真っ赤なチェロケースが女の子を抱いて歩いている。いや、チェロケースを背負った女の子が歩いている。
どうしても、女の子がチェロに抱きかかえられているようにしか見えない。この子がチェロを弾くんだろうか。それを想像したら、可笑しいような、いじましいような気持ちになって、顔が綻んだ。
それを目ざとく見つけられてしまったらしい。
「おじさん、わたしみたいなチビがチェロを弾くなんてって、バカにしたでしょ?」
見知らぬおじさんに頬っぺたを膨らませながら突っ掛かる女の子を見て、もっと笑ってしまう。
「今夜、コンサートなの。聴きに来て。ちゃんとバイオリン持って来てね」
これは参った。おじさんがバイオリン弾きだと、どうしてわかった?
「内緒。とにかく来てね」女の子がずいと差し出したチケットを受け取る。
夕刻、コンサート前に女の子の楽屋を訪ねた。そこに女の子は居らず、蓋の開いたチェロケースだけがあった。
無用心だな、楽器の側を離れる時は、気をつけないと。
近付き楽器を覗き込むと、懐かしい音色で話しかけられた。
かつて、憧れていたひとが演奏していたチェロだったのだ。
「彼女は元気かな?」
チェロの答えは「ノー」だった。女の子は、彼女の忘れ形見だと、チェロは奏でた。
赤いワンピースでおめかしをして戻ってきた女の子に彼女の面影を見出だしながら、レクイエムをやろう、と持ち掛けると、女の子は「もうバレちゃったね」と、笑った。
2010年7月17日土曜日
2010年7月15日木曜日
2010年7月12日月曜日
2010年7月7日水曜日
2010年7月4日日曜日
踏切にて
遮断機が降りる。もう終電は過ぎたはずなのに。
線路を渡らないと帰ることができない。
遮断機を潜って渡ろうか。
そう思った途端に、電車が近づいてきた。目の前を走り抜けたのは、随分昔に廃止となった旧型の電車だった。子供の頃によく乗っていたから、三十年ほど前の車両だ。
遮断機が上がる。あの電車はどこに行くのだろうか。
昔の記憶が蘇る。若かった父や母、毎日遊んだ友達。ランドセルの傷。
あの電車に乗るにはどうしたらいいのだろう。
豆本フェスタが終わったら、豆本作りは一休み……と思っていたのだけれど、そうならない空模様。
線路を渡らないと帰ることができない。
遮断機を潜って渡ろうか。
そう思った途端に、電車が近づいてきた。目の前を走り抜けたのは、随分昔に廃止となった旧型の電車だった。子供の頃によく乗っていたから、三十年ほど前の車両だ。
遮断機が上がる。あの電車はどこに行くのだろうか。
昔の記憶が蘇る。若かった父や母、毎日遊んだ友達。ランドセルの傷。
あの電車に乗るにはどうしたらいいのだろう。
豆本フェスタが終わったら、豆本作りは一休み……と思っていたのだけれど、そうならない空模様。
2010年7月2日金曜日
守護神、悄然とす
ファイレ島に棲みたる老いた人のやることなすこと、腹黒い。
風のない日は、棕櫚の木にしゅらしゅしゅ昇り、しょんぼり古址を眺めている。
There was an Old Person of Phila,
Whose conduct was scroobious and wily;
He rushed up a Palm,
When the weather was calm,
And observed all the ruins of Phila.
エドワード・リア 『ナンセンスの絵本』より
登録:
投稿 (Atom)