2010年12月15日水曜日

無題

「おれは蚤のピケ。ジャンプすごいぜ」そう言って蚤のピケは飛んで行った。見上げると、空が蝨出している。もうこんな時間だ。

無題

羊を数えてたら、羊の毛に棲む蚤のピケがやってきた。どうしよう。

2010年12月13日月曜日

電燈の下をへんなものが通った話

電燈の下をへんなものが通るが、誰に聞いてもそんなものはない、というので眼医者に行った。
医者は首を傾げるばかりで、「これをあげましょう。診療代はいりません」と
いって、金平糖型のものをくれた。
それは机に並んだ星たちよりは、少し小さいので星なのかどうかはよくわからない。

だが、電燈の下を通るへんなものは増えていき、いよいよ鬱陶しいと思っていると
金平糖型のものは、もっと小さく、いびつになっていたのだった。
しばらくして、欠片しかないくらいに減ってしまう頃になって、ようやく電燈の下をへんなものを、星が捕まえて食べるようになった。
星たちの食欲は旺盛で、数分もしないうちに、へんなものはなくなった。
好い医者に出会ったものだ。

2010年12月9日木曜日

かたつむりの旋律

僕の耳は聞こえすぎる。防音ヘッドホンを片時も外すことができないくらいに。
だから、囁き声の美しい子としか、友達になれない。

小さなメロディが聞こえたような気がしたのだ。
もっとよく聴きたくて、思い切って防音ヘッドホンを外した。轟音を掻き分け、細い絹糸のような、あのメロディを探す。
そのメロディは、紫陽花から聞こえていた。

「つまり、紫陽花の葉は、オルゴールのシリンダーみたいなもんさね」
と、かたつむりは言う。
「じゃあ、キミの殻をリズミカルに叩くドラマーは誰?」
「はて……? そんな音か聴こえるのかい?」
昨日の雨の残り香の仕業かもしれない。
「また聴かせてね」
ヘッドホンをしていないせいで、頭が痛くなり始めていた。帰らなくちゃ。
「おぅ、いつでもおいで」
帰り道、ちょっとだけヘッドホンが邪魔に感じた。

脳内亭さんの心臓タイトル案の案をお借りしました。

拍手コメント、ありがとうございます、雲梯さん(……)
ほんとだ、ひらがな……多そうで、多くないような?(笑)
心地よい漢字ひらがなバランスは、人によって違うのでしょうねぇ。難しいな。

2010年12月7日火曜日

踊るベーカリー

その小さなパン屋では、何もかもが踊っている。
店主もパンも、レジスターもトングも。店の奥を覗けば、オーブンもボウルも、粉も卵も踊っている。
愉快なことが好きな私は、パンを買う時には必ずその店に行く。味も悪くない。
ちょっとおかしなことといえば、何もかもが楽しげに踊っているというのに、店内が全くの無音だということくらいだ。店主のステップにも、レジスターのボタンにも、割れる卵にも、音がない。
店を出ると、音を確かめたくて、いつもスキップをしてしまう。

2010年12月3日金曜日

ココアのいたずら

ミルクパンで丁寧にココアを温めていたら、星がひとつ飛び込んでしまった。
慌てて取り出して、何事もなかったふりをして、友達に出したら、いたくお気に召したらしい。
うちに来る度に「ココアを作ってくれ」と頼まれるので、こっそり机の上の星をひとつ、鍋で泳がせる。
実際、ココアはやけにおいしくなるのだが、どういうわけだか星に訊いても、ココアに訊いても、教えてはくれない。

2010年12月1日水曜日

THE MOONMAN

そういえば、お月さまは、いつからお月さまなんだろう。
「さて、もうずいぶん昔のことだからなぁ。そろそろ引退してもいいかもしれない」
引退したら、月はどうなるんだ。
「もちろん、後継者を選ぶ。例えば、君とか」
その日、家に帰ってから長いこと、机に並んだ星たちを見つめていた。
星たちは、やけに静かだった。