2018年6月10日日曜日

箱を開けると7

 箱の中には、色とりどりの小さな折り鶴がぎっしり詰まっていた。
 一羽摘み出して、手のひらに乗せると、羽ばたき出した。
 羽ばたきが上手くなってきたところで、息を吹きかけると、窓の外へ飛んで行った。
 箱の中の折り鶴たちもソワソワとし始めたので、一羽ずつ手のひらに乗せ、羽ばたくのを待ち、息を吹きかけ、飛び立たせた。
 たくさんの折り鶴が順番待ちしているので、二羽ずつでもいいかと思ったけれど、どうしても一羽ずつでないといけないようだったので、延々と繰り返した。
 最後の鶴を見送った頃には、月が出ていた。

2018年5月15日火曜日

箱を開けると6

 箱を開けると、手紙が入っているはずだった。出せなかったラブレターが二十四通。仕舞いこんだまま、十年が過ぎた。もう、潮時だ。破いて捨ててしまおう。私はあのころには想像していなかったような生活をしていて、おそらく相手も同じだろう。たとえ出会っても、二人の人生は交わることはないのだ。
 箱の中には自分のものではない筆跡の手紙が入っていた。若かったあのころ、欲しくて欲しくて堪らなかった、彼女からの手紙だと気が付くまで、何秒掛ったのか、何分掛ったのか、自分でもわからない。切手は貼られておらず、開封もしていない。この手紙もまた、出さなかったはずの手紙なのかーー
 私が出さなかったはずのラブレターが、彼女の元にあるとしたら

2018年5月9日水曜日

箱を開けると 5

箱を開けると、造花に埋もれて人形が横たわっていた。
棺だ。
そう思ったら、人形が目を開けたので、放り出した。
人形は転がるふりをして、壁際に行儀よく座った。
箱はぐちゃぐちゃになった。簡単に潰れるような箱には感じなかったのだが。
敷き詰められた造花も散らばった。
こんなに不気味なのに、箱に閉じ込めることができなくなった。どうしたらいいのだ。
睨みつけると、人形は項垂れ、そして首を落とした。

2018年5月6日日曜日

箱を開けると 4

 強い風の吹く夕方だ。
 どんどん薄暗くなっていく駅前で、白い箱が風に吹かれて空中に踊っていた。
 風に乗って電信柱にぶつかり、屋根に落ちて転がり、ふいに浮き上がり、また落ちかける。
 空飛ぶ箱に気が付く人がひとり、またひとりと増え、駅前には髪をなびかせながら箱をポカンと見上げている人でいっぱいになった。
 ついに、オレンジ色の街灯に勢いよくぶつかって(それは風のせいではなく、意志があるようにさえ見えた)、箱は開いた。
 スーツの男に降り注ぐ紙吹雪と、「おめでとう」の垂れ幕。駅前で起こる、拍手喝采。「おめでとう」の理由はわからないままに。

2018年4月16日月曜日

箱を開けると3

 ぽこぽこと歩く箱が部屋に現れたので、猫と追い掛け回した。
 猫が勢い余って潰してしまうことを恐れたが、箱は猫の手をうまく逃れ、ぽこぽこぽこぽこ歩く。
「はこー、ちょっと待ってー」
 ぽこ。箱が立ち止まる。
「あなたには何が入っているの?」
 ぽこぽこぽこぽこ。箱が逃げる。
 ようやく追い詰めて、箱を捕まえると、おとなしくしている。
 蓋を開けると、「ぽこぽこ」が入っていた。

2018年4月9日月曜日

箱を開けると2

テーブルの上にリボンを掛けた箱が用意されている。
箱の中は、私の誕生日ケーキ。
リボンを解き、箱を開けると、新築したばかりの我が家にそっくりのケーキが現れた。
ナイフを入れるのに、やや躊躇するがこのままでは食べられない。
ナイフを当て、えいっと力を入れると、バリバリと天井から不穏な音が聞こえてきた。
私もまたケーキの中にいる。

2018年4月8日日曜日

箱を開けると1

小さな小さな箱である。
爪の先を使ってやっと開けると桜の花びらが一枚、窮屈そうに入っていた。
棚には同じ大きさの箱が十八個並んでいる。十九個目を隣に置いた。
「いつか助けた桜からの便り」と言いたいところだが、実のところ、なぜ毎年届くか、わからないのだ。