風船売りの少女。風船を乳母車に結わい付けて佇む。温かいココアが飲みたい。早く来て。
ひとりぼっちの少年。鏡の中の少年に語りかける。「あの娘はどこ?」
少年は捜す。道路に落書きする子供。時間が気になるナポレオン。タイヤの外れた救急車。髭の易者。プールの中。太った牧師。鳥籠で眠る猫。
誰に聞いても答えは同じ。「ぺのぺの」
相変わらずチェスの駒はトマトジュースを吐き出し、天使は金の話ばかり、オオカミは立ち小便をし、空にはレモンの気球。
それでも少女は待ち続ける。温かいココアを。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
佐々木マキ「セブンティーン」1968年 をモチーフに
2005年2月10日木曜日
呑気な家族
弟は石を拾ってくるのが好きで、毎日のように石を抱えて帰ってくる。
そして持ち帰った石のスバラシサを家族に語って聞かせるのだが、確かになんともいえぬ味わいがある石が多い。
私もたまに弟の真似をして道端に目をやりながら歩いてみるのだが、なかなか弟のようにはいかない。あれはあれで見る目があるのね、と私は感心する。
ただ困ったことに弟が持ち帰る石の三分の一は、何物かの卵で、いつのまにか魑魅魍魎の類いが家の中を跋扈しているのだ。
それらは魑魅魍魎としか言いようがない、つまりは妖怪のようなものなのだが
父も母も弟も気にする様子がなく
こんなお化け屋敷では友達が呼べないと悩んでいるのは、私くらいらしい。
そして持ち帰った石のスバラシサを家族に語って聞かせるのだが、確かになんともいえぬ味わいがある石が多い。
私もたまに弟の真似をして道端に目をやりながら歩いてみるのだが、なかなか弟のようにはいかない。あれはあれで見る目があるのね、と私は感心する。
ただ困ったことに弟が持ち帰る石の三分の一は、何物かの卵で、いつのまにか魑魅魍魎の類いが家の中を跋扈しているのだ。
それらは魑魅魍魎としか言いようがない、つまりは妖怪のようなものなのだが
父も母も弟も気にする様子がなく
こんなお化け屋敷では友達が呼べないと悩んでいるのは、私くらいらしい。
2005年2月8日火曜日
旅先で立ち寄った古書店のこと
知らない本屋、特に古本屋に入るのは、なかなか勇気がいるものだ。頑固な店主がハタキを持って待ち構えているかもしれない。しかし、掘り出し物への期待は、何よりも勝る。
私は初めて訪れた田舎町(どこの国のなんという町であるかは、私の胸に留めておきたい)で一軒の古書店を見つけたのだった。
私は埃と古い紙の匂いを思い店に入った。しかし、私の嗅覚は確かに「卵焼き」の匂いを感知したのだ。
それもそのはず、店には卵の本がずらりと並んでいたのだ。
「卵との日々」
「あぁ卵海峡」
「卵戦争はなぜ起きたか」
「卵伯爵の日記」
「世界の卵料理」
「1st写真集《16才、はじめての卵デス☆》」
「卵はかく語りき」
「1635年版卵白書」
「禁じられた卵」
「明解卵」
「どこかで卵が」
「歌劇【卵の湖】」
私は「卵詩集」と「卵の教え~卵教入門」 を手にとりレジへ向かった。
レジで眼鏡を掛けた卵に760×(国を特定できないよう通貨単位を記すことを避ける)を渡し店を出た。
帰路の汽車に乗り「卵詩集」を読もうと鞄を開けると、「卵詩集」も「卵の教え~卵教入門」も消えていた。そこには二つのゆで卵があるだけであった。
私は初めて訪れた田舎町(どこの国のなんという町であるかは、私の胸に留めておきたい)で一軒の古書店を見つけたのだった。
私は埃と古い紙の匂いを思い店に入った。しかし、私の嗅覚は確かに「卵焼き」の匂いを感知したのだ。
それもそのはず、店には卵の本がずらりと並んでいたのだ。
「卵との日々」
「あぁ卵海峡」
「卵戦争はなぜ起きたか」
「卵伯爵の日記」
「世界の卵料理」
