2003年9月30日火曜日

石ころ

わたしは小石をあちこちで拾ってきてはビンに貯めている。
どうしてそんなことをするのか、自分でもわからない。
ただ石が毎度違う音を立ててビンに吸い込まれていくのが面白くてしかたないのである。
「カツン」というものもあったし「ガチャン」というのもあった。
でも最近はもっと面白い。「ピチャン」だの「グシャリ」だの「ベショ」だの
おおよそ石がビンに落ちたとは思えない音を出すものが現れるのだ。
わたしはそれを求めてほうぼうへ出かけてゆく。
この前は月へ行った。

2003年9月29日月曜日

MY NAME IS...

「はじめまして。ぼく、きゅるきゅるです」
「きゅるきゅる?どっちかというと、ごりごりってカンジじゃない?」
「そんなことありませんよ!ほら、このへんなんかきゅるきゅるでしょ?」
「いやいや、それはじょりじょりだよ」
「じょりじょりはこんなカンジですよ」
「それはふよふよだろ」
「なんですか?ふよふよってのは」
「それよりここはぬらぬらしてるんだな」
「し、失敬な!ぷるぷると言ってください」
「あ、そうしてるとむにむにだな」
「くにゃくにゃですって」
「で、名前はなんだっけ?」

2003年9月28日日曜日

しゅるしゅる

「しゅるしゅる」
きみがつぶやく。
「しゅるしゅる?何が?」
わたしは聞く。
「だから、しゅるしゅる、だよ」
きみは一言づつ区切りながら言った。
わたしは彼の口ぶりをまねて言う。
「しゅるしゅる」
「そう、しゅるしゅる」
なおもわたしは訊ねる。
「何かすすってるの?それともヘビでも見た?」
きみはちょっと面倒そうな顔して言った。
「きみが、しゅるしゅる、なの」
「わたしが、しゅるしゅる」
「イエス」
「ふーん」
わたしたちは、いつもこんな感じ。

2003年9月27日土曜日

尾行?

カツン カツン カツン カツン カツンクルリ ギロ
ビクッ
ガチャガチャ
「誰だ」
ドキンドキンドキン
「階上に住んでる者です」
「そうか」
バタン
フゥ

2003年9月25日木曜日

愛する二人は

さらさら ざらざら
つるつる ぞりぞり
すべすべ ごわごわ
ふにふに ごつごつ
ひっそり こっそり
なでなで つんつん
しっとり うっとり 夜は更ける

2003年9月24日水曜日

歩くとき歩けば

とぼとぼ歩く、私のココロゆらゆら。
木々がそよそよと相づち、小川は さらさらと笑ってばかり。
鳥たちは気ままにピーチクパーチクおしゃべりしてる。
私は突然「もうコリゴリ!」と叫んでスタスタ歩き始めた。
その途端小川は笑わなくなったし、木々も返事を止めた。
すっきりした。せいせいした。
私のココロ、がっちり。
目の前をキッと睨みつけてズンズン進む。
コツコツコツコツ足音は加速度を増していく。
ドックンドックン鼓動も比例して早くなる。
景色もビュービュー流れていく。
ハッとした時には遅かった。
もう止まることはできないのだ。
あたりがシンとしているらしいことに気づいたから。
頭がガンガンと痛い。

2003年9月23日火曜日

動物会議

「ワンでありますか」
「ニャにがニャにしてニャンです」
「それについてはチューいしなければ」
「モウたくさん」
「メエ惑してるのはこっちなのよ」
「コン夜、コン?」
「狐どんはニャンパしすぎ」
「ビョウ気だワン」
「アホウアホウ」

2003年9月22日月曜日

災難

「そしたらさ、ドギューン ドッカーンだよ」
「ヒエー」
「で、バーンってなってガラガラドッシャーンさ。顔からダラダラと……」
「ブルブルもんだな」
「ついにはモクモクしてきて皆ゴホンゴホンで、ゲェーゲェーしてきてさ」
「ウェー。ひどいめにあったね」
「ああクタクタだよ」

