2008年2月12日火曜日

真似ばかりしないでくれる?

わたしが足を組むと、あなたも足を組む。
わたしがレモンスカッシュを飲むと、あなたはコーラを飲む。
ねぇ、もう止めてよ、わたしの真似をするのは。わたしだってあなたの真似がしたいのに。
そう思いながら、頬杖をついてあなたを見つめる。あなたはまた、わたしの真似をするから仕方なく目をつぶった。
だから、ちゃんとキスしてね?

山の中に男がひとり

遭難しているわけではない。早朝の頂上で寝転んで、女の裸を想像しているだけだ。
相当な飛距離に挑戦するために。

2008年2月11日月曜日

母はドライヤー【即興】

ドライヤーの熱のせいだろう、うまれた子供は、産婆が触るのもためらうほどに熱かった。
子供の曽祖父にあたる老人のひげが、めきめきと伸び、赤ん坊を抱き上げた。
ひげに包まれた赤ん坊の身体から、蒸気が噴出す。

てんとう虫の呪文@Skype中

2008年2月8日金曜日

車が一台足りません

「車が一台足りません」
と申し訳なさそうに、老紳士が言った。今夜の運転手を頼んだ男だ。
「世界中の車がすべて使われていて、一台も余っていないのです。調達できなかったのは、私の責任です」
いや、キミのせいではない、と私は言った。
老紳士と私は同時に天を見上げる。そこには、この世界の神である五歳の男の巨大な目玉があった。
神の声が響く。
「ママ、ミニカー買って!」

2008年2月6日水曜日

面白いわけがない

「短編映画を作ったから見にこい」
と、ウサギが言う。ウサギが作った映画だぞ、面白いわけがない。そう思いつつ行かないと、後が怖い。
ウサギはわざわざ公民館を借りていた。客は私一人だ。
明かりが落とされ、スクリーンに目をやる。
3、2、1
「原作ウサギ脚本ウサギ監督ウサギ……終」
エンドロールのみの「映画」にウサギは満足そうだった。
「監督ウサギ、が憧れだった」としみじみと言った。おかげで眠たい思いをせずに済んだけれど。

2008年2月5日火曜日

のめりこみ症候群

「恐怖、のめりこみ症候群」
と、夕刊に記事が出ていることに気づいた。
のめりこみ症候群は、始めたことを寝食も忘れて熱中してしまうことで起きる、不可解な諸症状を指すのだという。
まず、涎が垂れる。そして爪が伸びる。ひどい人になると犬歯も伸び、牙のようになってしまうらしい。
さらに記事は、熱中するのを止めさせるコツを伝えているが、たいした効果はないと言う。
寝食を忘れたやつれ顔に長い爪と牙を持った患者は、俺とそっくりに違いない。のめりこみ症候群の重症患者が生き血を求めて彷徨い出すやもしれぬ。ご馳走にありつく機会が減ると厄介だ。しかし、ひょんなきっかけで仲間が増えるのは、なかなか愉快ではある。俺は舌なめずりをしながら新聞を畳んだ。さぁ、食事の時間だ。

2008年2月3日日曜日

イミテーションはどっち

「さて、二つの絵のうち、片方は画家の真筆、片方は私が書いた贋作だ」
と、男が言った。
楽器を持った男が三人、ユーモラスに描かれている絵が二枚。どこからどう見てもそっくりだ。
「あなたが魔術師なら、どちらが真筆か、わかるだろう?」
私はわざとらしくニヤリと左の口角を上げてみせる。男が不快そうに顔をしかめる。
「私じゃなくても、こうすれば皆がすぐにわかるだろ?」
指をパチン!と鳴らした。
片方の絵の中のミュージシャンたちが、陽気に演奏を始める。
もちろん、こちらがかの高名なピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサの作品である。