「1st写真集《16才、はじめての卵デス☆》」
「卵はかく語りき」
「1635年版卵白書」
「禁じられた卵」
「明解卵」
「どこかで卵が」
「歌劇【卵の湖】」
私は「卵詩集」と「卵の教え~卵教入門」 を手にとりレジへ向かった。
レジで眼鏡を掛けた卵に760×(国を特定できないよう通貨単位を記すことを避ける)を渡し店を出た。
帰路の汽車に乗り「卵詩集」を読もうと鞄を開けると、「卵詩集」も「卵の教え~卵教入門」も消えていた。そこには二つのゆで卵があるだけであった。
2005年2月7日月曜日
だからぼくはタマゴが嫌い
ママは、タマゴを買ってくるとペンで顔を書く。
ママにはタマゴの名前がわかるらしい。
「あなたはタカシ。きみはエリオット、あなたは…?そう、マナミね」
だから冷蔵庫には近付けない。
料理をするときは「さ、カオリ、マユミ、マコト。あなたたちはおいしいオムレツになるのよ。協力してね」と語りかけながら割る。生ゴミ入れには、砕けた「カオリ」たちの顔が。だから流しには近付けない。
テーブルについたぼくにママが言う。
「今日のオムレツはカオリとマユミとマコトなの。たくさん召し上がれ」
ママにはタマゴの名前がわかるらしい。
「あなたはタカシ。きみはエリオット、あなたは…?そう、マナミね」
だから冷蔵庫には近付けない。
料理をするときは「さ、カオリ、マユミ、マコト。あなたたちはおいしいオムレツになるのよ。協力してね」と語りかけながら割る。生ゴミ入れには、砕けた「カオリ」たちの顔が。だから流しには近付けない。
テーブルについたぼくにママが言う。
「今日のオムレツはカオリとマユミとマコトなの。たくさん召し上がれ」
2005年2月6日日曜日
みなしごとたまご
おれはものごころついてからたまごしか食べたことがない。
毎日、差配さんのうらにわににわいるにわとりがたまごをうむ。
にわとりの名前は「あさこ」と「ゆうこ」。差配さんは、「コッコ」「ケッコ」とよぶ。
あさこは毎朝おなじ時間にたまごをうむ。差配さんもまだねている時間だから、かんたんだ。あさこのうんだたまごをちゃわんに割ってのむ。うみたてのなまたまご。これがあさめし。
ゆうこはそうはいかない。たまごをうむ時間はきまぐれだし、差配さんが家にいるからだ。差配さんはおっかないから、みつかるところされるかもしれない。でも、ぜったいにしくじらない。うらにわのつばきのかげで、ゆうこがたまごをうむのを待つ。たまごをうむとすばやくとって、にわからはなれる。
ちゃわんにたまごを割るとハンバーグがでてきた。
おれはたまごしか食べたことがない。
毎日、差配さんのうらにわににわいるにわとりがたまごをうむ。
にわとりの名前は「あさこ」と「ゆうこ」。差配さんは、「コッコ」「ケッコ」とよぶ。
あさこは毎朝おなじ時間にたまごをうむ。差配さんもまだねている時間だから、かんたんだ。あさこのうんだたまごをちゃわんに割ってのむ。うみたてのなまたまご。これがあさめし。
ゆうこはそうはいかない。たまごをうむ時間はきまぐれだし、差配さんが家にいるからだ。差配さんはおっかないから、みつかるところされるかもしれない。でも、ぜったいにしくじらない。うらにわのつばきのかげで、ゆうこがたまごをうむのを待つ。たまごをうむとすばやくとって、にわからはなれる。
ちゃわんにたまごを割るとハンバーグがでてきた。
おれはたまごしか食べたことがない。
2005年2月3日木曜日
豆まき…デラックス百科事典より
東の某島では、春の報せが訪れる直前、悪魔払いと家内安全を願う古代から続く風習がある。
オニと呼ばれる悪魔を懲らしめるため、オニの卵である豆を屋内外に撒き、また食することにより、
恙無い一年を約束するという。
オニの卵を撒いてはオニが殖えるのではないか、という我々の疑問に、島民は一切答えない。
