六月某日、曇。この間、実を踏んでしまった枇杷の大木がごっそり剪定されていた。枝の切口がまだ生々しい。すっきりして喜んでいるのは根元に生えている紫陽花だろう。濃い紫をさらに深くしている。この紫陽花には警戒を怠ってはいけない。秋にも咲いたことがあるからだ。蝸牛にもそっと耳打ちをする。
懸恋-keren-
超短編
2025年6月28日土曜日
2025年6月24日火曜日
暮らしの140字小説22
六月某日、曇りのち雨。見て見ぬふりをしていた通気口のフィルターを掃除する。勢いに乗って、家中の空調設備の掃除を行う。埃を一掃したかに思えたが、夜になって洗濯機の塵を取り除くのを忘れていたことに気が付いた。乾いて固まった埃や繊維の塊を凝視する。昨日着た服の痕跡を見つけて、満足する。
2025年6月20日金曜日
2025年6月18日水曜日
暮らしの140字小説21
六月某日、快晴。枇杷を踏んづけた。近くに大きな枇杷の木がある。毎年、実を付けるが食用ではないので果肉は少ない。だが踏むとちょっとギョッとするような感触があって、咄嗟に「ごめんなさい!」と言ってしまう。去年も言った。一昨年も言った気がする。そんなこんなで、何年も枇杷を食べていない。
2025年6月16日月曜日
暮らしの140字小説20
六月某日、雨。風邪を引いた。九ヶ月ぶりである。風邪というのは二種類ある。感染したという実感があるものと、ふらふらと体調を崩し、風邪になるもの。体温計がなぜかのっぺらぼうになって表示窓も押釦もない。「体温測ってください」と頼み脇の下に突っ込むと「37.2度」と言う。信用していいものか。
2025年6月11日水曜日
暮らしの140字小説19
六月某日、曇。早くも蒸し暑い。暑くなると洋服掛けには白いTシャツがずらりと並ぶ。同じものではない。袖なし、半袖、五分袖、七分袖と取り揃え、それらをその日の日差しや気温・湿度によって選び取るのである。去年買ったものはもうよれよれだが、昨夏の猛暑を共に乗り越えた仲である。着心地はよい。
2025年6月2日月曜日
暮らしの140字小説18
五月某日、雨。八百屋から帰ってきて、野菜たちを片付けていたら、買ったはずの長葱がないことに気が付いた。傘を差して、家を出る。幾らも歩かぬうちに見つかり、安堵する。駆け寄ると、雨に濡れた長葱は匂いを強く発していて泣いているようだった。長葱が鼻と目を刺激するので、一緒に泣いて帰った。
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