2006年2月27日月曜日

凍った音

オレのじいさんは、氷樹の森できこりをしていた。
氷樹は木材としても薪としても優れていたし、楽器にもなった。笛にも太鼓にもなった。
氷樹の森は寒いが、じいさんは泊まりがけで仕事にいった。
一度だけ、オレはじいさんに付いて森に入ったことがある。
粗朶を集めて来いと言われて、オレは枝を拾い集めた。
じいさんが火を点けると、黄色い炎が揺らめいた。あたたかかった。
もう氷樹はすっかりなくなった。どんなに寒い土地に行っても見つからない。
じいさんの形見の笛も、氷樹が滅びるのと同時に、音がしなくなった。

《Cello》