2019年2月4日月曜日

プレスティッシモ

衝撃的な音が身体に堪える。が、他の観客たちは、恍惚の面持ちで、音楽に身を任せているようだった。
やはり、この街にも長くは居られない。次の街に行こう。
そう思ったところで、音楽は鳴りやみ、観客は一斉に立ち上がり、拍手を始めた。ガラス瓶が割れるようなスタンディングオベーション。

指揮者が振り向いた。美しい人だった。
鼓動が高鳴る。鼓動までが、違う音……古いメトロノームの音とそっくりであることに気づき、一層、激しくなる。

今まで置物のように動かなかった赤い鳥が歌い出した。
「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方を然るべき儀式で送る者はおらぬか!」
美しい人と、視線が合う。手招きをされた。隣の客も微笑み、促す。

仕方なく舞台へ向かう。その間も赤い鳥は歌い続けた。
「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方を然るべき儀式で送る者はおらぬか!」