ようやく辿り着いた九階、息を整え外を眺めると、巨大な廃墟が広がっていた。
コンクリートの残骸、剥き出しの鉄骨。錆だらけのショベルカーがあちこちに放置されている。
時が止まったような光景が眼下に広がり、足がすくむ。
「毛が逆立っちまう」珍しくウサギも怖がっている。
春の風も、廃墟には届かない。
新しい傘は、おそらく有能過ぎるのだ。
雨粒は美しい音を奏でる。
今までに聞いたことのないような音で、雨粒は傘に落ちる。ポタポタでも、ザアザアでもなく、リンリンと。
雨粒はするすると転がる。
目を凝らして見る限り、雨粒はすべて等しい大きさの球体となって、傘の縁まで転がり、そして地面に落ちた。
そして、新しい傘は非常にプライドが高いようだ。
店内に入る時に渡されたビニールの袋を、何度着せても脱いでしまう。
「十二歳? 歳男か」
ウサギが十二歳になったという。まだほんの子供ではないか、こんなにふてぶてしいのに。
「どうしてウサギの癖に、卯年に生まれなかったんだ?」と問い詰める。
ウサギは「知ったこっちゃない」と、すねてしまった。
「フローズンヨーグルトを分けてやろうと思ったのに」と呟いた声は、春一番にかき消された。