2017年12月28日木曜日

豆本の世界2

世界が生まれたとき、まず豆本があった。
微細で微小な生物がその上を歩き、それが後に「文字」と呼ばれるものとなった。「文字」を解読できる生物が現れるまでは、長い時が掛かった。
その生物は文字は解読できたが、身体が巨大で、しかも不器用だったので、本の頁を捲ることができる生物が現れるまで、さらに長い時を待たねばならなかった。
頁を捲れる生物が現れ、初めて豆本の全頁が読まれた。
「埋めよ、育てよ」
豆本は、土に埋められ、ゆっくりと樹木になった。そして、ゆっくりゆっくりと成熟して、たわわに豆本を実らせた。ここに世界は完成した。

2017年12月15日金曜日

豆本の世界

小さいから豆本という。小さく作るから豆本になる。小さい本を読みたいから豆本を読む。小さい小さい小さい……
ふと「この豆本を普通の大きさで読んでみたい」と意味のわからないことを思ってしまった。
その途端、私の身体はするすると小さくなって、目の前の豆本が豆本ではなくなってきた。そろそろちょうど単行本くらいの大きさになる。
おやおや、まだまだ私の身体は小さくなるぞ。一体どれだけ縮むのだ私の身体は。
漸く止まったと思ったら、豆本だったはずの本は、いまや背丈ほどもあり、ページを捲るのは、扉を開けるより大変だ。

2017年12月10日日曜日

十二月十日 遠隔感染の原因

 一カ月ほど会っていない父が風邪を引いているという。よくよく聞いてみると、先週引いた私の風邪と症状がよく似ている。
 母は、私が父にうつしたに違いないと言い張っている。どうしたら会っていない人に感染させることができるのだろうか。
 この一カ月、父とは電話もしていないし、メールもしていない。もちろん電話やメールをしても風邪はうつらない。
 ただ、私が一番症状が酷かった日に読んでいた本を、父もその日に読んでいたということがわかった。本のタイトルは秘す。

2017年12月5日火曜日

十二月五日 お金が足りなかったおじいさん

お金が足りなかったおじいさんは、混乱を生じてレジの前でフリーズしてしまった。店員があれこれ話しかける。
「どれか買うのやめますか?」
「お金を全部出してみてください」
だが、おじいさんは小銭入れを指でかき混ぜる動作をするばかり。レジを待つ人の行列がだんだんと長くなる。
そこへ現れたのはこのスーパーの警備員のおじいさん。警備員のおじいさんは、ポケットから機械油を出して、フリーズしたおじいさんの鼻の穴にプシュっと差した。
おじいさんはやおら動き出し「これ、やめるよ。それで足りるかな」とトイレットペーパーを指さした。
無事に支払いを終えたおじいさん、「さっきはサンキューな」と、ポケットの中から機械油を取り出して、警備員のおじいさんの耳の穴にプシュっと差した。