2003年9月20日土曜日

返却前に

物語の最後に薄い桃色の紙が挟まっていた。
「この本を読んだあなたへ」
手紙? 綺麗な字だ。
丁寧に、丁寧に物語への想いが綴られていた。
彼女も(筆跡からして、たぶん女の人だ)私と同じような感想を抱いたらしい。
どんな人なのかわからないのに、彼女と自分につながりができたような気がして嬉しかった。
「1992.10.14」
10年以上も前だ。
その間、何人の人がこの本を手に取りこの手紙を読んだのだろう。
本の痛みは目立つのに便箋はきれいなままだ。
でもたくさんの人が触れた気配が確かにある。
私はもう一度手紙を読んでから慎重に畳み、本を閉じた。
おそらくこれまでに何度も繰り返された儀式。
とても不思議。

2003年9月19日金曜日

若い二人は語りあう

すっ と目の前を通り過ぎて落ちたのは紙飛行機だった。
拾いあげると細かな文字がびっしりと並んでいる。
見上げれば左手の家の二階からいたずらっぽく笑った青年の顔。大学生だろうか。
「彼女からの手紙、長すぎて」青年は言った。
きっと彼も長い長い手紙を書くのだろう。そうに違いない。
私は彼に紙飛行機を飛ばしかえした。
だが、それは彼の手には帰らず意志を持ったかのように高く高く飛んで行った。

2003年9月17日水曜日

未来からの手紙

お元気ですか?元気でしたね。
今頃受験生ですね。たぶん南高と北高で迷っていると思うけど、選択は間違ってないから大丈夫。
それから担任のサイトー先生の言うことは気にしないように。
それと気になってるカトー君は止めときなさい。あれは女たらしだから。
あんなのよりもいい子がすぐそばにいるでしょ!早く気付いて!!
お父さんにいじわるなことを言わないように。
勉強を言い訳にお手伝いをさぼらないように。
自分に言われた事くらい守りなさいよ。
では!十年後より

はーい。わかりました!そうか、カトー君は駄目なのか……。

2003年9月16日火曜日

ぼくは郵便屋にはなれない

いけない、とわかっていた。
ぼくは友達から預かった手紙を読んでしまった。
届け先は隣の家のユカ。幼なじみだ。
テキトーに畳まれた便箋を手に、ラブレターってどんなもんだろ、と思った。
だいたいきちんと封をしてないほうが悪いんだ。
読んでもバレないと思った。
胸でもなく、頭でもなく身体中が痛い。腕が痺れる。

2003年9月15日月曜日

ひーばーちゃん

その手紙には赤いクレヨンがグリグリと塗りたくられていた。
私の顔らしいが、よくわからない。でもとても嬉しい。
私もお返事にグリグリと青いクレヨンで書いた。
一応、彼の似顔絵を書いたつもりだったのだが、とてもそうは見えない代物になった。

わたしたちはよく似ていると思う。
でもきっと、その時間は長くない。そういうものだ。

2003年9月14日日曜日

友へ

こんな愚痴ばかりの手紙は情けないな。
あの子に心配をかけるのもイヤだし。
それに……昨夜よりずっと気分はいい。
悩みが消えたわけではないけど、きっと言葉にしたからすっきりしたんだ。
思えば、こんな愚痴ばかりの手紙を出しても許してくれる相手がいるってだけで、しあわせだよね。
……もうこの手紙の役目は済んじゃったみたい。

私はポストの前で手紙を破いた。
秋の空はきれいだ。

2003年9月13日土曜日

弔辞

はじめて書いた手紙のことを覚えていますか?わたしのそれは、手紙というものを嫌いになるには十分すぎる出来事でした。ある朝、目の赤い母に命ぜられ私は生まれて初めて手紙を書きました。その日の午後、大勢の黒い人たちの前で私は初めて書いた手紙を読まされました。黒い人たちは手紙を読む私を見て泣き出しました。私はそれを見てムカムカしてきて、しまいには大声でどなりながら読みました。もう手紙なんか書くもんか、と思いながらどなって読みました。

