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2024年1月4日木曜日

果実戯談 パイナップル

パイナップルの飛行性能を人類はやっと活かせるようになった。若者は自由に乗りこなし、老人もパイナップルを抱きしめて飛び回り始めた。抱かれたパイナップルは照れくさいのかトゲトゲしくぶっきら棒な飛びっぷりになるが、その分おいしくなることを酸いも甘いも噛み分けた老人たちはよく心得ている。(140字)

2023年12月5日火曜日

果実戯談 マンゴスチン

初めてマンゴスチンを食べた日、大切な物をマンゴスチンの殻に仕舞うと長持ちすると先生は言った。一番仲の良い人形に今日からここがあなたのベッドだと話すと、少量の魔法で殻を大きくし、器用に身体を畳みマンゴスチンの殻の中で眠るようになった。首の向きも脚の角度も私には真似できない美しさ。(139字)

2023年12月1日金曜日

果実戯談 レモン

目覚まし時計が鳴る10分前、部屋は爽やかな香りで満たされ、薄っすらと覚醒を始める。そろそろ目を開けてやろうかと思う頃、頬にひんやりとしたものがぐりぐりと押し付けられる。唇に落ちてきた酸っぱい雫を舐め完全に目覚める。鳴り始めるアラーム。おはようレモン、今日も起こしてくれてありがとう。(140字)

2023年11月18日土曜日

果実戯談 スイカ

私が歩いた跡にはスイカの種が落ちる。種はどこに落ちてもその場で育ち、とても小さなスイカの実になって私の元へ転がって帰ってくる。私はスイカの実を拾い上げると「よく帰ったね」と撫で、ポイと口に放り込む。季節に関係なく甘い。そしてまた私はスイカの種を落としながら歩むのだ、命尽きるまで。(140字)

2023年11月2日木曜日

果実談義 メロン

 「道に迷ってしまって」ご老人に話しかけられた。年季の入ったメロンの上を不安そうに指が彷徨っている。「私のメロンと比べて見ましょう」幸いご老人の目的地はすぐわかった。私は申し出てご老人とメロンを交換した。古いメロンを指で辿ると昔の町並みの香りが鼻腔を擽る。さて時間散歩と洒落込もう。(140字)

2023年10月31日火曜日

果実談義 桃

季節外れの桃を買った。八百屋の親父さん曰く「ペット用? 観賞用? だかの桃らしいんだが俺もよくわからん」重さも触り心地も桃そのもの。よい香り。やさしく撫でると微かに身震いする。寿命はわからない。食べる桃ならとうに腐っているはずだ。甘い香りが強くなってきた。気のせいだと思いたい。(137字)

2023年10月17日火曜日

果実談義 柿

新しいパソコンを買ったらマウスが柿だった。ヘタが掌に障るかと思ったがそうでもない。矢印はするする動き回り、軽快にクリック。実に快適だ。だがレシピやカフェ情報など食べ物を検索する時だけは暴走する。近頃は柿の好みもわかってきたし、何より柿の選んだカフェは間違いがないので、任せている。(140字)

2023年10月1日日曜日

果実戯談 キウイ

誰が読むともしれない手紙を書く。悩み事や愚痴を書き連ねることもあるし、空想の話をすることもある。便箋を畳み、封筒に入れる。しっかりと封をし、切手を貼り、宛名は書かない。半分に切ったキウイをスタンプして、郵便ポストに投函する。私にも、キウイが捺された知らない人からの手紙が時々届く。(140字)

2023年9月13日水曜日

果実戯談 サクランボ

鍵屋に「鍵ちょーだい」と言えば「やってもいいが、そのサクランボと交換だ」という。鍵が手に落ちた瞬間、サクランボになる。違う、鍵が欲しいのに。約束だからサクランボを鍵屋の手に落とす。何度やっても鍵屋の手には鍵。時々、青い嘴がサクランボの瞬間だけ攫っていく。鍵は、いつ手に入るだろう。(140字)

2023年9月6日水曜日

果実戯談 巨峰

 「ちゃんと計算したか?」と問われる。「はい、新鮮な巨峰で」と答える。確かめ算のたびに、どこからともなく小石が降る。ときどき綺麗な石が降ると「あ、水晶!」「アメジストかな?」計算は中断。はじめからやり直し。巨峰が疲れてくる。綺麗な石が降らないかわりに計算ミスが増え、今日も残業。(138字)

2023年9月4日月曜日

果実戯談 みかん

時間は、みかんに任せるとよい。数ある柑橘の中でも、みかんをおすすめする。午前の仕事をやっと終えた私はレストランへ向う。西の空は茜色だが、あくまでランチだ。ウエイターは私の手の中のみかんをチラリと見て「ご昼食ですね」と言った。自分の望むタイミングで行動したいなら、みかんに限る。(138字)

2023年9月3日日曜日

果実戯談 梨

よく回る梨だ。「きっと音楽が聴けるよ」と八百屋がいう。レコードに梨を乗せた。ヘタをレコードの溝に当てると音が鳴った。梨が加速する。音楽も早回しになり、煙が出てきた。音楽はすべて煙になり、レコードはツルツルに、梨は皮が剥けた。私は梨を食べ、煙を吸い込んだ。溜め息は大好きなあの歌に。(140字)

2023年9月1日金曜日

果実戯談 苺

 父の描いた水墨画は天気が変わる。雨の日、風の日、雪の降る日。私は父の絵が大好きだ。「よっこらせ」父がうれしそうに苺を買ってきた。「これは重くなるぞと思ったら、帰り道からどんどん重たくなった」と自慢する。ずっしりと重く、甘酸っぱい香りがする。父はこの重い苺を文鎮にして水墨画を描く。(140字)

2023年8月31日木曜日

果実戯談 イチジク

 「もしもし」よいイチジクが手に入ったので、いとこに電話をした。「久しぶり。元気?」いとこの声もプチプチしている。「そっちもイチジク?」「そう!」互いに祖母の声に似てきたと笑い合う。季節問わず通信できるかもと、乾燥イチジクを試したこともあったがメール三文字、高確率で文字化け繧、繝√(140字)

2023年8月30日水曜日

果実戯談 バナナ

夜の散歩にはバナナだ。手に馴染み、あたたかく光る。買ったばかりの、先が少し青いバナナが懐中電灯によい。バナナで夜道を照らして歩くと小さな生き物や、もう生きていない物がよく見える。怖くはない。だが三日月の晩は要注意。バナナが月と入れ替る。手の中のものが月だと気付いた時の恐怖たるや。(140字)

2023年8月29日火曜日

果実戯談 リンゴ

八百屋で買ってきたリンゴに穴のあいたものがあった。ちょうど鉛筆くらいの穴だったので、青の色鉛筆を突っ込んでみると、キリリと尖った。削りカスも出ない。これは素敵な鉛筆削り器だ。24色全部削ったらリンゴの穴は貫通してしまった。覗くと、青い空があった。色とりどりの雲が忙しなく流れていく。(140字)