夜の城跡公園で、老人は散った桜の花びらを集める。集めた桜の花びらは、大鍋で茹でる。グツグツグツグツ茹でる。桜色の湯気は夜空高く上り、地球一周の旅に出た。いってらっしゃい、また来年。
#twnvday 4月14日ついのべの日 お題「桜」
「Dマイナス!」
とうとう隣の女の子もペパーミント症候群に罹ってしまったみたい。
「Dマイナス!」
あんなに勉強が得意だったのに、「Dマイナス」ばっかりだ。
落ち込んでるくせに、大声上げて答案用紙を掲げる彼女を、ぼくはオロオロと宥めすかす。ぼくの「フランクリン症候群」を誰よりも心配してくれていたのに。
いや、きっとぼくのフランクリン症候群が彼女に感染して、ペパーミント症候群が発症したんだ。
そう考えたら、なんだか愉快だ。
空を自在に泳ぐ人魚は、それなのに翼が欲しかった。
「そんなに綺麗な鱗もあるのに」
人魚の身体は、お日さまを浴びるとキラキラと輝く。
「そんなに上手にお歌も歌えるのに」
人魚の歌声は、鈴のように澄んでいる。
「でも、空は泳ぐものじゃなくて、飛ぶものでしょ?」
そう言うときの人魚の目はいつも涙が溢れそうになる。
「それじゃあ、海で泳げばいいよ」
そんな声が聞こえたから、南の島のあるところまで、空を泳いできた。
ここは空が青くて、海も青くて、あおがあおすぎて。
でも、海に飛び込む勇気はない。海面近くまで降りたり、やっぱり空へ戻ってみたり。
ずっとそんなことをしているから、人魚は今、空を泳いでいるのか海を泳いでいるのかわからない。
「お願いします。もう少しだけ、長くして下さい」と、猿が己の尾を撫でながら、創造主に懇願する。
「弱ったなあ、あと少しだけ」。むむむむと何事か唱えた。
すると、森で一番高い木のてっぺんに尾を掛けてぶら下がると地面を舐められる、それくらい猿の尾は長くなった。
「もう少しだけ、もう少しだけ」
猿は赤い顔をもっと赤くして更に懇願した。
「ええ、まだ延長するのかい?……これ以上は、うどんになるけど、構わないかね?」
創造主は念を押す。
「はい、何でもいいですから」
ぬぬぬぬぬと何事か唱えると、猿の尾の先端は讃岐の国に到達して、おじさんがこれから食べるうどんのどんぶりにぽちゃんと入った。
これからおじさんはうどんを辿る旅に出る。
虹は、誰かに翼を貰うことを思いついた。かねてから翼が欲しいと思っていたのだ。
鴉に貰おうか? いや、あの真っ黒い翼はスペクタクルな自分には似合わない。
白鳥に貰おうか? ちょっと大きすぎる。
ならば鷲に貰う? あんなに鋭く飛びたいわけではない。
そうだ、天使に貰おうではないか。
ちょうど通りかかった天使に「翼を下さい」と頼んだら、すぐに了解の返事が来た。
「そのかわり。私を地上まで降ろしてください。翼を取ったら、ここでは生きられませんから」
虹は、早速身につけた翼ですぐにでも飛びたい気持ちをぐっと堪えて、天気雨の中、ゆっくりと地上まで伸びていく。
赤子の姿になった天使は、「じゃあね」とウインクして、するすると虹を滑り降りていった。