2003年11月4日火曜日

掃部くんがなくしたもののこと

主水くんが部屋に戻ると「えーん」と掃部くんが泣いていた。
「ラモンとシモンが見あたらないのだよ」
ションヴォリ氏が言った。
「あんちゃんがせんたくしちゃったんだー」
「ポケットにはいなかった。羅文と四文はきっとそこらへんで寝ているよ。さぁ、もう6時3分27秒だ。あと1分33秒したら帰るからね。」
帰り際、掃部くんはションヴォリ氏に念を押す。
「れおなるど、らもんとしもんをみつけてね。ぜったいだよー」

2003年11月3日月曜日

おしゃれなションヴォリ氏のこと

夕焼けが薄くなり始め、薄紫色が長い夜の訪れをほのめかせている。
主水くんは外に出て洗濯を始めた。
このあたりでは、洗濯物は夜の方がよく乾く。
主水くんが変わっているわけでは決してない。
木にロープを張って洗濯物を干す。
赤いパンツに赤いシャツ、赤いズボンに赤い靴下。
これは全てションヴォリ氏の服である。
ションヴォリ氏は着る物をまったく同じ色に揃えるのが紳士のお洒落であると信じている。
明日はここに緑の服が並ぶであろう。
主水くんはこれをとても尊敬していて自分も大人になったら是非こうありたいと望んでいる。

掃部くんの正体のこと

「あんちゃーん」
「モンドくんが帰ってきたな」
主水くんは大きな水瓶を抱えて帰ってきた。
「掃部、洗ってやるから、その汚いのを脱いだらどうだ。博士も着替えて下さい」
いそいそと着替えるションヴォリ氏の脇で掃部くんは駄々をこねる。
「いやーん」
そう。掃部くんは変な動物の皮を着た主水くんの弟で、みずみずしい子供なのだ。
掃部くんは掃除をするように生まれついたのにも関わらず汚れた皮をいつも着ていてなかなか洗濯をさせない。
主水くんに無理やり皮を剥がされたすっぽんぼんの掃部くんは、もはや変な動物ではない。

2003年11月2日日曜日

掃部くんのこと

「やあ、カモンくん。いらっしゃい」
掃部とかいてカモンと読む。ションヴォリ氏は漢字を知らぬのでカタカナで呼ぶ。
カモンと呼ばれた変な動物は持っていたホウキでそそくさと掃除を始めた。
ずんぐりむっくりがチョコチョコとホウキを動かす仕草がおかしくてションヴォリ氏はいつも腹をよじらせて笑う。
掃部くんが掃いた後はきれいになるが掃部くんのしっぽは泥だらけなので掃部くんの掃除はいつまでたっても終わらない。
「カモンくんカモンくん。まずきみのしっぽを洗ってきたらどうだい」
ションヴォリ氏がバスルームを指して言う。
悲しいかな、掃部くんはおのれのしっぽに手が届かない。

2003年11月1日土曜日

結び目

彼は抹茶色の風呂敷に白い団子を包み始めた。
「結び方によって出てくる物が違うんだ。何が欲しい?」
「チーズケーキ」
「オッケー」
彼はなめらかな手付きで花のような結び目を作るとそこに目を閉じてキスをした。
その横顔を見ていたらニガイものが胸に広がっていった。
「開くよ…ほら、おいしそうだ」
私は紅茶をいれる。紅茶をいれるのだけは上手にできるから。
チーズケーキを食べ終わると風呂敷を指して私は言った。
「これ、わたしもやってみたい」
「いいよ」
白い団子を包み、何度も何度も固く結んだ。
ギチギチの結び目はみっともない固まりになった。
彼の真似をして目を閉じ、唇を近づける。
うまくできたかしら。
「さぁ、ほどこう。何ができたかな?」
彼は結び目に手をかける。
でも解けなかった。
どうしても、何をしても、結び目はみっともない固まりのまま。
彼はちょっと怒ったような困ったような顔して私にキスをした。
彼の唇はあたたかかった。
ようやく私の心は満たされたのだった。


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500文字の心臓 第32回タイトル競作投稿作
○1

いづこに行ったのやら

ぼくの影が出て行った。理由はよくわからない。
ビルの陰を歩いているときに「ちょっと考えたいことがあるから」と小さな声が聞こえた。
日向に出るともういなくなっていた。
影がないとみんな怪しむだろうな、と思ってびくびくしながら生活しているが
どういうわけか誰も気づく者はいない。
ただ、影同士はわかるらしく、時々そばを歩く人の影法師の手がにゅっとこちらに伸びてくる。
ぼくはシッシと追い払う。

影が出て行って二週間が経つ。
昨日ぼくに新しい影ができたが、これは影がないより都合が悪い。
迷い猫の影法師。

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三日月遊園地参加作品

変な動物のこと

主水くんが井戸へ行っている間にションヴォリ氏の家に変な動物が入ってきた。
ずんぐりむっくりで、あるところは茶色く、またある部分は緑色。
大きく長い耳はダランと顔の横に垂れ下がり、顔の真ん中にはもわもわでまんまるな鼻がついている。
しっぽは太く長く、ずるずると引きずって歩くものだから砂や泥がついてごわごわだ。
身体中に12個のポケットがついていて
キャンディーやらチョコレートやらビスケットがはみ出している。
右手にはホウキを左手にはバケツを持っている。