「あれ?どうした?」
なんとなく気になって僕は友達にそう声を掛けた。
「いや、オレはいつも通りだよ」
そう言って笑う彼の顔は確かにいつも通りだ。
「そうか、よかった。こっちへ向かってくる時、なんとなく元気がないように見えたんだ。なんでだろう」
「おまえ、よく気づいたな。元気がないのは、オレじゃなくて影だよ。昨日の雨で風邪をひいたようだ」
彼の足元に向かって「おだいじに」と言ったら、影の影はピースサインをして見せた。
2004年6月5日土曜日
2004年6月4日金曜日
サンタさんのお仕事 後編
三太は、オムツの保管場所を確認したあと、台所に向かい、ミルクの支度をして寝室に戻った。
「ふぇ……」
「来たでござんすよ」
目が覚める寸前を捉え、赤ん坊を抱き上げ、寝室の外に出る。
「よしよしでござんす」
赤ん坊はそれほど大声で泣くこともなく三太の作ったミルクを飲んでいる。
「いい子でござんすなぁ」
そう、三太は夜泣きを盗みに来たのである。
どういうわけか、これだけは中井はまったく駄目で、赤ん坊がいよいよ大声で泣くものだから、危うく家人に見つかりそうになったのに懲りて、ついに夜泣き盗みは三太一人の仕事となった。
この晩、こうしたミルクやりやオムツ替えを何度か繰り返した三太は、明け方メッセージを残して佐藤邸を後にした。
「息子の夜泣きはすべて頂戴した。子守、託児のご用命は、大泥棒サンタまで」
「ふぇ……」
「来たでござんすよ」
目が覚める寸前を捉え、赤ん坊を抱き上げ、寝室の外に出る。
「よしよしでござんす」
赤ん坊はそれほど大声で泣くこともなく三太の作ったミルクを飲んでいる。
「いい子でござんすなぁ」
そう、三太は夜泣きを盗みに来たのである。
どういうわけか、これだけは中井はまったく駄目で、赤ん坊がいよいよ大声で泣くものだから、危うく家人に見つかりそうになったのに懲りて、ついに夜泣き盗みは三太一人の仕事となった。
この晩、こうしたミルクやりやオムツ替えを何度か繰り返した三太は、明け方メッセージを残して佐藤邸を後にした。
「息子の夜泣きはすべて頂戴した。子守、託児のご用命は、大泥棒サンタまで」
2004年6月3日木曜日
サンタさんのお仕事 前編
「三丁目の佐藤氏に長男が生まれた」
「本当でござんすか、親分」
「嘘をつく必要があるだろうか。佐藤は中井自動車の社員である」
「では、今晩盗みに参るでござんす」
この盗みは三太の仕事で、中井は参加しないことになっている。
真夜中、三太は佐藤宅の寝室に忍び込み、夫婦と赤ん坊の様子をよく観察した。
すやすやと眠る赤ん坊を見て三太はにっこりとした。
「まだ大丈夫でござんすね」
「本当でござんすか、親分」
「嘘をつく必要があるだろうか。佐藤は中井自動車の社員である」
「では、今晩盗みに参るでござんす」
この盗みは三太の仕事で、中井は参加しないことになっている。
真夜中、三太は佐藤宅の寝室に忍び込み、夫婦と赤ん坊の様子をよく観察した。
すやすやと眠る赤ん坊を見て三太はにっこりとした。
「まだ大丈夫でござんすね」
2004年6月2日水曜日
ニコニコロード掃討作戦
「スキヤキを食したい」
「スキヤキですか、親分。そんなら、スキヤキ鍋と牛肉が入り用でござんすな」
「卵も野菜もである」
「そんなにたくさんの店に盗みに入るのは難儀でござんす」
「ニコニコロードで一度に盗めばよい」
三太と中井は唐草スカーフを鼻の下で結び、明け方前のニコニコロード商店街に向かった。もちろん人通りはなく店のシャッターはすべて閉まっている。
「三太は電灯の埃を盗みたまえ。拙者はシャッターの埃を盗む」
「承知いたしやした」
木登りが得意な三太がスルスルと電灯に登り電灯に積もった真っ黒な埃を盗んでいく。
一方の中井は、シャッターの埃を一軒づつ盗み終えると道路を丁寧に掃いた。
「できたてほやほやのピカピカ商店街になりやしたね、親分」
「よし、メッセージを残さなければ」
さらさらさらのさらり
「ニコニコロードの埃はすべて戴いた。ついては本日夜7時半、スキヤキパーティーを催す。大勢の参加を期待している。大泥棒 サンタとナカイ」
そうしてその夜ニコニコロードの店主たちが持ち寄った材料でスキヤキパーティーが和やかに開かれた。
「スキヤキですか、親分。そんなら、スキヤキ鍋と牛肉が入り用でござんすな」
「卵も野菜もである」
