島には本屋も図書館もないけれど移動図書館なら来る。図書館船だ。船長兼、館長の趣味丸出しの図書館船は少し妖しくて、大人は乗りたがらない。陽射しと潮風に当たりっぱなしだから本はゴワゴワしていて色褪せている。そこでたくさんの言葉を覚えた。デカダンスは大きい箪笥のことじゃない、とかね。(139字)
2024年5月15日水曜日
2024年5月8日水曜日
言葉の舟 140字小説コンテスト 習作2
雨のビート。同心円に広がる水の高まり。雨粒が水溜りに作る波を見つめる。その波紋の中心から宇宙船が出でくると長い間、信じていた。どこかで聞いたおとぎ話だと思っていた。今、真剣な眼差しで小さな宇宙船を水溜りに浮かべる恋人に傘を差し掛ける。静かに沈む宇宙船。おとぎ話なんかじゃなかった。(140字)
2024年5月6日月曜日
言葉の舟 140字小説コンテスト 習作1
旅人が筏でやってきた。よく出来た筏だと褒めると「差し上げます」という。「新しい舟を作ります」と、どこからか大きな笹の葉を採ってきて器用に笹舟を作り、ささやかに出航していった。その人は昔、豪華客船の船長だったそうだ。舟を簡素にしながら旅を続けているという。さて、私は筏で向こう岸へ。(140字)
2024年4月20日土曜日
#春の星々140字小説コンテスト投稿作 「細」投稿作
鉄骨が一本、また一本と外されていく。あっちでは観覧車が、こっちでは跨線橋が解体されている。横たえられた鉄骨たちは草臥れ果てて眠っているように見えた。こんなに細かったんだねぇ、ぼくたちを支えていたものは。鉄骨たちが寝ているこの場所も、以前は電波塔が立っていた。空がどんどん広くなる。(140字)
2024年4月15日月曜日
#春の星々140字小説コンテスト投稿作 「細」投稿作
和紙の層に刃を入れます。「小口」と名を得たその断面は鋭く整い、しかし、ふんわり空気を含んでいます。しばし見惚れた後は切り離された紙片の中でとりわけ細い――糸のように細いものを――つまみ上げ「ふ」と息を吹き掛けます。すると、ごく偶に青葉が舞います。ごくごく稀に小さな蝶が飛んでいきます。(140字)
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予選通過 佳作受賞
2024年4月14日日曜日
#春の星々140字小説コンテスト投稿作 「細」投稿作
細く尖った月に刺さるもの。古代ロケット、異星人のミイラ、宇宙服の襤褸……それを回収するのが私の仕事。地上に持ち帰ったら湖でよく洗って、博物館に展示する。「お月さま、あんまり変なモノ釣らないでくださいよぅ」と、私はお決まりの文句を言う。明晩、上弦の月から暫しの休暇。さて何処に行く?(140字)