「森は遠いのかい?」
と鯨怪人が尋ねると、駱駝の瘤姫はウインクした。「近道があるのよ」
砂埃がひどく前が見えない。息も吸えない。
歩みの遅い蝸牛男はついていくのに精一杯である。粘液に砂がついて、不快極まりない。
もうこれまでだ、と蝸牛男が思った時、瘤姫の声が聞こえた。「着いた!」
さっきまでの砂漠とは打って変わった景色が広がっていた。広葉樹、木々を揺らす風。
「どうやってここまで来たのか、さっぱりわからない」
蝸牛男がつぶやくと、瘤姫は蝸牛男についた砂粒を鼻息で吹き飛ばしながら言った。
「あら、わからなかった? 砂漠を潜って来たのよ? 昔、蟻地獄男爵に教えてもらったの」
「誰だその、男爵っていうのは!」
鯨怪人が嫉妬で潮を吹く。
2014年1月26日日曜日
2014年1月13日月曜日
奇行師と飛行師15
奇行師の言葉を固唾を呑んで待つ一行。
「ここからは、徒歩で行く!」
しかし、これは大いなる間違いだったのだ。砂漠に慣れた瘤姫、図体の大きい鯨怪人、飛行可能な飛行師、所詮は人間の奇行師、結局は蝸牛の蝸牛男が、足並みを揃えて歩けるわけがないのだった。
「奇行師さーん、どこを目指せばいいのー?」と先頭の瘤姫が振り向いて奇行師に問う。
奇行師はありったけの大声とパントマイムで答えた。
「森へ!」
「ここからは、徒歩で行く!」
しかし、これは大いなる間違いだったのだ。砂漠に慣れた瘤姫、図体の大きい鯨怪人、飛行可能な飛行師、所詮は人間の奇行師、結局は蝸牛の蝸牛男が、足並みを揃えて歩けるわけがないのだった。
「奇行師さーん、どこを目指せばいいのー?」と先頭の瘤姫が振り向いて奇行師に問う。
奇行師はありったけの大声とパントマイムで答えた。
「森へ!」
2014年1月5日日曜日
声がする
押入れに埃だらけの瓶を見つけて、自分の部屋に置いた。
「これ、ちょうだい」と言ったとき、母は少し苦い顔をした。
「おじいちゃんのウイスキーの瓶。そんなものどこで見つけたの?」
私は祖父が大好きだったが、母はそうではなかったようだと、このとき気がついた。
祖父は、よく本を読む人だった。老眼鏡を掛け、胡座をかいて難しい本を読んでいた。私がせがむと、祖父は読んでいる本をボソボソと抑揚のない声で読み上げ た。小説などではなく、何かの専門書のような本が多かったと思う。もちろん内容はわからなかったが、祖父の声は不思議と心地よかった。
今にして思えば、母にとってはそれも気に食わなかったことの一つだったのだろう、「おじいちゃんの邪魔をしちゃダメよ」とよく叱られた。
祖父の瓶を傍らに置いて、本を読む。最近は探偵小説が好きだ。おじいちゃんに聞かせるつもりで声に出してみる。探偵小説は祖父の好みではないかもしれない と心配しながら読み続けていたら、不意に自分の声と祖父の声が入れ替わった。祖父の声で、ボソボソと読む。心地よく物語が染み渡る。
「ご飯よ」と、呼びに来た母の顔色が悪い。
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玉川重機イラスト超短編投稿作 「イラスト3」
2013年12月26日木曜日
奇行師と飛行師14
「奇行師と、飛行師と、蝸牛男。こちらが麗しの瘤姫。おっと奇行師、触るなよ」
鯨怪人が大雑把な紹介をすると、奇行師は駱駝の瘤姫の手を取って言った。
「我々とともに奇人変人のキャラバン隊を組もうではないか」
「よろこんで!」と瘤姫が応える。
飛行師は、「背中が重たくなるのはもういやだから、鯨怪人に乗っていこう」と提案した。
蝸牛男は、「せっかくの砂漠の旅なのだから、瘤姫に乗るのが風情だ」と言った。
