男は、これまでのキャラメルを並べると、「LOVE」の文字になるという、鴉の高度な悪戯には、遂に気づくことはなかった。


2011年12月15日木曜日

狼に育てられた子供

アムラとカムラの母は狼である。二人は、狼の乳で育てられたのだ。
狼語と人語を操るアムラとカムラは、母の言葉を人語に訳した。
「私は最後の狼である」
人々は驚いた。
「もう仲間はひとりもいないのですか」
町長さんの言葉をカムラが訳して母に訊ねた。
「はい。私はほうぼう探しました。でも、狼と出会うことはできませんでした」
アムラは、泣きながら通訳した。
「けれど、さびしくはありません」
カムラは、きっぱりと通訳した。
そして二人と母は、月に向かって、吠えた。
その咆哮は、世界中で聞くことができたという。


2011年12月12日月曜日

十年ひと昔

「しっぽを切られたのもずいぶん前の話だ」
黒猫はひとりごち、傍らのキナリを見上げた。キナリはもう少女ではない。
「もうオジサンね、ヌバタマも」
そう、十年前のこの季節、この公園で月と少女に見つかったのだ。
しっぽを切られ、人語を操った。
しばしの時を経て、しっぽは戻り、黒猫は人語を話さなくなったが、それでもやはり月とキナリの傍にいる。
「黒猫もヒゲが白髪になったりするの?」
と、いたずらっぽく笑うキナリは、相変わらずだ。
月はブランコで寝ている。この間の月蝕で、疲れたらしい。
あの夜は、黒猫のエメラルド色の瞳が、一瞬だけルビー色になった。


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瓢箪漂流」は2001年12月12日に開設し、本日十周年を迎えました。

月食の夜は、流れ星をひとつ見ました。


2011年12月9日金曜日

森の中の騒ぎ

「どんぐりよ、落下するときには、下方をよく注意するように、毎年言っているのがわからんのかね」
小人がタンコブをさすりながら、どんぐりに説教をしている。そうこう言っている間にも、ほら、また一つどんぐりが落ちてくる。
よくよく見渡せば、あちらこちらで同じ光景。秋の森は大騒ぎだ。


2011年12月5日月曜日

無題

アパート二階のベランダに石灯籠。



2011年12月2日金曜日

魚捕りの名人川獺とずるい狐

どうしても、川獺は褒められると弱いのだ。
何が情けないって、狐のお世辞や煽てに騙されること。
浮かれた隙に捕まえたばかりの魚を盗まれるのだ。
川獺は友達にも聞いてみた。やっぱり、褒められると盗まれるという。
「今度は狐をわざと褒めてみようかしら」と川獺は思っている。
「嘘でも褒められたら、あの狐もきっと照れるだろう。照れたら盗むのを忘れるかもしれないよ」
とてもよい思いつきだ、と川獺は思った。
川獺は嘘が苦手だということをまだ自覚していない。






2011年12月1日木曜日

益鳥

スズメは田んぼの小虫を食う。もちろん大勢のスズメは米も大好物だ。
ところがあるところに、「益鳥」という言葉の意味を知ってしまったスズメがいた。
「害鳥」という言葉もその時にしってしまった。
そして、スズメはここの農家の跡継ぎ息子を慕っていた。
「わたくしは益鳥の中の益鳥になりましょう」
とスズメは決めた。一切の米を断ったのである。
スズメはカカシに囁いた。
「わたくしが米を我慢しても、タカシさんは褒めてもくれません」
カカシは思う。タカシはよくできる百姓だが、スズメを見る目はないらしいな、と。