長く激しい雨だ。衣服はとうに乾くのを諦め、じっとりと重い。毎日、短い詩を書き付けていた日記帳は湿気で膨れ上がった。インクは滲み、読めなくなった。雨が盗んでいったのだ。私の詩は川に流れ、海に出て蒸発し、雲になり、そして星々に読まれることだろう。(121字)
2023年5月13日土曜日
2023年4月29日土曜日
2023年4月26日水曜日
#春の星々140字小説コンテスト 「明」投稿作
ここはあまりにも透明で、呼吸を忘れるほどに美しい。そうだ、忘れたのではない。ここは水中なのだ。デクレシェンド。酸素を探しながら、そっと息を吸う。私は魚になってしまったのかしら。いいえ、だってこうして大勢の観客を前にピアノを弾いているもの。私の音色は水に溶け、遠く遠くへ泳いでいく。(140字)
2023年4月17日月曜日
#春の星々140字小説コンテスト 「明」投稿作
何もしないと決めた日曜日、椅子に座り部屋に入る日差しをただただ見ていた。部屋は思った以上に刻々と変化する。春の明るい日差しを感じながらハムレタスサンドを食べた。西日に照らされて輝く埃を見て、掃除したくなるのをぐっと堪える。電気も付けず暮れるのに任せていると月が笑うのがよく見えた。(140字)
2023年4月11日火曜日
風が強いので宣伝
強風で古傷がスゥと痛む。傷跡から紙の尻尾がはみ出る。引っ張り出す。「ぅぐ」毎度の事だが、かなり痛い。紙片には手書きで文字が書いてある。読みやすいとは言えない。4枚目にして大昔に存在したケッタイな本屋の話だとわかってきた。続きは次の強風で。(119字)
2023年4月7日金曜日
風が強いので宣伝
橋の下に看板を拾いに行く。風に飛ばされた看板の吹き溜まりがあるのだ。飛ばされた看板はなぜか小さい。かつては堂々としていたであろう看板を摘み上げてはポケットに突っ込む。金属製の看板には要注意だ。手を切る。猫に引っ掻かれたのとそっくりの傷だ。(119字)
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