2014年9月24日水曜日

九月二十四日 花籠の茗荷

茗荷が花籠いっぱいに入っている。


花籠を持っているのは朗らかそうな女の子。茗荷をまだ食べたことがなさそうな小さな女の子だ。


彼女は道行く人に茗荷を 配っている。大人たちはたじろぎ、だが茗荷を受け取る。


朝から夕方まで茗荷を配ったが、花籠の茗荷は一向に減らない。
彼女は、深く溜め息をついて、花籠をひっくり返す。


茗荷がひとつも落ちないのを確かめると、再び深い溜め息を付き、それからスキップで帰っていった。



2014年9月17日水曜日

九月十七日 靴屋

靴屋で靴を選んだ。あれこれ試しに履いてみて、ようやく一足決めると、ほかの靴たちが迫ってくる。


「おれもかえ」「おれもはけ」「おれもかえ」「おれもはけ」


「靴は一足しか買わないよ!」と叫ぶと、今度は靴下が迫ってきた。


この靴屋は、靴屋だが靴下もたくさん売っているのだ。


迫り来る靴下を振り払いながら、勘定をし、店を出た。



2014年9月11日木曜日

九月十一日 雨音

土砂降りの雨を待っていた。


あらゆる音を、雨音と比べてみたいのだ。


土砂降りの雨音と対決させる音……


 


「この野郎」と叫び、


黒板を爪で引っ掻き、


夜泣きの赤ん坊を十八人集め、


暴走族を二十三人集め、


クラッカーを十本まとめて鳴らす。


 


色々なことを思いついてはみたものの、


ただ、傘に落ちる雨音の一音一音を拾うのが精一杯。



2014年9月6日土曜日

九月六日 蛙帰る

ずいぶん、蛙をよく見る一日だ。
駅のホーム、ラーメン屋の行列、喫茶店に飾ってある絵画……みんな蛙だった。
神社の狛犬、レンタルショップの映画、スーパーの時報……ぜんぶ蛙だった。
妖術使いがいるに違いない、と気をつけていたけれど、結局妖術使いには出遭わないまま家に帰った。
風呂にはいると、足の爪が、ガマガエル色のペディキュアで染まっていた。(170字)


太田記念美術館の江戸妖怪大図鑑、全三部コンプリート。


2014年9月1日月曜日

とかげ

 とかげに話を聞く。
「涼しいところ知らない?」
 とかげはしれっと答える。
「石の下」
 そこはとても涼しそうだけど、わたしは入れない。
 とかげはニヤリとして石の下に潜って行った。

架空非行 第2号

2014年8月30日土曜日

朝霧 (お題:霧)

目覚めると、寝室は濃い霧で満ちていた。
確かに目覚めたはずなのに、まだ夢の中にいるのかと、激しく混乱する。
視界が悪くて、手元に手繰り寄せた目覚まし時計の針もよく見えない。本当に朝なのか。
体のあちこちを触り、乱れた布団を探る。湿気を吸って重たい。
窓のほうへ這って行き、よろよろと立ち上がり、カーテンを開ける。
カーテンも重く、心なしか開きが悪い。
窓の外は、快晴だった。
眩しい。
思い切って窓を開けると、霧が一斉に音を立てて外気に吸い取られていった。

 

 


2014年8月23日土曜日

八月二十三日 海藻サラダ

風呂場のスノコにたくさんの海藻が生えている。


ワカメ、コンブ、其他たくさん。


不気味に思ったが、父が「これは美味い」と言っている。もう食べたのか。


そういうわけで、親戚一同集まっての、海藻サラダパーティーと相成った。


マヨネーズ醤油で食べると美味しい。