2003年4月11日金曜日

AM7:00

「起きなさーい」母さんの声に続いて目覚ましもピーピーと鳴る。そしてさっきより尖った母さんの声
高校生になったオレは目覚めが悪くなった。
学校は遠くて疲れるし……好きだったMちゃんには会えない。しかも高校は男子進学校。
そう、起きる動機が非常に乏しい。
それでも学校に行かない訳にはいかず、母の声はますます狂暴になりオレは無理矢理身体を起こした。
窮屈な洗面台に立ち、半ばヤケクソになって冷たい水を何度も顔にかける。
ようやく腰を上げて驚いた。
鏡にネコが映ってる。
「おはよう。ボク、キミがかぶってるネコだよ」

2003年4月9日水曜日

朝六時

まだ暗い冬の朝、六時。
いつものように駅に向かっていた私は、妙にウキウキとしていた。
楽しみな予定などないのだが。
駅までの景色は相変わらずだ。
それに定年間近の身体には、朝の寒さがマフラーを巻いても堪えるというのに。
私は自分を訝しく思った。
「どうしたオレ?気持ち悪いくらい心がおどってるぞ?」
胸の高鳴りは、ホームに電車が入ってきた時に最高潮となった。
プーシュー

早めの通勤電車の乗客たちが私を見て一斉に叫んだ。
「久しぶりだな!元気だったか?」

2003年4月8日火曜日

午前五時

朝飯前の犬の散歩は十年来の日課である。
コースは近所の中学校を廻る1キロ強だ。
夏の早朝は気分がいい。
学校の正門までくると少しストレッチをしてから、犬と走り始める。
あれ。いつのまにか子供が一緒になって体操していた。
「おじさん、たまには違うコースにしようよ。」
「なんでいつも同じだって知ってるんだ?」
少年は答えない。
そして我々は走りだした。
少年は目的地でもあるかのようにズンズン進む。
「おじさんこっちこっち」
そこはジョンの実家だった。
ジョンの母とその飼い主の老婆は、無言の出迎えをしてくれた。

2003年4月5日土曜日

午前四時

ジャンパーとオーバーパンツを着込む。星図、双眼鏡とホットコーヒーもオッケ。
竜座流星群の観測に出掛けよう。
……というのは建前で。もちろん観測はする。
それよりもこれは年に何度かの「独りになれる」貴重な機会なのだ。
妻との関係は悪くないが、仕事に追われる毎日だ。
自分だけの時間を作るのは年々難しくなってきている。
誰にでも独りになる時間は必要だろ?

僕は秘密基地を持っていて星の観測はいつもそこからする。
本当に秘密の秘密基地だ。
流星の観測は明け方がいい。
急ごう。基地には僕が手に掛けた愛しい人が待っている。

2003年4月3日木曜日

午前三時

コンビニまで歩いて四分。
それは徹夜仕事の気分転換兼、夜食の買い出し。
毎晩決まって三時頃である。
すっかり寝静まった住宅街から、表通りに出ると眠らない蛍光灯のカタマリが出現する。
安堵と拒絶が同時に沸き起こる。
ガラスドアを押す。
「いらっしゃいませ」
おや、ずいぶん老けた声だ。
数分後、酒と弁当を抱えてレジの前に立つ。
老店員は小さな声で言った。
「……をお忘れではありませんか?」
その瞬間、僕は幻を見た。涙が独りでに流れた。

あれからその店員は見ていない。
今夜も僕はコンビニへ行く。

2003年4月2日水曜日

丑三つ時

勉強の手を休め時計を見る。
[02:00]
……こんなに遅くまで起きているのは初めてだ。
勉強しすぎちゃったなー。明日も朝練あるし、早く寝ないと。
いそいそと布団に潜り込んだ。
二時だよー。人生14年の夜更かし記録更新だぜー。
二時。丑三つ時?丑三つってなに?ゆーれーとか出るん?
20回くらい寝返りしても人恋しさは消えず、ついにテレビのリモコンに手を伸ばした。
闇に慣れてきた目にテレビは眩しすぎる。ちょっと顔をそらす。
「どうした?眠れないか?どれ、じーちゃんが昔話をしてやろう」
もう聞けないと思っていた声が

2003年4月1日火曜日

AM1:00

ブ、ブブブ……
携帯が身悶えるのは午前一時。
仕事を始める合図。
寝ている家族に気付かれぬようにそぉーとドアを開け夜の住宅街へ繰り出す。
物音が響かないようにしなくちゃ。街灯の下を通ると、自分の影に怯えたりして。
僕は一軒の家の前で足を止め二階を見上げる。鼓動が速くなる。
あの娘の部屋の明かりはついていない。
昼間だったらこんなジロジロ見れないよな。
明日は学校でオハヨって言いたいな。よし、絶対言うぜ。
再び歩きだす。軍手の手にゴミ袋を提げて。
収集日前の秘密の仕事。