2003年9月11日木曜日

つめたくてあたたかい

郵便配達を始めて半年、この夏、ぼくは4kg痩せた。
暑い中、重い自転車を転がすのは、本当にしんどい。
ぼくの担当区域は家は多くないがその分家から家への距離が長い。
ある家のポストの上にちょこんとグラスが置かれていた。
この家には筆まめな人がいるらしく、頻繁に配達していて、なんとなく馴染みがある。
しかし、まだ一度も家の人と顔をあわせたことがない。
グラスはよく冷えていた。
配達のタイミングをみて置いてくれたに違いない。
ぼくは家の中に向かって
「麦茶、ありがとうございます! いただきます」
と声を掛けた。
返事はなかった。

2003年9月9日火曜日

がんばるサンタさん

「サンタさんへ プレゼントは、いらないから、とうちゃんとねずみーらんどにいきたいです。とうちゃんはかいしゃがいそがしくて しょうがっこうにはいってからまだかぞくでおでかけしたことがありません。サンタさんからもとうちゃんにたのんでください。」
サンタさん、思わぬお願いに涙があふれてきた。
しかし、サンタさん、こりゃ大変な任務だぞ。
まずは有給休暇をとらなくちゃいけない。
忙しいサンタさんには、こいつがチトやっかいだ。
でもサンタさん、気合い十分、やる気満満。

2003年9月8日月曜日

返信は赤い文字で

私は返ってきたテストを見てニンマリした。
[先生もその本は読みましたよ。長い作品をよく読みましたね。面白い本があったら教えて下さい。]
解答用紙の端っこに好きな本の感想を書いた。
[テスト中にそんなこと書くな]とか、或いは全く無視されることもあると思っていたのだけれど先生はちゃんと返事をくれた。
短いコメントだけど、ちゃんと返事をくれた。少しドキドキした。
「ねー何点だった?」
後ろの席のナオに背中をつつかれた。
「86点」
「すごいじゃん。ちょっと、あんたテスト用紙に何書いてんの?」
「ないしょだよー」

2003年9月7日日曜日

in the distance

「お誕生日おめでとう」
そこまで書いてペンが止まってしまった。
とりあえず立ち上がってコーヒーをいれたり、新聞を読んだりして三十分ほど時間を置いてみたけれどやっぱりうまく言葉がでない。
プレゼントを選ぶのは楽しいのにカードを書くのはなぜか苦手だ。
この際、決まり文句で済ませてしまおうかと思ったけれど、それは私の心が拒否していた。
かといってポエムちっくなのもどうかと思う。そんな言葉が似合うほどお互い若くないのだ。さりげなくて私の気持ちが込められる言葉……。
「今,7日の午後二時です。あさってのあなたの誕生日に間に合うといいのだけど。プレゼントはきのう買いに行きました。あなたの好きな青を選んだのだけど、よかったかしら?実はね、あんまり気に入ったので黄色のを自分用に買ってしまいました。お揃いだけどいっしょに着て出かけられそうにないのがさびしいです……」

2003年9月5日金曜日

NO TITLE

「はじめまして。あなたのファンになって一カ月が過ぎました。あなたの声を聞き、姿を見て私は衝撃をうけました。こんなにときめいたのはうまれて初めてです。一カ月経ってますますあなたの魅力に取り付かれています。どうかこれからも素敵なあなたでいて下さい」

ファンレターなんて初めてだ。
素敵なあなた、だってさ。なかなか気分がいいな……。
舞い上がりそうになった時、胃がギュッと握られた。
思い当たることがある。
どこからともなく感じる射るような視線、しばしばかかってくる無言電話。
大体、ぼくは「ファンレター」をもらうような立場ではないのだ。
このファンレター、なにかがおかしい。絶対に変だ。
その夜、ぼくは引っ越しを決めた。

