2003年7月11日金曜日

散歩前

突然、扉がバタバタと開閉しはじめた。
「散歩に行こうか」
ぼくと小父さんは同時に言い、立ち上がった。
「さてと……どっちの道に行くかな。…道化師の所にでも行ってみるか」
「ぼくもそう思ってたところ」
ぼくたちは夜道をゆっくりと歩きだした。寂しい道化師のアトリエに向かって。
もちろん扉がバタバタしたのは道化師の「会いにきて」の合図だ。
でもここはあくまでも〔散歩がてら〕のフリをしてやらなけりゃいけない。
そうしないと道化師は「わざわざ会いにきてもらうなんて申し訳ない」って泣いちゃうんだから。

2003年7月9日水曜日

コウモリの家

��ラングレヌス」
いくら呼んでも小父さんがやってくる気配はなかった。
どうしたんだろう。ちょっと不安になってきた。
今までこんなことは一度もなかったから。
しばらくするとフクロウだけやってきた。
「小父さんは?」
{コウモリが来ない}
「それで来れないの?」
フクロウは頷いた。
「コウモリはどうしちゃったんだろう?」
フクロウは言った。
{コウモリの家へ!}
え?コウモリの家に行くの?
するとフクロウはたちまち大きくなった。
{さあ、わしの背中へ!}

コウモリの家は遠かった。そして暗かった。
コウモリは家で踊っていた。大きな声で歌いながら。
「心配したんだよ!」
コウモリは赤面しながら決まり悪そうにした。
本当は暗くてよくわからなかったんだけど。

2003年7月8日火曜日

黒猫を射ち落とした話

電信柱のてっぺんに黒猫はいた。
「これで射ち落とせ」
と小父さんから手渡されたのは、ピストルだった。
ぼくはその重みと冷たさに戦いた。
「……死んじゃうよ。やだ、やりたくない」
「いいから、やれ」
小父さんの顔はこれ以上の抵抗を拒否していた。
ぼくは銃口を上に向け目をきつく閉じた。
どうしよう、ぼくは黒猫さんを殺そうとしている。
塔でたくさんおしゃべりしたのに! できないよ!
「さあ」
小父さんの低い声に促されるように、引き金を引いた。 あまりにも軽い感触だった。
白い翼が生えた黒猫がゆっくりと降りてくる。

2003年7月6日日曜日

A TWILIGHT EPISODE

コンコン コンコンコン
窓を叩く音に目が覚めた。
カーテンを開くとフクロウとコウモリがいた。
「どうしたの?まだ夜明け前だよ」
{おもしろいものをお目にかけよう}

コウモリ傘を差してフクロウについて行く。コウモリは夜明けが近いからか、ちょっとふらふらしてる。
着いたところは黒猫の塔のてっぺんだった。
少しづつ辺りが明るくなっていく。
{よく耳を澄ませて}
―ほらほら、お月さん、白くなってきましたねぇ。ねんねの時間ですよ
―お日さんがうるさくて眠れませんなぁ
「喧嘩してる……」
{これが日と月、朝晩の儀式}

2003年7月5日土曜日

煙突から投げ込まれた話

小父さんはコウモリを呼ぶとコウモリ傘を右手に、左手でぼくをヒョイと抱えた。
ゆっくり地面が遠ざかる。三階の窓が目の前に来たときぼくは言った。
「ねぇ重くない?」
「なんのこれしき!」
ぼくは危うくため息が出そうになった。

ぼくたちは街をたっぷり二周した。
はじめは恐かったけど空中散歩もなかなかいい。
「よし……あそこだな」
「おしまい?」
「そうだ。少年、身体の力を抜くんだ。それ!」
小父さんはぼくを投げた。
ボールのように飛んだぼくは煙突に吸い込まれた。
「ストライク!」
遠くで小父さんの歓声がする。

2003年7月3日木曜日

月のサーカス

小父さんはサーカス団を持っていると言う。つまり団長だ。
「連れていって!」
「その必要はない。サーカスを連れてくるよ」
次の晩、小父さんは箱を持ってきた。
箱を机に置き咳払いをひとつして小父さんは言った。
「さあ、月のサーカスの始まりです」
「?」
「覗いてごらん」
「……全部、小父さん?」
箱の中では団員たちがさまざまな芸当を繰り広げていた。
玉乗り、空中ブランコ、綱渡り…よくよく見ると団員はすべて小父さんだ。
「さよう」
小父さんは胸を張って応えた。
ぼくは一晩中箱を覗いていた。ぼくだけのサーカスを。

2003年7月1日火曜日

電燈の下をへんなものが通った話

「あれ?」
「どうした?少年」
ぼくと小父さんはピーナツ売りの部屋でサンドウィッチを食べていた。
「今、電燈の下に何かいた」
「虫かなんかだろう」
「違うよ、もっと大きなもの」
「じゃあ、ピーナツ売りが手品を使ったんだろ」
小父さんはピーナツバターサンドに夢中だ。
六個目のサンドウィッチに手を伸ばしている。
おかげでピーナツ売りはキッチンから離れられない。
「あ、また!」
「お!」
今度は小父さんも気づいたみたいだ。
「少年、星を持っているか?」
ぼくは星の瓶を小父さんに渡した。
小父さんは星をひとつまみ、電燈の向けて撒いた。
「これで、よし。へんなのものは星に食べられてしまう」
へんなものを食べて星はおなかを壊さないかな、と聞いたら「知ったこっちゃない」だってさ。