2003年5月13日火曜日

星をひろった話

「少年よ、星を拾いに行くぞ」
と言われて着いた所は廃ビルだった。
黴臭い階段を上がり、屋上に出る。そこにはフカフカした物が床に積もっていて砂漠みたいだ。
「たくさん拾ってこの瓶に入れるんだ。でも適当はいけない。よく見て好きなのを選びな」
これが星か……冷たくて小さいけれど色も形さまざま。好きなのを選んで拾うのはなかなか大仕事だ。
ようやく瓶がいっぱいになった。
「星を一つ空に投げれば私に会えるよ。合言葉は……『ラングレヌス』」
ヒュンと口笛を吹くとコウモリが飛んできた。
小父さんは黒い傘を差して月へ帰った。

2003年5月12日月曜日

月から出た人

コツンコツン
窓を叩く音がするのでカアテンを開けてみると
ふくろうが言った。
{屋根に上ってごらんなさい}

満月の蓋がパカリと開き
真っ黒な傘を持った人が出てきた。
その人はレンガ色の屋根にするりと降り
「やあ、少年!」
と言った。
そして黒い傘をヒョイと放り投げパチンと指を鳴らすと傘はコウモリになって飛んでいった。
「やあ、少年」
と、その人はもう一度言った。
「今夜は何して遊ぼうか?」

2003年5月11日日曜日

23:00

電気を消すのは11時。オレはもう少し起きていたい時もあるけど、弟も同じ部屋で寝ているから仕方ない。
オレは椅子に座ってボーっとしてた。
暗くなった部屋ですることもないから
横になればよかったんだけど窓の外を眺めていた。
弟はまだ眠っていないのか、さかんに寝返りしている。
外には一頭の蝶が飛んでいる。ひらひらというよりふらふらと。
じっと見ていると蝶はそれに気付いたように、こちらに向ってきた。
窓を通り抜けて部屋に入ってくると
弟の上を飛び回り粉を降らせてフッと消えた。
途端に弟は寝息を立てはじめたのだった。

2003年5月8日木曜日

PM10:00

ベッドにゴロリと横になってマンガを読んでいる。
正確に言えば、読んでないな。眺めてページをめくってるだけ。
もう何度も読んでるから、内容は分かってる。
YOU GOT A MAIL!
机の上の携帯が教えてくれた。
携帯を開いて身構えた。送信者アドレスが白紙……ありえないだろ。
メッセージはまるで暗号だった。
「キサマトモダチ二ナラレマスカスグニヘンジクレゴザイマス」
貴様なんて言われたの初めてだ。親指が素早く動く。
「おまえは誰だ」送信ボタンを押す前に返事は来た。
「ソンナニツヨクオスナラバワガハイワハカイナサル」

2003年5月6日火曜日

21:00

っはあ゛~
いかん、またオヤジ声を出してしまった。
極楽極楽、なんて言わないだけマシか?
近ごろは、風呂に浸かるのも「どっこらしょ」状態である。
やはり年だろうか、それとも過労だろうか。
どちらにしても嬉しくない事態である。
フゥー
もう一度息を吐く。あれ?窓の外になんかいる。
やいやい痴漢かよ、趣味悪いな、こちとら不惑男だぜ。
立ち上がって、窓を開けようとした……。
オツカレサン ハハヨリ
窓になぞられた文字はすぐに水滴とともに流れた。
オレの顔もしょっぱい水滴だらけになった。

2003年5月2日金曜日

20:00

この時間、テレビを見ずに過ごす日は年に何日あるだろう?
もちろん遊びに行くこともある、食事に行くこともある、何か用事があることだってある。
「それ以外の日は?」
たぶんテレビが付いてないことはない。家に帰ると、とりあえずテレビ。何年もそうしてきた。面白い番組がないからといって消すこともしない。
なんだか情けないな……。
バチン
画面が白くなりアナウンスが始まった。
「私共テレビジョンの存在に疑問を持った方にお送りする特別プログラム《テレビにおける真実と虚構、もしくはその中毒性、並びに実害について》です」

2003年5月1日木曜日

19:00

ぼくは勉強机に頬杖をついていた。
母さんは夕食の支度をしてる。もうすぐ「ごはんよー」と声が掛かるだろう。
そしてあれこれ今日の出来事を聞いてくるんだ。懲り懲りだ。

何もすることがない。
何もしたくない。
頭の中にクラスの女子の顔をいくつか思い浮かべようとしたけれど、すぐに消えた。
部活の事は考えたくない。先輩は先生より絶対だなんて思わなかった。
みんなが騒ぐアイドルもどこがいいのかわからない。
「ごはんよー!」
ぼくは無言で居間のドアを開けた。
知らない女の子がいた。