2003年9月4日木曜日

季節の便り

ポストを開けると見事な梅の実がひとつ転がっていた。
「近くに梅の木なんてあったっけ?」
ぼくは梅の実を持って歩きだした。
入ったことのない小道へ足が向う。
「この青梅が道案内してくれてるんだな」
握り締めた梅がヒヤリとした。
着いた所は家から数分も離れていなかった。
造成を逃れたのが不思議なくらい、いい土地だ。
その草むらに立派な梅の木が立っていた。
圧倒される光景だった。
「梅干し、作らなきゃ」
ぼくは確信した。梅干しなど作ったこともないのに。

あれから毎年梅の実の便りがくる。
そして、ぼくは梅干しを作る。

2003年9月3日水曜日

若気の至り

「そうだ。あのさぁ、おれ、・・・…のこと好きなんだけど」
いつものメールのやりとりの最後に、さりげなく告白したつもりだった。
アイツは部活のマネージャーで二年からはクラスメイトでもある。初めは諸連絡ってカンジだったけど、そのうちそれ以外でもメールするようになって、今では一番回数が多い。
数日前から考えていたこの告白作戦、うまくいくはずだ。
予想通り、返事がくるのに時間がかかっている。

キタッ!
「どうしてそんな大事なことをメールで言うの?軽い感じがしてイヤ。どうせ明日会うんだし、そーゆーことちゃんと顔見て言って欲しいんだけど。信用できない」
思いもしない展開。血の気が引く。絵文字とかがマンサイの、いつもの彼女と違う。おれは慌てて親指を動かした。
「ごめん、なんか急に言いたくなったんだよ。明日帰りに待ち合わせよう。その時ちゃんと告らせて」
結局、その後メールは来ない。
どうしちゃったんだろう?どうなっちゃうんだろう?
四十五回目の寝返りで、彼女との相性が悪いことに気づいたおれは明日、告白を取り消す作戦を考えはじめた。

2003年9月2日火曜日

朱色の葉書入れ

月に数回母からくる葉書は私を苛立たせた。
ポストにそれを見つけると思わず破りたくなる。
年を取った母の筆跡は、はかなげで内容もとりとめがなかった。
天気の話や、近所の誰それが死んだとか、買い物がしんどいだの、そういうことだ。
そんなことしか書くことがなくても、母にとっては娘の私に葉書を書くことが少ない楽しみの一つなのだ。
だが、それを私は受け入れられないでいる。
理由はわかっていた。
母が老いていくのを、そしてまもなくやってくるであろう私自身の老いを直視できないのだ。
その悲しみや不安をごまかそうとするかのように、ヒステリックになる私。
私はなるべく文面を見ないようにして塗り物の箱に葉書を納めた。
母からの葉書はすべてここにしまってある。

2003年9月1日月曜日

SOS

限界だな、と思い始めたのはだいぶ前からだ。
[パパとママへ きょうはさんすうのしゅくだいがいっぱいでてたいへんだったよ。
けんたとじてんしゃであそんだ。 おばあちゃんがかってきてくれたアイスをたべた。 おやすみなさい りゅうより]
父母は子供の生活サイクルとかけ離れた仕事をしている。
ぼくが字を覚えたころから、広告紙のウラに日記のような手紙を書いてから寝るのが習慣になった。
でも、淋しさは文字のやりとりだけでは埋まらない。
むなしさが文面に表れる。
日に日におざなりな日記になっていく。
早く気付いて、ママ!

ADVERTISING MOON

9月のある朝、新聞の折り込み広告にずいぶん質の悪い茶けた紙が混じっていた。


-中秋の名月のお知らせ-

本年も、私がきれいな日がやってきました

どうぞお誘い合わせの上、ご鑑賞くださいませ 

なお、その際はどうかお団子をお忘れなく



近頃はお月さんもずいぶん宣伝熱心だ。
さて、団子をこしらえてやるか。
食いしん坊のお月さんのために。


++++++++++++++++++
三日月遊園地参加作品