2019年2月19日火曜日

浮遊の法則

ハイハイのなんと心地よいことか! 地面から浮かないことがこんなに素晴らしいことなんて!
這って歩く恥ずかしさも忘れて興奮する。

小さい人の匍匐は思いの外、速い。置いて行かれないように付いていく。
必死で進みながら、気が付いた。つまり、四点以上を使っての歩行ならば、浮かずに歩けるのだ。
共に地面を歩く猫や、犬や、蟻に、急に親近感を抱く。
両手に杖を持つ人も地面を歩いている。這って歩くより杖を入手したほうがよかったのではないか? いや、今考えても仕方がないことだ。

そして、四点以上使って歩く者は、浮いた物の下を通過できること……。蟻や、子猫は、3インチ浮いた建物の下を、さもそこも道であるという顔をして、そのまま通っていく。高層ビルの下に、手ぐらい入れてみようかと思ったが、やはりどうにも恐ろしくてできなかった。

さらに這って歩いて気が付いたことは、もう一つ。浮き具合は、必ずしもぴったり3インチというわけではない。
どうやら、「古いほどよく浮く」ようなのだ。人間も例外でなく、老人は少し高く浮いている。

今まさに、この街でおそらく最も古い建造物のひとつであろう、朽ち掛けたレンガ造りの建物の下に、先導する小さい人は迷いなく進んでいこうとしている。