2025年11月26日水曜日

暮らしの140字小説48

十一月某日、晴。冷え込む夜だ。北のから複数の消防車と思しきサイレンが近付いてくる。炎も煙も見えない。南からも多数のサイレンが近付いてくる。焦げ臭いかと鼻を利かせても冷たい夜風が鼻腔を通り過ぎるだけ。南北からのサイレンは更に増殖し融合した。一時の大音響の後、西方へ遠ざかっていった。

2025年11月21日金曜日

暮らしの140字小説47

十一月某日、晴。敷布団を買い替えた。寝返りするたび腰が痛む煎餅布団ともおさらばだ。新素材の敷布団は踏まれるのを嫌がる。「ぎゅむ」と鳴いて抗議する。寝ていればおとなしい。しかし狭小な寝室で布団を踏まずに寝起きすることはできない。「ぎゅむ」には「おやすみ」と「おはよう」で返事している。

2025年11月12日水曜日

暮らしの140字小説46

十一月某日、曇。手袋を買った。右手用の手袋だ。これもいつもと同じ店に注文して、今日届いた。左手用の手袋は今年は買わない。どうしても利き手である右手の手袋のほうが傷みが早い。利き手、というだけではない気もする。右手には敵が多いのだ。鳥、あれは私の右手に輝く羽根を刺そうと狙っている。

2025年11月11日火曜日

暮らしの140字小説45

十一月某日、晴。近所にピンク色の老ビートルがいて、独りで機嫌よく走りに出掛けるのを見掛ける。昔、同色のビートルのミニカーを持っていた。やはり独りで走りに出るのが好きで、家の中の思いも寄らぬところから飛び出してきて、驚かされたことを思い出す。ピンクのビートルはお調子者のようである。

2025年11月5日水曜日

暮らしの140字小説44

十一月某日、晴。来年の手帳を用意する。黒い表紙の小さな手帳だ。いつもの文具店で毎年同じものを求めて、8冊目となった。早速いくつかの予定を書き入れる。新しい手帳だからといって、丁寧な字で書くこともしなくなった。少し迷ってから誕生日に印を付ける。来年も変わり映えのない年であるように。