ちょっとおかしいのかしら、といつもはのんきなお母さんが心配するほど
四歳になる娘のルミちゃんのお人形遊びは熱が入っていました。
ルミちゃんは、ルミちゃんのおばぁちゃんがプレゼントしてくれたお人形を「ハナち
ゃん」と呼び、毎日のように遊んでいます。
ルミちゃんは、ほかの子と違い「ハナちゃんのセリフ」を決して言いません。
ルミちゃんはハナちゃんに何やらお伺いをたてたり、意見を述べたりするだけです。
もっとおかしいことがあります。
ルミちゃんはまったく、ハナちゃんの顔を見ないのです。
ルミちゃんはうつむいたり、どこか遠くを見ているような顔つきで、ハナちゃんに話しかけています。
お母さんは、注意深くルミちゃんがハナちゃんと遊ぶ様子を見てみることにしました。
「ハナちゃん、ルミは今日幼稚園で、お花の絵を書いたよ」
ルミちゃんはハナちゃんを小さな椅子に座らせ、部屋の白い壁に向かって話しかけています。
お母さんは壁をよく見ました。何もありません。
「あら」
白い壁にはハナちゃんの影がくっきり映っています。
ハナちゃんの影は生き生きと動き、ルミちゃんとおしゃべりしているのがわかります。
お母さんは安心しました。ルミちゃんはどこもおかしくなんかありません。
2004年7月6日火曜日
2004年7月5日月曜日
電信柱と過ごした一日
ぷくぽわーんぽよーんふわん
電信柱の影の先っぽから丸い影が飛び出しているのに気づいたぼくは、飽きもせず道
に佇んでいた。
通行人はいぶかしげな顔していたかもしれない。
時々老人が話しかけてきたが、愛想の悪すぎるぼくにあきれて去っていった。
飛び出した丸い影は地面をさまよい、あるものは弾け、あるものは建物の陰に入って
見えなくなった。
電信柱は動かないが、電信柱の影は少しずつ移動するので、ぼくも一緒に移動しなけ
ればならなかった。
丸い影は大きかったり小さかったり、風に合わせてゆがんだり揺れたりした。
電信柱の影は、日没と同時にしゃぼん玉を止め、おなかがすいたのでぼくも家に帰る
ことにした。
電信柱の影の先っぽから丸い影が飛び出しているのに気づいたぼくは、飽きもせず道
に佇んでいた。
通行人はいぶかしげな顔していたかもしれない。
時々老人が話しかけてきたが、愛想の悪すぎるぼくにあきれて去っていった。
飛び出した丸い影は地面をさまよい、あるものは弾け、あるものは建物の陰に入って
見えなくなった。
電信柱は動かないが、電信柱の影は少しずつ移動するので、ぼくも一緒に移動しなけ
ればならなかった。
丸い影は大きかったり小さかったり、風に合わせてゆがんだり揺れたりした。
電信柱の影は、日没と同時にしゃぼん玉を止め、おなかがすいたのでぼくも家に帰る
ことにした。
2004年7月4日日曜日
からだなくとも
じぃちゃんとばぁちゃんは大恋愛をして一緒になった、と何百回となく聞かされていた。
死ぬ時もふたり仲良く、なんて言っていたけど、そんなのは心中でもしなくちゃ、叶うわけがない。
そしてばぁちゃんが先に逝った。
じぃちゃんは少し寂しそうだ。
明るくしているつもりのようだけど、ご飯の量も減ったし、口数も減った。
ぼくはちょっと迷っている。じぃちゃんに伝えるべきか、どうか。
どんな未練だかしらないけれど、じぃちゃんの影にはばぁちゃんの影が寄り添ったま
まなのだ。
ばぁちゃんがじぃちゃんに惚れていたのはよくわかった。
でも、それを知ったらじぃちゃんは自分の影にヤキモチを妬くかもしれない。
それとも三人?で仲良くやってくれるかな。うん、きっとそうだ。
「ねぇ、じぃちゃん。ちょっと見てよ……」
死ぬ時もふたり仲良く、なんて言っていたけど、そんなのは心中でもしなくちゃ、叶うわけがない。
そしてばぁちゃんが先に逝った。
じぃちゃんは少し寂しそうだ。
明るくしているつもりのようだけど、ご飯の量も減ったし、口数も減った。
ぼくはちょっと迷っている。じぃちゃんに伝えるべきか、どうか。
どんな未練だかしらないけれど、じぃちゃんの影にはばぁちゃんの影が寄り添ったま
まなのだ。
ばぁちゃんがじぃちゃんに惚れていたのはよくわかった。
でも、それを知ったらじぃちゃんは自分の影にヤキモチを妬くかもしれない。
それとも三人?で仲良くやってくれるかな。うん、きっとそうだ。
「ねぇ、じぃちゃん。ちょっと見てよ……」
2004年7月3日土曜日
2004年7月2日金曜日
2004年7月1日木曜日
金属バット
役目を終えたタケシくんの金属バットは玄関先に立て掛けられたまま。
ある夏ある朝、朝顔のツルが巻き付いた。
朝顔はバットにしっかり絡まり土の中へ引きずり込む引きずり込む引きずり込む。
バットは土にめり込むめり込むめり込むめり込む。
それを覗き見する近所の高校球児。自分のバットを握り締め、硬くなる硬くなる硬くなる。
********************
500文字の心臓 第39回タイトル競作投稿作
△2
ある夏ある朝、朝顔のツルが巻き付いた。
朝顔はバットにしっかり絡まり土の中へ引きずり込む引きずり込む引きずり込む。
バットは土にめり込むめり込むめり込むめり込む。
それを覗き見する近所の高校球児。自分のバットを握り締め、硬くなる硬くなる硬くなる。
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500文字の心臓 第39回タイトル競作投稿作
△2
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