月の人に任命され、様々に月の用事を頼まれてきたけれども、しばらくは実感がわかなかった。
月は何事もなく満ち欠けをし、それに合わせて生活している。以前と変わりない。
しかし、星を拾い、旧月の人と懇意になり、そして月の人を受け継いだのは、すべて月が望んだ結果なのだと、近頃ようやくわかってきた。月は、思った以上に饒舌だ。
兎も角、今日もポケットには大きな金平糖にしか見えない星が入っている。
齧れば、いつでも月に帰れる。
けれども齧り過ぎて、うっかり火星まで飛んでいったこともあるから、慎重に。
月光に上手く乗れば、大丈夫。
++++++++
やっとやっと「五千五秒物語」おしまいです。
拍手もたくさん(全編にいただきました)、本当にありがとうございました。
いやー、長くかかりました。
それは私の更新速度が遅かったからに他ならないけれども。
『一千一秒物語』を借りる際は、月の擬人化の塩梅が難しく面白いのです。
今回は、天体としての月と、月の人、それぞれを描いたので、少しこれまでと違う雰囲気になっていればよいのだけれども、果たして。
天体の月と月の人の構図は『つきのぼうや』イブ・スパング・オルセン の影響が強くあることを告白しておきます。
次のテーマは動物です。
各タイトルは、古い子供向けの本から拝借します。
2011年5月2日月曜日
2011年4月25日月曜日
どうして彼は喫煙家になったか?
「タバコは、吸わないのか? 月の人」
そう声を掛けられて、ひどく動揺した。
ここは花屋で、ラベンダーを買おうとしているところだった。
「月の人」という言葉に、花を包んでいた店の人がハッとしたのがわかった。
彼女のエプロンの青が深まる。
声を掛けてきたのは、身体の大きな男だった。
「タバコは、吸いません」
「じゃあ、これをあげるよ、じゃあな」
立ち去り際に、細かな細工が施されたシガレットケースを渡された。
シガレットケースの中身を覗き込んでいると、花屋が「あら」と言って、ニッコリと笑った。
「これ、タバコのようで、タバコではありませんよ、新しい月の人さん。」
旧月の人に見せると、是非吸うといいと言う。
斯くして喫煙するようになったわけだが、これはやはりタバコのふりをしてタバコではないようだ。
花屋で買ったラベンダーと同じ香りがする。
そう声を掛けられて、ひどく動揺した。
ここは花屋で、ラベンダーを買おうとしているところだった。
「月の人」という言葉に、花を包んでいた店の人がハッとしたのがわかった。
彼女のエプロンの青が深まる。
声を掛けてきたのは、身体の大きな男だった。
「タバコは、吸いません」
「じゃあ、これをあげるよ、じゃあな」
立ち去り際に、細かな細工が施されたシガレットケースを渡された。
シガレットケースの中身を覗き込んでいると、花屋が「あら」と言って、ニッコリと笑った。
「これ、タバコのようで、タバコではありませんよ、新しい月の人さん。」
旧月の人に見せると、是非吸うといいと言う。
斯くして喫煙するようになったわけだが、これはやはりタバコのふりをしてタバコではないようだ。
花屋で買ったラベンダーと同じ香りがする。
2011年4月18日月曜日
はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたか?
旧お月さまが、ビール片手に遊びに来た。
「途中で箒星にぶつかった。その後消えてしまったから、きっと箒星はビールの中だ」
「箒星入りのビール、旨いのかしら」
王冠を飛ばすと、あまりにも泡が出て、二人とも溺れてしまった。
ようやく泡が収まった時にはビールは空で、二人とも大変に酔っ払っていたので、箒星を見たかどうか、覚えていないのだった。
「途中で箒星にぶつかった。その後消えてしまったから、きっと箒星はビールの中だ」
「箒星入りのビール、旨いのかしら」
王冠を飛ばすと、あまりにも泡が出て、二人とも溺れてしまった。
ようやく泡が収まった時にはビールは空で、二人とも大変に酔っ払っていたので、箒星を見たかどうか、覚えていないのだった。
2011年4月17日日曜日
星と無頼漢
星を苛める輩がいると聞いて、様子を見に行くことになった。
その無頼漢は、公園で星たちを両手に抱え、空中に放り投げ、拾い、また放り投げ……を繰り返していた。
「楽しそうですね。一緒にやってもいいですか」
そう話しかけたら、無頼漢は目を細めて喜んだ。
「こいつらを夜空に返してやりたいんだが、うまくいかねえんだ。オマエ、やり方しっているか?」
落っこちてきた星は、時期が来るまで空には帰らないし、帰る気もない。机に並んだ星たちは、いつだかそんなことを説明してくれた。
それでも無頼漢があんまり真面目なので、一緒になって星たちを放り投げた。
星たちが「高い高い」をしてもらっている子供のように、喜んでいるから。
その無頼漢は、公園で星たちを両手に抱え、空中に放り投げ、拾い、また放り投げ……を繰り返していた。
「楽しそうですね。一緒にやってもいいですか」
そう話しかけたら、無頼漢は目を細めて喜んだ。
「こいつらを夜空に返してやりたいんだが、うまくいかねえんだ。オマエ、やり方しっているか?」
落っこちてきた星は、時期が来るまで空には帰らないし、帰る気もない。机に並んだ星たちは、いつだかそんなことを説明してくれた。
それでも無頼漢があんまり真面目なので、一緒になって星たちを放り投げた。
星たちが「高い高い」をしてもらっている子供のように、喜んでいるから。
2011年4月8日金曜日
お月様が三角になった話
三つ目の仕事は、月にそっくりのクッキーを焼いて(そう、月はクッキーが好きなのだ)、関係各位に配るというものだった。
もちろん、クッキーにはすべてクレーターを再現しなければならない。
しかし、そもそも球体にクッキー生地を丸めることが困難だった。
やっと丸めたクッキーを焼いてみると、どういうわけか三角になってしまい、「おにぎりみたいだ」と呟いたら、月は目を三角にして怒るのだった。
月の目がどこにあるかは、言えないことだ。
もちろん、クッキーにはすべてクレーターを再現しなければならない。
しかし、そもそも球体にクッキー生地を丸めることが困難だった。
やっと丸めたクッキーを焼いてみると、どういうわけか三角になってしまい、「おにぎりみたいだ」と呟いたら、月は目を三角にして怒るのだった。
月の目がどこにあるかは、言えないことだ。
2011年4月4日月曜日
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