2003年1月10日金曜日

はたしてビールびんの中に箒星がはいっていたか?

友人が置いていったビール瓶の始末に悩み、お月さまに相談した。
「箒星が入っているらしい、珍しいからやるよ、なんて言って置いていってしまったんです」
ただの空瓶にしか見えないそのビンを友人は大事そうに抱えてきたのだ。
お月さまは、ためつすがめつビンを覗き込み
「こりゃいかん。指名手配中の箒星ですよ」
「え……」
お月さまは私が驚く間もなく消えてしまった。
しばらくして戻ってきたお月さまは
「暴走星」
と言ってビンを返してくれた。ビンはやはり空だった。
珍しいビールが入っているかも、と期待してたのだが。

2003年1月8日水曜日

星と無頼漢

星を拾ったのは見るからにガラの悪い孤独な男だった。
皆、星に同情した。
「あんな男に拾われて可哀相ねえ」

星は、男の身の回りの世話を焼いた。
男に笑顔が戻り、身なりもさっぱりしてきた。
星は彼の子を産み、しばらくしてから再び空へ戻っていった。
だが男はもう荒むことはないだろう。
彼の妻はちゃんと彼を見守っている。

2003年1月6日月曜日

お月様が三角になった話

「トライアングル?」
「そう。トライアングル。今でも同級生にからかわれるんです」
私はお月さまに子供の頃合奏で失敗した話をした。
お月さまはトライアングルを知らないようだった。
「トライアングル……三角形……」
「そうです。三角形の金属の楽器で……」
お月さまは私の説明を聞いていなかった。
お月さまは「トライアングル……」と呟きながら自分も三角形になっていたのだ。
私が「あ!」と言ったときには元に戻って「秘密だよ」と笑った。

2003年1月5日日曜日

お月様を食べた話

黄色い飴玉を買った。缶に入ったドロップでレモン味のだ。
缶の残りが少なくなってきたころ味のおかしい飴があった。
レモン味どころか甘くも酸っぱくもなく、ガサガサしていた。
飴が傷むはずがないと思つつ、あまりまずいので吐き出して紙にくるんで屑籠に投げてしまった。
試しにもうひとつ舐めてみたが、こちらは全くおかしなところがなくますます不可解なのだった。

その夜、随分疲れた顔のお月さまに
「まずくて悪かったですね」
と言われたのでアァあれは月であったか、と了解した。

2003年1月4日土曜日

土星が三つ出来た話

太陽系の模型を作ることにした。ちょっとした遊び。
惑星の大きさを計算し、紙粘土を丸める。
そして図鑑を見ながらひとつづつ色を塗った。
小さな白い玉が私を宇宙に導く。
お楽しみは土星だ。だが土星は輪を付けるのにも工夫がいるし、
思いのほか色付けも難しかった。
結局、土星は二つも出来損ないを作ってしまった。


夜、完成した模型を肴に飲んでいた。
二つの不出来な土星を指で弄ぶ。
その時、ラジオから流れていた気持ちの良い音楽が途切れた。
「臨時ニュースです。宇宙局によると先程土星と見られる惑星が三個発見され……」

2003年1月3日金曜日

赤鉛筆の由来

赤鉛筆は言った。
「ねぇオイラの身の上話、聞きたくない?」
私は面食らった。
赤鉛筆の一人称が「オイラ」なのは予想外だったし、手の中から話し掛けられたら誰でも驚く。
「オイラはさぁ、マルバツ付けるのは本職じゃねぇんだよぉ」
赤鉛筆の喋りは湿っぽい。
「女の子が夕焼け空の下で言った。『私、夕焼けの絵が書きたいの』
それを聞いたお天道様が、茜に染まった雲を集めてオイラを作りなすったのさ。泣ける話だぜ、くぅ」

お月さまにこの顛末を話すとなぜか文句タラタラだった。
赤鉛筆の由来なんて私はどうでもいいのだが。

2003年1月2日木曜日

月夜のプロージット

静かな夜だ。
私とお月さまはテラスに出て熱燗を飲むことにした。
七輪を出して火を入れると、なかなか幸せな気分になった。
月の光がちょうどよい。星もいつになくよく見えた。
「では」
「HAPPY NEW YEAR!」
酒はただただ旨かった。
「お月さまがこちらにいる間のあの月は、何ですか?」
「それは、秘密ですよ。偽物の月はではありませんから、ご心配なく」
偽物じゃなければ何だろう?
夜空を飛び回るヒツジたちを見ていたら、眠たくなった。