2019年2月9日土曜日

遠い地面

雷鳴に押しつぶされ、身体が紙のように薄くなったように感じた。
いつの間にか身体の感覚が戻り、目を開けると、上空にいた。
気球に乗っていたのだ。
「ここはどこだ?」
気球に乗っているということはすぐにわかったのに、思わずそう呟くと、懲りずに付いてきたと見える赤い鳥が言った。
「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方は此処は何処かと問うておる!」
「まもなく街に到着します」
操縦士がいることにそれまで気が付かなかったことに驚いたが、言葉も通じるし、音色もおかしくはなさそうだ。

気球を降りる前に、慎重に周囲を見渡す。街の景色は、元居た街とは異なる雰囲気が少しあるものの、何かが酷く違って見えるわけではなさそうだ。

だが、その「異なる雰囲気」が何であるかは、地面に降りようとして、すぐに気が付いた。
地に足が付かないのである。