2013年12月26日木曜日

奇行師と飛行師14

「奇行師と、飛行師と、蝸牛男。こちらが麗しの瘤姫。おっと奇行師、触るなよ」
鯨怪人が大雑把な紹介をすると、奇行師は駱駝の瘤姫の手を取って言った。
「我々とともに奇人変人のキャラバン隊を組もうではないか」
「よろこんで!」と瘤姫が応える。

飛行師は、「背中が重たくなるのはもういやだから、鯨怪人に乗っていこう」と提案した。
蝸牛男は、「せっかくの砂漠の旅なのだから、瘤姫に乗るのが風情だ」と言った。
奇行師は、「隊長の命令を聞け! ひゃっふへイ!」とハイヒールを振り回した。


2013年12月17日火曜日

奇行師と飛行師13

「なんだ、鯨怪人は砂漠でも泳げるのか」
と、蝸牛男ががっかりしたように言う。
「砂漠を泳ぐ鯨怪人、実に奇っ怪でよろしい」
と、奇行師は頷いた。
「ところで瘤姫って美人なのかしら?」
と、飛行師は速度を上げて、鯨怪人を追いかけた。
近付くと、巨体をさらに大きくした鯨怪人が、巨大な駱駝の瘤姫の周りを嬉しそうに泳いでいた。
時折、砂を吹き上げて喜びを表現している。
「皆、久方ぶりのランデヴーを邪魔しないでくれ」
「あら、鯨怪人そんなこと言わずにお友達を紹介して」


2013年12月9日月曜日

奇行師と飛行師12

鯨怪人が「駱駝の瘤姫を探す」といって聞かないので、変人奇人の一行は砂漠を延々と飛行していた。
飛んでも飛んでも砂漠しか見えない。奇行師は口数が減り、飛行師は何度も墜落しかかった。蝸牛男は相当に参っていて粘液も乾き、顔色が悪い。鯨怪人は、うわ言のように「瘤姫瘤姫」とつぶやき続けている。
「駱駝の蜃気楼が出た」
奇行師の指すほうを見ると、そこには揺らめく巨大な駱駝。
「瘤姫!」
鯨怪人が砂漠に飛び込み泳ぎ始めた。




2013年12月4日水曜日

奇行師と飛行師11

優雅に海上すれすれ飛行しているはずだった飛行師が、いつのまにかフラフラ飛行になっていた。
「しっかり飛べ! 次なる変人を見つけるのだ!」と背中に乗せた変人トリオにドヤされる。それもそのはず変人三人が背中の上で酒盛りをしているのだ。
酒を嗅いだだけで酩酊する飛行師、立派な酔っぱらい飛行である。うとうととしてハッと目覚めるを繰り返すこと幾度、そこは砂漠だった。
「砂漠だ! 砂漠だ! 我が初恋の人、駱駝の瘤姫は今何処!」
鯨怪人が叫んだ。


2013年11月21日木曜日

奇行師と飛行師10

ヒールが鯨怪人に突き刺さる。「何をするんだ、奇行師。あ、奇行師、ひさしぶり」
鯨怪人は突き刺さったハイヒールを引き抜いて、奇行師に返した。
「おれも一緒に連れて行っておくれよう」
奇行師と蝸牛男が、歓迎の舞を背中で踊るので、飛行師はなんども墜落の危機を感じたが黙っていた。
「鯨怪人は、ヒトですか、クジラですか」と蝸牛男が聞いた。
「同じ質問をそっくりそのまま返すよ。あ、蝸牛男、はじめまして」
鯨怪人と蝸牛男はとても気が合ったようだ。

飛行師は、だんだんと本物の飛行機に近づいているような気がしてきていた。
変人を三人も背中に乗せて飛行しているのだから、もうただの飛行師ではない。
海上すれすれではあるけれども。


2013年11月13日水曜日

奇行師と飛行師9

突然、飛行師の身体が持ち上がった。上空へ高く高く。喜ぶ奇行師と蝸牛男を尻目に飛行師は騒ぎ出した。
「オレは飛んでいない!」
蝸牛男が下を覗きこむと、鯨の格好をした人間か、もしくは人間の格好をした鯨が吹いた潮によって、一行は吹き上げられているのだった。
「やめろ!鯨怪人!」
「鯨怪人? 奇行師の知り合いなのか?」
「祖父の叔父の従兄の上司の息子だ」
奇行師は鯨怪人に、赤いハイヒールを投げつけた。


2013年11月5日火曜日

奇行師と飛行師8

地上低く飛ぶことがうまくなってきた飛行師は、海に出た。
波しぶきをかぶりなんども墜落しそうになるが、飛行師は広々とした海上の飛行を楽しんで「ひゃっふへイ!」と、奇声を上げ続けていた。
奇行師と蝸牛男はいよいよ動転し、奇行師はハイヒールで耳栓をして念仏を唱え、蝸牛男は粘液を出しながら飛行師の背中の上で右往左往している。