奇行師は、「隊長の命令を聞け! ひゃっふへイ!」とハイヒールを振り回した。
鯨怪人が大雑把な紹介をすると、奇行師は駱駝の瘤姫の手を取って言った。
「我々とともに奇人変人のキャラバン隊を組もうではないか」
「よろこんで!」と瘤姫が応える。
飛行師は、「背中が重たくなるのはもういやだから、鯨怪人に乗っていこう」と提案した。
蝸牛男は、「せっかくの砂漠の旅なのだから、瘤姫に乗るのが風情だ」と言った。
奇行師は、「隊長の命令を聞け! ひゃっふへイ!」とハイヒールを振り回した。
2013年12月17日火曜日
奇行師と飛行師13
「なんだ、鯨怪人は砂漠でも泳げるのか」
と、蝸牛男ががっかりしたように言う。
「砂漠を泳ぐ鯨怪人、実に奇っ怪でよろしい」
と、奇行師は頷いた。
「ところで瘤姫って美人なのかしら?」
と、飛行師は速度を上げて、鯨怪人を追いかけた。
近付くと、巨体をさらに大きくした鯨怪人が、巨大な駱駝の瘤姫の周りを嬉しそうに泳いでいた。
時折、砂を吹き上げて喜びを表現している。
「皆、久方ぶりのランデヴーを邪魔しないでくれ」
「あら、鯨怪人そんなこと言わずにお友達を紹介して」
と、蝸牛男ががっかりしたように言う。
「砂漠を泳ぐ鯨怪人、実に奇っ怪でよろしい」
と、奇行師は頷いた。
「ところで瘤姫って美人なのかしら?」
と、飛行師は速度を上げて、鯨怪人を追いかけた。
近付くと、巨体をさらに大きくした鯨怪人が、巨大な駱駝の瘤姫の周りを嬉しそうに泳いでいた。
時折、砂を吹き上げて喜びを表現している。
「皆、久方ぶりのランデヴーを邪魔しないでくれ」
「あら、鯨怪人そんなこと言わずにお友達を紹介して」
2013年12月9日月曜日
奇行師と飛行師12
鯨怪人が「駱駝の瘤姫を探す」といって聞かないので、変人奇人の一行は砂漠を延々と飛行していた。
飛んでも飛んでも砂漠しか見えない。奇行師は口数が減り、飛行師は何度も墜落しかかった。蝸牛男は相当に参っていて粘液も乾き、顔色が悪い。鯨怪人は、うわ言のように「瘤姫瘤姫」とつぶやき続けている。
「駱駝の蜃気楼が出た」
奇行師の指すほうを見ると、そこには揺らめく巨大な駱駝。
「瘤姫!」
鯨怪人が砂漠に飛び込み泳ぎ始めた。
飛んでも飛んでも砂漠しか見えない。奇行師は口数が減り、飛行師は何度も墜落しかかった。蝸牛男は相当に参っていて粘液も乾き、顔色が悪い。鯨怪人は、うわ言のように「瘤姫瘤姫」とつぶやき続けている。
「駱駝の蜃気楼が出た」
奇行師の指すほうを見ると、そこには揺らめく巨大な駱駝。
「瘤姫!」
鯨怪人が砂漠に飛び込み泳ぎ始めた。
2013年12月4日水曜日
奇行師と飛行師11
優雅に海上すれすれ飛行しているはずだった飛行師が、いつのまにかフラフラ飛行になっていた。
「しっかり飛べ! 次なる変人を見つけるのだ!」と背中に乗せた変人トリオにドヤされる。それもそのはず変人三人が背中の上で酒盛りをしているのだ。
酒を嗅いだだけで酩酊する飛行師、立派な酔っぱらい飛行である。うとうととしてハッと目覚めるを繰り返すこと幾度、そこは砂漠だった。
「砂漠だ! 砂漠だ! 我が初恋の人、駱駝の瘤姫は今何処!」
鯨怪人が叫んだ。
「しっかり飛べ! 次なる変人を見つけるのだ!」と背中に乗せた変人トリオにドヤされる。それもそのはず変人三人が背中の上で酒盛りをしているのだ。
酒を嗅いだだけで酩酊する飛行師、立派な酔っぱらい飛行である。うとうととしてハッと目覚めるを繰り返すこと幾度、そこは砂漠だった。
「砂漠だ! 砂漠だ! 我が初恋の人、駱駝の瘤姫は今何処!」
鯨怪人が叫んだ。
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