オニと呼ばれる悪魔を懲らしめるため、オニの卵である豆を屋内外に撒き、また食することにより、
恙無い一年を約束するという。
オニの卵を撒いてはオニが殖えるのではないか、という我々の疑問に、島民は一切答えない。
2005年2月1日火曜日
素敵なお茶会
「いらっしゃい、ユウタくん」
ぼくがタキコさんのアトリエに呼ばれたのは、父さんからお使いを頼まれたからだ。
タキコさんは学校を出て三年の絵かきで、父さんの作る筆を使っている。言わばお得意さんだ。
今日父さんは外せない用事ができたので、ぼくが代わりに筆を届けに来た。
タキコさんのアトリエは絵の具や筆、得体の知れない細々としたものがそこら中に散らばっているし、絵の具の匂いが充満しているけど、それをイヤだとは思わなかった。それどころか、なんだかワクワクする。
「遠かったでしょ?お駄賃あげなきゃね」
タキコさんはイタズラっぽく笑った。父さんがお金を貰ってきたら駄目だと言ったのをわかっているのだ。
「お茶にしましょ。こっちにいらっしゃい」
テーブルには、サンドイッチとマグカップとバスケットに入ったいくつかのタマゴとポット。
タマゴ?
「何飲む?紅茶でもココアでもジュースでもいいのよ。」
「寒かったから…ココア」「はい、じゃあこれ」
タキコさんはタマゴをひとつ、ぼくのカップに入れた。
「え?」
「あら、ユウタくん、エッグココア初めてだっけ?じゃあ見てて。カンタンだから」
タキコさんはタマゴをひとつカップに入れた。
「わたしのはエッグティー、紅茶よ」
と言いながら、そのままお湯を注いだ。
「できあがり。んーいい香り。はい、ユウタくんの番」
ポットを渡され、恐る恐るカップにお湯を注ぐと、タマゴが溶けてココアになった。
「すごい!おいしい!」
「よかった。サンドイッチもたくさん食べてね」
タキコさんのアトリエを出るとき、ぼくは言った。
「ねぇ、タキコさん。また遊びに来てもいい?」
「もちろん」
今度来る時はタキコさんの好きなケーキを買っていこう。
ぼくがタキコさんのアトリエに呼ばれたのは、父さんからお使いを頼まれたからだ。
タキコさんは学校を出て三年の絵かきで、父さんの作る筆を使っている。言わばお得意さんだ。
今日父さんは外せない用事ができたので、ぼくが代わりに筆を届けに来た。
タキコさんのアトリエは絵の具や筆、得体の知れない細々としたものがそこら中に散らばっているし、絵の具の匂いが充満しているけど、それをイヤだとは思わなかった。それどころか、なんだかワクワクする。
「遠かったでしょ?お駄賃あげなきゃね」
タキコさんはイタズラっぽく笑った。父さんがお金を貰ってきたら駄目だと言ったのをわかっているのだ。
「お茶にしましょ。こっちにいらっしゃい」
テーブルには、サンドイッチとマグカップとバスケットに入ったいくつかのタマゴとポット。
タマゴ?
「何飲む?紅茶でもココアでもジュースでもいいのよ。」
「寒かったから…ココア」「はい、じゃあこれ」
タキコさんはタマゴをひとつ、ぼくのカップに入れた。
「え?」
「あら、ユウタくん、エッグココア初めてだっけ?じゃあ見てて。カンタンだから」
タキコさんはタマゴをひとつカップに入れた。
「わたしのはエッグティー、紅茶よ」
と言いながら、そのままお湯を注いだ。
「できあがり。んーいい香り。はい、ユウタくんの番」
ポットを渡され、恐る恐るカップにお湯を注ぐと、タマゴが溶けてココアになった。
「すごい!おいしい!」
「よかった。サンドイッチもたくさん食べてね」
タキコさんのアトリエを出るとき、ぼくは言った。
「ねぇ、タキコさん。また遊びに来てもいい?」
「もちろん」
今度来る時はタキコさんの好きなケーキを買っていこう。
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