「そんなにたくさんの店に盗みに入るのは難儀でござんす」
「ニコニコロードで一度に盗めばよい」
三太と中井は唐草スカーフを鼻の下で結び、明け方前のニコニコロード商店街に向かった。もちろん人通りはなく店のシャッターはすべて閉まっている。
「三太は電灯の埃を盗みたまえ。拙者はシャッターの埃を盗む」
「承知いたしやした」
木登りが得意な三太がスルスルと電灯に登り電灯に積もった真っ黒な埃を盗んでいく。
一方の中井は、シャッターの埃を一軒づつ盗み終えると道路を丁寧に掃いた。
「できたてほやほやのピカピカ商店街になりやしたね、親分」
「よし、メッセージを残さなければ」
さらさらさらのさらり
「ニコニコロードの埃はすべて戴いた。ついては本日夜7時半、スキヤキパーティーを催す。大勢の参加を期待している。大泥棒 サンタとナカイ」
そうしてその夜ニコニコロードの店主たちが持ち寄った材料でスキヤキパーティーが和やかに開かれた。
2004年6月1日火曜日
ボロボロ
茶けた紙が風に舞いながらこちらに近付いてくる。
空中で掴み取り、思わずニヤリとした。手を伸ばした瞬間、福沢諭吉が見えたのだ。
拳を開くと、それは真ん中から破れかけ、角はなくなり、手垢に塗れ、毛羽立ちもひどかった。
壱万円札としての威厳は完全に失われている。
家に帰り、庭に小さな穴を掘った。満開の椿の根元に。
そこへ前日に生を終えたハムスターを壱万円札だった紙で包んで埋めた。
埋め跡を隠すかのように落ち、色褪せていく椿と涙
********************
500文字の心臓 第38回タイトル競作投稿作
○2△1
空中で掴み取り、思わずニヤリとした。手を伸ばした瞬間、福沢諭吉が見えたのだ。
拳を開くと、それは真ん中から破れかけ、角はなくなり、手垢に塗れ、毛羽立ちもひどかった。
壱万円札としての威厳は完全に失われている。
家に帰り、庭に小さな穴を掘った。満開の椿の根元に。
そこへ前日に生を終えたハムスターを壱万円札だった紙で包んで埋めた。
埋め跡を隠すかのように落ち、色褪せていく椿と涙
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500文字の心臓 第38回タイトル競作投稿作
○2△1
中井の独白
拙者は「中井自動車」の会長である。
創業は祖父。拙者は会社を継ぐために幼少から勉学に励んだ。
放蕩癖があった父はそんな拙者を見て笑っていた。もう少し遊ぶことも大事であると。
そんなことにも耳を貸さず、学校を出た拙者はまじめに働いた。社長になることは皆承知済みであるから、妬みもあった。
会長になったのは33才の時である。社長を通り越して会長になった。父が急死したためである。
三太が拙者の家に忍びこんだのは、拙者が会長になって三年三ヶ月と三日たった午前三時のことであった。
拙者が声を掛けたら驚愕し、付近にあった花瓶を割った。
その時の三太は大変な痩躯だった。
故に夜食を与えた。
三太は夜食を食べながら泥棒稼業がうまくない、と漏らしていた。
拙者は退屈な会長生活の刺激になると考え、三太の仕事を補佐することを決定した。
「拙者に手伝うことがあるか」と言ったら三太は泣いて喜んでいた。
これが拙者が大泥棒になった経緯である。
創業は祖父。拙者は会社を継ぐために幼少から勉学に励んだ。
放蕩癖があった父はそんな拙者を見て笑っていた。もう少し遊ぶことも大事であると。
そんなことにも耳を貸さず、学校を出た拙者はまじめに働いた。社長になることは皆承知済みであるから、妬みもあった。
会長になったのは33才の時である。社長を通り越して会長になった。父が急死したためである。
三太が拙者の家に忍びこんだのは、拙者が会長になって三年三ヶ月と三日たった午前三時のことであった。
拙者が声を掛けたら驚愕し、付近にあった花瓶を割った。
その時の三太は大変な痩躯だった。
故に夜食を与えた。
三太は夜食を食べながら泥棒稼業がうまくない、と漏らしていた。
拙者は退屈な会長生活の刺激になると考え、三太の仕事を補佐することを決定した。
「拙者に手伝うことがあるか」と言ったら三太は泣いて喜んでいた。
これが拙者が大泥棒になった経緯である。
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