2012年1月28日土曜日

家を建てる獸

海狸の建築技術が、世間に認められるようになって、海狸は他人の家まで建てるようになった。
海狸の建てる家は、良い香りがすると評判である。海狸の家に棲む夫婦は、仲が良い。
よい香りのする家は、いつもよいムードが漂うらしい。
子供の多い夫婦が増え、「夫婦円満の家」「子宝の家」として売り出されるようになった。
しかし、当の海狸は他人の家を建てるのに忙しくて、子供が少なくなった。
なんだか変だと思いながら、今日も海狸はカストリウム香る家を建てる。


2012年1月27日金曜日

夢の女王

女王の吐き出す吐息が夜空いっぱいに広がる。吐息は千切れ、丸まって、不思議な生き物になった。
小さな幻獣たちは、きょろきょろと地上を見回して、誰かのベッドを目指して降りていく。
「女王さまは夜のあいだずっと息を吐き続けて苦しくないのかしら?」
一匹の幻獣が心配すると、女王はニッコリと微笑み、それから大きな大きな幻獣を出してみせた。
大きな幻獣はぽやんぽやんと夜空をスキップした後に、最後の夢を見る老人目掛けて降りていった。

江崎五恵さんの個展「夢のタペストリィ」を見て。

2012年1月21日土曜日

鳥の本能

渡鳥が間違いなく目的地に辿り着くには、星や風との情報交換が欠かせない。


生憎、雲とは情報交換ができないのだが、鳥に雲と会話する能力がないためなのか、雲が無口だからなのかは、まだわかっていない。



2012年1月19日木曜日

海綿(スポンジ)の話

海綿は、吸い上げた海水を頭から噴き出す。


「この噴上げっぷりは、海底火山とよい勝負だ」と思っていることを、海の誰もが知らないふりをしている。



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2012年1月17日火曜日

ホトトギス

「イエローのアイラインが美しいですね」
 と、ホトトギスに言う。本当にきれいだと思ったのだ。
「ヘチマ水で目を洗うのです」
 そう言ったホトトギスの口中は、血のように赤かったから、それは真っ赤な嘘なのだろう、と思う。
 大体、彼は名前が多すぎるところからして、信用ならぬ。杜鵑、時鳥、子規、不如帰、郭公、無常鳥……
 明日は、ヘチマの洗眼液の作り方の本を図書館で探す。

子規記念博物館 訪問の記

2012年1月10日火曜日

山の悲劇

山の手入れを任された紳士は、一面きっちりと芝を敷いた。


青々とした山の頂上に立ち、にっこりと微笑む。今度は薔薇を植えよう、と。



2012年1月8日日曜日

猿の言葉

山から降りて町で暮らしたその猿は、一部の人間により町を追放されることになった。


猿が唯一覚えた人語は、「猿が去る」というものだったので、申年の年末までは町に居住することを許された。


次の申年まで覚えていられるだろうか、と不安に思った猿だが、それをうまく表明できないまま町を去った。



猿の言葉といえば、ボノボのカンジとパンバニーシャを思い出します。


息災だろうか。


2012年1月3日火曜日

動物の帰郷本能

飼い主がほろっと手を緩めてしまったときに、犬は芳しい香りを嗅ぎつけて、無条件に走りだしてしまったのだ。


その香りの源は、巨大な花だった。犬はすぐに興味を失った。そういえば腹が減っている。


こんなに長距離を全力で走ったのは、生まれて初めてだ。


 


さて、ずいぶん遠くに来てしまったぞ、と犬は気づいたがどうしようもない。


幸い犬は飼い主の名を覚えていたので、訊いて回りながら帰ることにした。


「ヤマノウエ・ノボルの家を知りませんか」


と犬が訊く。


「おまえ、帰郷本能もないのか? 犬なのに。俺はどこにいても帰れるぜ」


と、ほとんどの犬が答える。


犬は犬としての己の能力のなさを知り、自信を失った。


 


そうこうしながら彷徨い歩いた。野犬として追い掛け回されたり、保健所に送られそうになりながら、一軒の家に迷い込んだ。


犬は、その家の人間にひどく歓迎された。そして、涙ながらに庭に通されたのだった。


庭では、犬の母が、息を引き取ろうとしている。



あけましておめでとうございます。