2015年7月30日木曜日

夏のお供え

月の使いであるところの小さな人たちは、満月のお供えものを支度するのに大忙しである。
「お月さまはなにが食べたいって?」
「暑いから、かき氷がいいって!」
「お団子は?」
「それは次の次の満月!」
旧式のかき氷機は大きくて、この小さな人たちでは動かせそうもない。どうなることかと思ったけれど、よくよくお願いしてみたらかき氷機自ら働いてくれた。お月さまも満足そうに輝く。
「涼しいねえ」
「冷たいねえ」
降りしきる氷と月光をを浴びて、小さな人たちはキラキラと輝く。ほら、地球人に見つからないように気をつけて!

 イラストレーション:へいじ

2015年7月28日火曜日

七月二十八日 下半身の反乱

オシリに注射をされたら、下半身が言うことを聞かなくなった。上半身は北に行きたいのに、下半身は南に行きたい。脳みそは混乱してオイオイ泣く始末。
上半身は意外と冷静で、「それじゃあ、下半身の言うことを聞こう」と提案した。下半身はスタスタ歩いて、電車に乗って、バスに乗って、またスタスタ歩いて、ちょっと迷子になって、やっと着いたのはレンガ造りのギャラリーだった。
「これが見たかったのか」と、上半身納得。
「見るのは頭だけれど」と、脳みそはまた拗ねた。

ちひろ美術館 没後10年「長新太の脳内地図」展で、「下半身の外出」を読んで。

2015年7月19日日曜日

七月十八日 大手門へ

エッジの効いた石垣は、よく紙が切れると聞いた。江戸城の石垣はそれはそれは切れ味がよかったらしい。私は皇居に散歩に出掛けることにする。和紙三十枚と洋紙二十五枚を持って。しかし、石垣の切れ味を確かめることはできなかった。雨が降っていたのだ。小脇に抱えた紙束は、ぐっしょりと重たくなっていた。

2015年7月10日金曜日

七月十日 穴

十年使っているバッグに穴が開いた。どれどれと穴を覗きこむと、穴開け職人がガッツポーズをしているのが見えた。十年間、ご苦労様でした。

2015年7月3日金曜日

ムライハウス


入居者が部屋を捜して彷徨うアパートメント。今日も黙々と増改築を進めるムライ氏だが、誰も彼の顔を知らない。

妄想二人展

耳とお散歩ごっこ


「さあ、お散歩に行きましょう?」 囁かれた耳は、聞こえない振りでささやかに抵抗する。


妄想二人展

加世子の足


リボンで着飾った足、少しは大人っぽくなっただろうか。どんなに優雅な振りをしても、貴方の顔に乗せると幼さが際立つような気がして、少し怖い。


妄想二人展

インナーチャイルド


醜い私があちらこちらに落ちているのは見ないことにして、私は私をあやす真夜中。この私は、笑いもしなければ、泣きもしない。


妄想二人展

散歩の時間


道端に時間が落ちている。拾って歩くと、両手が時間で一杯になる。寝ている猫にやってしまおうか、それともあの子にあげようか……。


妄想二人展

雑貨店


魅惑的な雑貨の数々に目が眩む。ひとつひとつじっくりと見ていたら時間を忘れた。どうやら長居し過ぎたらしい。店主はごそごそと棚の一角を空け、私を陳列した。


妄想二人展

吉報

実りの季節、世界に吉報が巡る。吉報が饒舌に「何故これがよい便りなのか」を語るせいで、世界は少しずつ歪になる。


妄想二人展