季節外れの桃を買った。八百屋の親父さん曰く「ペット用? 観賞用? だかの桃らしいんだが俺もよくわからん」重さも触り心地も桃そのもの。よい香り。やさしく撫でると微かに身震いする。寿命はわからない。食べる桃ならとうに腐っているはずだ。甘い香りが強くなってきた。気のせいだと思いたい。(137字)
2023年10月17日火曜日
2023年10月4日水曜日
#イメージの色見本 ④秋
冷たい風が首筋を駆け抜ける。踏切はなかなか開かない。天高く警報音が鳴り響いている。空を見上げれば雲のふりをした鰯が泳いでいる。今年は雪が積もる前に故郷に帰ろうか。そんな事を考えていたらやっと電車が見えてきた。いや、電車のふりをした龍だ。(118字)
2023年10月1日日曜日
2023年9月20日水曜日
#イメージの色見本 ③故郷
急坂の途中の林でザリガニを釣ってはいけないよと大人は言う。沼に落ちた子は帰ってこない。「どんぐり拾いは?」と問えば「それはどんぐりに訊いてみな」と言われた。「どんぐり拾っていいですか? イテ」つむじに命中するどんぐり。今年も許可が出た。(117字)
2023年9月15日金曜日
#イメージの色見本 ②音
今夜、美術室で眠ることになった楽器たち。音楽室と違う様子に大興奮、絵具で遊び始めた。「この色は私の音とそっくり!」とファゴット。「なんて美しい色だろう」とホルン。「これは僕の色だよ」とトランペット。「こんな色で歌いたい!」とフルート。(117字)
2023年9月13日水曜日
果実戯談 サクランボ
鍵屋に「鍵ちょーだい」と言えば「やってもいいが、そのサクランボと交換だ」という。鍵が手に落ちた瞬間、サクランボになる。違う、鍵が欲しいのに。約束だからサクランボを鍵屋の手に落とす。何度やっても鍵屋の手には鍵。時々、青い嘴がサクランボの瞬間だけ攫っていく。鍵は、いつ手に入るだろう。(140字)
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